私は月の卵の管理人ですから
もっと続くかと思ったら、もう最終回です。
私はハデス様の目を見ながらゆっくり、大きな声で言った。
「ハデス様、私はイチジクを食べなくてもハデス様のことが大好きです。どこにもいきません。目を覚ましてください。私の心の声を聞けばわかるでしょ?」
ハデス様の手がピタッと止まった。でもまだ目は私を見ている。そしてつぶやくように言った。
「エマの本当の気持ちを知ったら、エマが僕の事を嫌いだったらと怖くて読めなかった」
「ハデス様、じゃあ言葉で何度でも言いますよ。私はハデス様を一人にはさせませんよ。一緒に二人でご飯を作って、カルちゃんと遊んで、ハデス様がつらい時はいつでも抱きしめてあげます」
ハデス様の目からぽろっと涙が落ちた、そして目の色がいつもの優しいダークブラウンに変わった。
そしてゆっくり私のことを抱きしめた。
私はちらっと卵をみると、黒になりかけていた卵の色がやや薄くなってきてる。
「ハデス様、私の月の卵の管理人の仕事ぶり見ていてくださいね」
そういうと、ハデス様の腕からするりと抜け出て、ハデス様が作ってくれた手袋をしてやさしく卵をなでる。
「ハデス様はもういっぱい頑張っているから、今度は私が頑張りますね。二人でいっぱい幸せになりましょうね」
卵の色はみるみると乳白色になり、それからピンク色に変わった。
そして、近くにあったピンクの卵に向かって光を出し始めた。
「エマの卵だ」
「え?私のもあるんですか?」
「あんなに近くにあったのに気が付かなかったな、僕に素敵な恋をしてくれてありがとう」
ハデス様は私をまた抱きしめて、おでこにキスをしてくれた。
その瞬間、二つの卵は消え去り、空から赤い結晶が降ってきた。
ハデス様はそれをキャッチして、私に見せてくれた。
「これで作ったランタンは、僕たちの寝室に飾ろうか?迷ったら困るものね」
「寝室で迷うわけ。。。いま何を考えていたんですか?絶対私と違うこと考えている」
ハデス様は私の耳元で
「家に帰ったらゆっくり教えてあげるよ」ってささやいた。
そして私たちはピクニックをしながら、ほかのピンクの卵たちが赤い結晶を作るのを見守った。
「やっぱり、私たちのが一番きれいだと思う」と私がいうと。
「エマのほうがどんな結晶よりすてきだよ」って。この人結構タラシだな。
「あの結晶ってランタン以外にもなります?宝石みたいにネックレスとかにしたいな」
「じゃあ指輪でも作ろうか?いつも一緒にいられるように」
「大賛成です!」
そして次の満月がくる5日前、セレーネ様と恋人が村にやってきた。
セレーネ様は。。。。どうやら赤ちゃんがいるみたいだ。
「ハデス、エマ、ただいまー、あれ?あなた達おそろいの指輪をしているの?それって愛の結晶よね」
さすがセレーネ様は目ざといな。ハデス様は私の手を取って。
「エマは僕のお嫁さんになるんだ、祝福してくれるかい?」
セレーネは嬉しそうに
「もちろんよ、初めてエマを見たときからハデスが好きそうって思ってたのよ、私はやっぱりすごいわね」
いえ、あなたは私が普通だからいいって、かなり適当に選びましたよね。
「いつ結婚するの?いつ子供つくるの?早く生んでくれたら、私たちの子供と一緒に育てられるわよ」
そ。。。それはどうかな。私がハデス様のほうをちらっと見ると、
「僕たちは二人の時間をもう少し楽しみたいんだ。200年ぐらいは二人でいいかな?子供はおいおいね」
「200年?私はそんなに生きられるんですか?」
「もちろんだよ、200年どころか永遠にね。ほら初めてしたとき。。。。。」
「わーーーーもう言わないでいいです、なんとなくわかりました」
「私と彼はどんどん子供作るからね」とセレーネ様が意気揚々といった。
私はセレーネ様の恋人をみると。やや疲れた顔をしている。
その言葉は間違いではなく、セレーネ様はこれから50人の娘を生むことになるのだが、それはまだ誰もしらない。
それからも私はハデス様と一緒に冥府の仕事をしつつ、月の卵の番人の仕事をしている。冥府の神殿に住んだり、山の上の家に住んだり、私たちとケルちゃんはいつも一緒だ。
ハデス様はいつも1人で多くの仕事を抱え込んでて、お身体が心配でしたって部下の方から言われたので、ハデス様は自分が思っているより、周りの人達に慕われていたのがわかったみたいだ。
さて、今日の仕事はそろそろ終わりかな?
日の光が月の卵の姿を隠す、楽しい恋も辛い恋も日の光の下ではみんな一緒になる。
それを見届けて私はハデス様と手をつないで家に帰る。
「ハデス様、私達のお家に帰りましょうね」
大好きな人と一緒にずっといれる。これから二人で何をしようか考える。
私が一番大好きな瞬間だ。
セレーネは最後まで自由人でした。
この話はMrs Green Appleさんの「慶びの種」を聞いて思いついた話でした。




