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冥府へ

美味しいマドレーヌを食べていたら、ケルちゃんはつぶらな6個の瞳で私を見ている。


ハデス様は棚のクッキージャーから細長いクッキーを3つ出して。


「マドレーヌは砂糖が多いから、君たちはこっちね」


「もしかして、それも手作りですか?ハデス様はなんでこんなに美味しい物が作れるんですか?」


「僕は冥府の神だからねえ、みんな怖がって近づいてくれなくて。そうしたらセレーネが言ったんだ、胃袋を掴んだら友達が増えるよって。結局はあいつが家事をしたくないから、僕にやらせたかっただけなんだけど、でも確かにみんな僕の料理が好きでね。エマもそうでしょ?」


ちょっと寂しそうな顔をしているハデス様を見て、私はたまらず言った。


「私は料理も好きですが、ハデス様が優しい人だから好きですよ。ハデス様がいなければここでこんなに楽しく暮らせないですし」


「。。。。。」


ハデス様が黙ってしまったので、何か悪いことでも言ったかと、ハデス様を見上げると、顔を真っ赤にしたハデス様がいた。美形がデレると破壊力抜群だな。


すごい小さな声で

「。。ありがとう」って言ってくれた。


心の声がわかるハデス様なら、私の考えている事とか知ってると思ったけど。聞かないでくれてるのかな?


いつもの通りに食器は私が洗って、その間にハデス様はランタンをまとめて袋に入れていた。


「エマ、じゃあ行こうか、ケルちゃんもおいで」


ケルちゃんは尻尾をブンブン振りながらやってきた。ケルちゃんが好きなら、冥府も怖くないのかな。


作業場の反対にあるドアを開けると、ブワッと冷たい空気が流れてきた。ちょっと緊張して震えた私を見て、ハデス様は

「寒いかな?何か羽織るものいる?」と言った。

「大丈夫ですよ、ちょっと緊張しただけで、なんせ冥府は初めてだから」


「そっか、エマにはもっと慣れてもらわないとね、手を出して」


ハデス様は袋を持ってない手で私の手を握ってくれた。


「これで怖くない?」


怖くないけど、私の心臓が別の意味でドキドキする。


「だ。。大丈夫です。ハデス様、お荷物大丈夫ですか?私も半分持てますよ」


ハデス様はちょっと驚いた顔をして。


「大丈夫だよ。このバックには空間魔法が使われてるから、いくら入れても重くないんだ」


「へーー便利ですね、なんでも入れれるんですか?」


「うん、なんでもね」


なんか含みを持たせた言い方だけど、


冥界は真っ暗なイメージだったけど、薄暗い夕方のような明るさ。


「冥府って朝はあるんですか?」


「朝はこないね、すっとこんな感じの暗さだね、気になる?」


「いえ、面白いなと思って。私は暗くなると眠くなっちゃうから、ここに住んだらずっと寝ちゃいそう」


「眠っているエマもきっとかわいいからいいね」って激甘スマイルでいわれてしまって、もっとドキドキしてしまう。


話していると、すこし大きな道にでた。


「ランタンはどこに設置するのですか?」


「このメインの道にね、冥府に来た魂はこの道を通ってあの神殿に行くんだよ、そこで僕が”審判”を下して、次に行くところを決めるんだ」


「ハデス様が決めるんですか?忙しいですね、私にご飯作っている場合じゃないのでは?」


「料理はストレス解消だからね、公平にしているのに文句言ったり、死んだ魂を取り返しにくる奴とかもいて大変なんだよ。いつもは満月の日が終わったら直ぐに帰るんだけど、部下たちがすこし休んだほうがいいっているから、地上にいるんだ。ここだよ」


確かに神殿に続く道の脇にはランタンが一定間隔であったが、このエリアは真っ暗だ。


「エマが手伝ってくれたから、いつもより多くできたよ。ありがとう」


ハデス様は手早く道の脇にランタンを設置していく。ランタンの光はすごく明るいわけではないが、なんか安心する光だ。


「愛の結晶をつかうことにしてから、やってくる魂もすこし落ち着いて”審判”を受けれるようになってね、手間はかかるけど効果があるんだ」


どこの世界にもクレーマーってのはいるのね。ハデス様は魂の運命を決めるんだからすごい責任よね。気が付いたらハデス様の頭をなでていた。


ハデス様はこっちをぼおっと見ていたが、にっこり笑って。


「エマ、男は女の子にやさしくされるとつけあがっちゃうから、気を付けて」


「は!すみません、つい!」


私はハデス様の髪の毛が思ったより柔らかくて気持ちいとか考えていて、ハデス様がつぶやいた最後の言葉は私には聞こえなかった。


「本当に帰せなくなっちゃうから」










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