黒い卵
この村に来てもう何回目の満月だろうか?
私とハデス様は満月の日は月の卵の畑にくるが、それ以外はランタンを作ったり、ハデス様が冥府で審判をするときは、一緒に行って書記のような仕事をしている。
ハデス様が言った通り、文句を言ったり、抵抗をする魂もいて怖い時もあるけど、ハデス様はこっそり私の手を繋いでくれてるし、ケルちゃんが私を守ってくれている。
ハデス様には3人の部下がいて大抵その人達で審判はできるんだけど、難しい案件はやっぱりハデス様にところに来るのよね。
実はケルちゃんは3つの頭で魂の過去、現在、未来を見れるんだって。それをもとにハデス様は審判を下すんだって。
ハデス様はお仕事にもすごく真面目に取り組むから疲れちゃうんだろうな。
なので、休める日は本当にゆっくりしてもらうことにした。私だって家事ぐらいでできるし、ご飯だってハデス様ほどじゃないけど作れるから。
ハデス様のキッチンを使わせてもらって、カップケーキを焼いたときは本当に喜んでくれたし。
最近はランチや夕食も交代で作っている。
今日は満月の日だ。ハデス様はお仕事が忙しいので私が夜食を作る。何をもっていこうかな?卵の日だから、卵サンドとかもいいかも?
サンドイッチ、おやつ、ドリンク、もちろんケルちゃんのクッキーをバスケットに入れて出発だ。
「ハデス様、準備できました。そろそろ行きます?」
「。。。。。。。」
「ハデス様?大丈夫ですか?」
机で難しい顔で手紙を読んでいたハデス様はやっと顔を上げ。
「エマ、ごめんね、声をかけてくれたのに気が付かなかった。ちょっと待ってね、すぐ行くから」
ハデス様は寝室に入っていった。トイレかな?
次の瞬間、寝室のほうから大きな音ができてびっくりしてしまった。
ハデス様が大丈夫か声をかけようとしたら、ドアがあいてハデス様はでていた。
心なしか目が赤い気がする。
「大きな音がしましたが、大丈夫でした?ケガとかしてないですか?」
「エマ、ありがとう大丈夫だよ。物を落として足に当たってちょっと痛かっただけで、直ぐ治ったから」
「ハデス様は忙しいんですから、無理しちゃだめですよ。ゆっくり歩きましょうね。足が痛かったらすぐに言ってくださいね」
私はハデス様の手をとって歩き出した。ハデス様はぐっと私の手を握って、
「エマは本当に頼りになるよ、ありがとう」と言ってくれた。
私はうれしくてニコニコしてしまった。
いつものように、月の卵の畑について、色の変わった卵を見つけては応援して拭いていると。
初めて見つけてしまった。
黒い卵を。
そして周りの卵が変色し始めている。黒い卵の強い嫉妬がまわりも引きずってしまうのか。
「ハデス様ーーー!!!!」
私はあわててハデス様を呼んでくる。
「これは周りへの影響力が強いな、すぐに壊さないと」
どこから出てきたのか、ハデス様は槍のようなものを取り出した。
ハデス様はすこし考えるようにしていたが、息を吐いて一気に槍を卵に突き刺した。
その瞬間、悲しい女性の叫び声が聞こえて卵はわれた。
ハデス様の顔色があまり良くない。
「ハデス様、休憩にしましょうか」
私はハデス様を座らせて、甘めにいれた紅茶と卵サンドを差し出した。
ハデス様は紅茶を飲んで、
「甘くてほっとする」と言ってくれた。
「本当は黒い卵であっても、卵は壊したくないんだ。どんな形であれ、あれは人の恋のかたまりだ。それを僕が終わらせる資格なんてないんだよ、でも誰かがしないともっと悲劇が起こる、嫉妬にかられた恋を持つものは何をするかわからないし、周りを巻き込んで相手を傷つけることもあるからね」
私は肩を落とすハデス様にブランケットをかけながら、
「なんで、ハデス様ばかり大変なお仕事をしているんですかね?冥府の神は何をやっても大丈夫とか思ってるんですかね。ハデス様だってつらい時は無理しなくていいんですよ、私は仕事のお手伝いしかできませんが、愚痴ならいくらでも言ってくださいね、それでスッキリするなら私もうれしいです」
そう言い終わらないうちに、私はハデス様に後ろから抱きしめられて、ハデス様の膝に乗っていた。
「え?え?」
「ごめん、すごく寒いんだ、ちょっとでいいからこうやって温めてほしい」
泣きそうな声で言われてしまって、私はハデス様の手をにぎった。
「暖かくなるまで、ゆっくりしましょうね。ケルちゃんもおいで」
私たちの周りで心配そうに見ていたケルちゃんも、私が呼んだら嬉しそうに寄ってきた。
私はケルちゃんを抱いて、ハデス様は私を抱く。
「みんなでくっつくと暖かいですね」と私がいうと。
「そうだね、すごく安心する」といってハデス様は私の頭にキスをした。
悲しい時にあったかくてモコモコしたものを抱えたいですね。




