空席の季節
【オンボーディングカード】
任務:席#0の真実を公開せよ。
世界観:言葉と儀礼が現実を微調整する。
ルール:行為 → キーワード → 代価 → 報酬。
主人公:規則で航行するスパイン。
ヒロイン:声で合唱を断ち切るルシ。
敵:停止の教団 Null/展示の Curator/遅延決済の Pallor。
楽しみ:文句決闘・儀礼パズル・公開戦・報酬開封。
安全:R15(直接的ゴア・露骨表現なし)。
展示は、死んだ物語だった。
歌はガラスに封じられ、約束は額に打ちつけて売られる。
人は安心する。
安心はたいてい、誰かの代価でできている。
俺の仕事は、その代価を記すこと。名はスパイン。
白いホールごとに椅子が並び、中央だけ一席が空く。
席番号ゼロ。
真夜中の浜で引き上げた青年が残した負債の座標。
物語を再び動かすスイッチ。
「ガラス港。黒真珠コアがまた展示ルート」
ルシのボイスリングが青く点滅した。
「保存は停止の別名だ」
俺はボタンラインを正し、カラビナのコンパスを叩く。儀式タイマーが起動。
「関税キーワードは『静かな約束』。入場行為は33秒の浸水。代価は――子守歌の一音節」
「一音節なら、安い」
浅い水が足首を冷やす。
四吸二呼。舌先に音節を載せる。
ラ――滑った。空白。
コーデックスの奥で、カチ、と記録音。
この都市は名を呼ばない。代わりに、足が証言する。
監理官がファブリックバンドを巻く。「三歩だけ」
左。停止。右。
ルシの足首が一度だけ折れ、リングが二度、短く点滅。
「通過。裏面の紋様は消さないでください」
招待状の金箔は擦り切れている。
縁に微細なパンチ穴が三つ――0|0|0。
夕暮れ、防波堤の先に椅子のサイン。数字は0。
誰かが席を商品にしている。
「ラキナ」ルシが低く言う。キュレーターの競売人。
「席を開く……いや、売る」
波は同じ形で三度、砕けた。
その間に、無音の一拍。
標識の裏、ラベルの縁で赤い糸が揺れる。
縫合線。文書と席を縫いつけた跡。
俺は糸を取らない。コンパスを叩く。針は席を指す。
金箔の下の数字が、ごく微かに光った。逃げ遅れた文字のように。
展示は死んだ物語だ。だが、ライブは違う。
公開の場で、証言・儀礼・報酬が同時に開く。
そこでは遅延決済は効かない。
「席#0の実物を確認する」
俺は標識に手を置く。
「競売なら規則で。展示なら、ライブへ」
【次回予告】プロローグ「アーカイブ・ゲート、契約の門」――行為→キーワード→代価→報酬、そして通行徴標鋳造。




