第九話 だいくはしっとるのだぞ。おうちをつくってくれるのだ。『第九話だね』
手術室。
C.C.がHM-1のスイッチを押すと、機械は問題なく動き始めた。
「スタートシテクダサイ」
麻酔で眠ったヒツジみぃの顔を見て、C.C.はメスを取る。
腹部を切開した瞬間、周囲の外科医が息を呑む。
そのとき、あめちゃんの携帯が鳴った。
「……これは?」
画面に表示されたのはプログラム。
あめちゃんは一目で理解する。昨夜、C.C.から聞いたHM-1の制御コードだ。
──だが、根本から『違う』。
差出人は、C.C.。
「今……?どうやって……?」
分からない。
だが意味は分かる。
これに書き換えろ。
目の前に、HM-1のサブ操作パネルがある。
あめちゃんはガラス越しに叫ぶ。
「三分だけ待ってくださいですわ!」
手術室の医師たちは、なぜ手術が止まったのか分からず騒然とする。
三分という時間が、長い。
三分後。
「書き換えが終わりましたわ!」
あめちゃんが言い、スタートボタンを押した。
HM-1の側面から、腕が四本追加で伸びる。
合計六本。
医師が思わず問う。
「あれは……?」
「あれは裏プログラム。アシュラシステムですわ」
「アシュラ……?」
HM-1は六本の腕を使い、信じがたい速度と精度で患部を摘出していく。
十分も経たないうちに、それらはすべて取り除かれていた。
「手術は……成功ですわ」
安堵が走った──はずだった。
「シュジュツフカノウ、シュジュツフカノウ」
HM-1が再び警告音を鳴らし始める。
その場の全員が音に驚く。
だが、ただ一人──カルテを見ていた医師だけが、別の『事実』を見つけていた。
「何でなんだ!!」
C.C.が叫ぶ。
「これで、すべてが変わるはずなのに……なぜ、まだ僕はここにいるんだ!」
そのとき、キャサリンの携帯が鳴った。
「こんにちは、キャサリン」
あめちゃんの声。
「なぜ私がキャサリンだと……?兄でさえ気づかなかったのに」
暗殺任務を受けた後、キャサリンは顔も経歴もすべて変えていた。
別人になれたはずだった。
だが、あめちゃんは答えない。
代わりに淡々と言った。
「未来が予測出来無い理由が、やっと分かりましたわ」
間があって、続く。
「──後十五分で、この世界が終わる」
「世界が……終わる?」
「ええ。三十八年前にお兄様の手術をしたお父様が、今、何をしているのか。お分かりかしら?」
そこで電話が切れた。
キャサリンは覚悟を決め、言った。
「Dr.C.C.」
「なんだ。ちょっと黙っててくれないか」
「私は、あなたを殺しに来ました」
「それがどうしたっていうんだ!」
「……私にはあなたを殺せない。だから、その機械を国に返してくれませんか?それを使って、この世界を終わらせるんでしょう?」
涙が出てきた。
「でも、私にはあなたを殺せない!だから、返してくれませんか!」
「それは出来無い」
静かに、だがきっぱりとC.C.は言った。
「僕に出来るのは、君にこの場のBGMを選ばせることだけだ。そこにレコードがあるだろう?好きな曲をかければ良い」
「世界の終わりに聴く……最後の曲、ということですか?」
C.C.は答えない。
腕を組み、行ったり来たりを繰り返す。
キャサリンは一枚のレコードを選んだ。
恩人は殺せない。
だが世界を終わらせる訳にもいかない。
彼女は時限爆弾のスイッチを押した。
「後三分で爆弾が爆発します。だから、一緒にここを離れましょう」
その瞬間、流れたのは──
The Jimi Hendrix Experience
『If 6 Was 9』
C.C.は、一つの結論に辿り着いていた。
『二人が出会わなければ、ヒツジみぃは今もどこかで生きている』
獅子座流星群の日から、分かっていた。
だが彼は三十七年間、それを拒み続けた。
アシュラシステムですら、ヒツジみぃを救えなかった。
だからこそ──『戻す』しかない。
キャサリンが縋るように服を掴む。
「早く!時間がありません!ここを離れましょう!!」
C.C.はその手を払い、たった四つの単語を入力する。
キャサリンは、C.C.が爆弾で世界を壊そうとしていると思い込んでいる。
「もう十秒しかありません!」
そう言い残し、キャサリンは地下室から逃げていった。
C.C.は、三十七年かけて見つけた『すべてを元に戻す言葉』の送信ボタンを押した。
六……
五……
「未だか、未だか!!」
四……
送信中
三……
「行け、行け!!」
二……
一……
送信完了
「やった……!!」
同時に、地下室は光の爆発に包まれた。




