前世で負けた宿敵に今度こそ勝ちたくて転生したら、相手も転生していて因縁が続いていた件
死の瞬間、俺は何を思っただろう。
病院のベッドで、点滴に繋がれながら、天井のシミをぼんやり眺めていた。
45歳。まだ死ぬには早すぎる年齢だった。
だが、心はとっくに死んでいた。
会社を奪われ、財産を失い、信頼していた仲間に裏切られ——生きる理由なんて、もう何もなかった。
「鷹山...龍也...」
最期に口にしたのは、俺を裏切った男の名前だった。
意識が遠のいていく。
これで終わりだ。そう思った。
なのに——
目が覚めると、俺は見知らぬ部屋にいた。
「......は?」
最初に出た言葉は、間抜けな驚きの声だった。
ここはどこだ。病院じゃない。
天井が違う。壁も違う。何より、体が軽い。
慌てて体を起こす。部屋を見回す。
大学生の一人暮らしのような部屋だ。
机の上には教科書とノートパソコン。
カレンダーには、見覚えのある年号が書かれている。
「これは...過去?」
震える手で、机の上の学生証を手に取った。
神宮寺颯太。22歳。
知らない名前だ。
知らない顔だ。でも——
鏡を見て、俺は驚愕した。
「若い...」
鏡に映っているのは、確かに学生証の写真と同じ、20代くらいの若い男性だった。
信じられない光景に、俺は自分の頬を叩いた。
痛い。夢じゃない。
つまり、これは——
「転生...したのか?」
でも、本当の俺は違う。
前世で45歳まで生きた、IT企業の社長だった。
会社を立ち上げて、順調に成長していたはずだった。
でも、あの男に全てを奪われた。
鷹山龍也。
俺のビジネスパートナーだったはずの男が、裏で株を買い占めて、会社を乗っ取った。
俺は全てを失い、破産して、失意のまま病気で死んだ。
「今度こそ...」
俺は拳を握りしめた。
過去に転生したなら、今度こそあいつに勝つ。
幸い、前世の記憶は全て残っている。
45年分の人生経験と、未来の知識がある。
「まずは資金作りだ」
俺はノートパソコンを開いて、自分の口座を確認した。
バイト代で貯めたらしい50万円がある。
前世の記憶を頼りに、これから急騰する株を調べた。
来月、大手製薬会社が画期的な新薬を発表する。
その株は3倍になるはずだ。
俺は全額をその株に投資した。
一ヶ月後、予想通り株価は急騰した。
50万円が150万円になった。
「よし」
次々と投資を重ねて、半年後には資金が1000万円を超えた。
「これで軍資金は確保できた」
俺は大学でも優秀な成績を収めていた。
前世の経験があるから、授業も試験も余裕だった。
経済学の教授からも一目置かれるようになり、ビジネスコンテストでも優勝した。
「神宮寺君、素晴らしいプレゼンだったよ」
教授が俺を褒めてくれる。
「ありがとうございます」
順調だった。
このまま前世のように会社を立ち上げて、今度こそ成功する。
そう思っていた矢先、運命の再会が訪れた。
大学の講堂で、起業家を招いた講演会が開かれた。
「本日のゲストは、若手実業家の鷹山龍也さんです」
司会者が紹介すると、壇上に一人の男性が現れた。
俺は凍りついた。
「鷹山...」
あの男だ。前世で俺を裏切った男。
でも、おかしい。
前世では48歳だったはずなのに、今は23歳くらいに見える。
「まさか...」
嫌な予感がした。
「皆さん、こんにちは。鷹山龍也です」
鷹山が話し始める。
「私は去年、AIを活用したマーケティング会社を立ち上げました」
俺は愕然とした。
そのビジネスモデルは、俺が来年立ち上げる予定だったものと全く同じだった。
「このビジネスの将来性は...」
鷹山の説明は完璧だった。
まるで今までも経験があるように。
講演が終わった後、俺は鷹山に近づいた。
「素晴らしい講演でした」
「ありがとうございます。あなたは?」
「神宮寺颯太です。同じ大学の学生です」
鷹山が俺をじっと見つめた。
その目には、何か探るような光があった。
「神宮寺...颯太?」
「はい」
「面白い名前ですね。どこかで聞いたような...」
鷹山が意味深に笑った。
「気のせいでしょう」
俺は冷や汗をかいていた。
もしかして、鷹山も転生者なのか?
「神宮寺さん、投資で成功してるって噂を聞きましたが」
「少しだけ...」
「どの銘柄ですか?」
「バイオテック関連です」
「ああ、例の新薬の件ですね」
俺の心臓が止まりそうになった。
その新薬の情報は、まだ公表されていないはずだった。
「先輩も投資されてるんですか?」
「ええ。未来を読むのが得意なもので」
鷹山が確信を持った笑みを浮かべた。
「神宮寺さん、今度時間があれば、投資の話でもしませんか?」
「...はい。ぜひ」
俺は確信した。
鷹山も転生者だ。
そして、前世と同じように、俺を狙っている。
その夜、俺は一人で考えていた。
鷹山が転生者なら、前世と同じように俺を潰しにくるだろう。
「負けるものか」
俺は決意を固めた。
今度こそ、あいつに勝つ。
翌日、俺は親友の藤原健太に相談した。
「健太、俺、会社を立ち上げようと思ってる」
「マジで?何の会社?」
「AIマーケティングの会社だ」
「それって、昨日の講演会の鷹山って人と同じジャンルじゃん」
「ああ。でも、俺のほうが優れたシステムを作れる」
前世の知識があるから、技術的には鷹山より上だ。
「分かった。良ければ俺も手伝うよ」
「ありがとう」
健太は前世にはいなかった友人だ。
今度は、信頼できる仲間と一緒にやる。
会社の準備を進めていると、大学で一人の女性と出会った。
「あの、神宮寺さんですよね?」
振り返ると、綺麗な女性が立っていた。
「はい」
「私、桜井美希といいます。経営学部の3年生です」
「桜井...さん」
「神宮寺さんが起業するって聞いて、ぜひお話を聞きたくて」
美希は目をキラキラさせていた。
「私も将来、起業したいんです」
「そうなんだ」
「神宮寺さんのビジネスプラン、すごく興味があります」
美希の熱意に、俺は心を動かされた。
「それじゃあ、今度詳しく話そうか」
「本当ですか!ありがとうございます」
美希が嬉しそうに笑う。
その笑顔は、純粋で眩しかった。
数日後、俺は美希とカフェで会った。
「それで、どんな会社を作るんですか?」
「AIを使ったマーケティングシステムだ」
「それって、あの鷹山さんの会社と同じですよね」
「ああ。でも、俺のシステムはもっと精度が高い」
「すごい...」
美希が感心している。
「美希さんは、どうして起業したいの?」
「私、人の役に立つサービスを作りたいんです」
「人の役に立つ...」
「はい。お金とか名声とかじゃなくて、本当に誰かを幸せにできる仕事がしたいです」
美希の言葉に、俺は少しドキッとした。
前世の俺は、金と名声ばかり追いかけていた。
「いい目標だね」
「ありがとうございます。神宮寺さんは、何のために起業するんですか?」
俺は少し詰まった。
「...勝つためだ」
「勝つ?」
「ああ。ライバルに勝って、成功を掴むためだ」
美希が少し寂しそうな顔をした。
「そうなんですね」
その時、カフェのドアが開いて、鷹山が入ってきた。
「これは偶然ですね、神宮寺さん」
「鷹山さん...」
鷹山が俺たちのテーブルに近づいてくる。
「桜井さんもご一緒ですか」
「あ、はい」
美希が驚いている。
「鷹山さん、美希さんを知ってるんですか?」
「ええ。先日、私の勉強会に来てくれました」
「そうだったんですか」
俺は警戒した。
鷹山が美希に近づいている。
「桜井さん、私の会社で働きませんか?」
「え?」
「あなたのような優秀な人材を、ぜひうちで」
鷹山が笑顔で言う。
でも、その笑顔には何か計算高いものがあった。
「あの、私は...」
「もしかして神宮寺さんと何か約束でもしてましたか?」
鷹山が俺を見る。
その目には、挑発的な光があった。
「美希さんはまだ何も決めてません」
「そうですか。それなら、私の会社も検討してください」
鷹山が美希に名刺を渡す。
「条件は神宮寺さんより良いものを出しますよ」
「鷹山さん...」
「それでは、また」
鷹山が去った後、美希が困った顔をしていた。
「神宮寺さん、鷹山さんと何かあるんですか?」
「...ライバルだ」
「ライバル?」
「ああ。あいつとは、絶対に負けられない」
美希が心配そうに俺を見ている。
「神宮寺さん、何か...辛そうです」
「大丈夫だ」
でも、本当は大丈夫じゃなかった。
鷹山が美希を狙っている。
前世と同じように、俺の大切なものを奪おうとしている。
一ヶ月後、俺は正式に会社を立ち上げた。
社名は「ネクストビジョン株式会社」。
AIマーケティングシステムの開発と販売を行う会社だ。
健太がCTOとして技術を担当し、俺がCEOとして経営を担当する。
そして、なんと美希も参加してくれた。
「神宮寺さん、頑張りましょう」
「ああ、よろしく」
美希の笑顔に、俺は少し救われた気がした。
でも、鷹山の会社も順調に成長していた。
すでに大手企業との契約を複数獲得し、業界で注目を集めている。
「くそ、鷹山め」
俺は悔しかった。
前世の知識を使っても、鷹山に追いつけない。
「颯太、焦るなって」
健太が俺を励ます。
「俺たちのシステムの方が優れてるんだから、そのうち評価される」
「でも...」
その時、美希が言った。
「神宮寺さん、クライアントのことを第一に考えましょう」
「え?」
「鷹山さんに勝つことばかり考えてると、本当に大切なことを見失います」
美希の言葉に、俺ははっとした。
「そうだな...」
俺は方針を変えた。
鷹山に勝つことだけを考えるのではなく、本当に顧客に良いサービスを作ることに集中した。
すると、徐々に成果が出始めた。
中小企業を中心に、俺たちのシステムが評価され始めた。
「神宮寺さん、新規契約が3件決まりました」
「本当か?」
「はい。クライアントの方々、すごく喜んでくれてます」
美希が嬉しそうに報告する。
「よかった...」
俺は少し嬉しくなった。
でも、その喜びも束の間、鷹山から連絡が来た。
「神宮寺さん、少し話がしたいのですが」
「何の用ですか?」
「直接会って話しましょう。明日の夜、時間ありますか?」
俺は迷ったが、断る理由もなかった。
「分かりました」
翌日の夜、俺は指定された高級レストランに向かった。
鷹山はすでに席についていて、ワインを飲んでいた。
「お疲れ様です、神宮寺さん」
「お疲れ様です」
俺は向かいの席に座った。
「単刀直入に聞きます。あなた、転生してきましたね?」
鷹山がいきなり核心を突いてきた。
「...何の話ですか?」
「とぼけても無駄です。あなたの投資判断、ビジネスモデル、全てが未来を知っているとしか思えません」
「それは鷹山さんも同じでしょう」
「やはり」
鷹山が満足そうに笑った。
「私は鷹山龍也。前世では実業家でした」
「..俺は前世ではT企業社長でした」
俺たちは互いの正体を明かした。
「面白いですね。転生者同士が、同じ業界で競争するなんて」
「偶然じゃないでしょう」
「ええ、偶然ではありません」
鷹山が真剣な顔になった。
「神宮寺さん、いや、前世のあなたの名前は何でしたか?」
「...立花誠です」
鷹山の表情が変わった。
「やはり。あなたでしたか」
「どういう意味ですか?」
「前世で、あなたの会社を乗っ取ったのは私です。こんな偶然もあるんですね」
俺は拳を握りしめた。
「やはり...」
「覚えていますか?あなたが裏切った相手を」
「裏切った?」
「そうです。あなたは前世で、私を裏切ったんです」
鷹山の目が冷たくなった。
「私たちはビジネスパートナーでした。
でも、あなたは重要な契約を私に隠して、独占しようとした」
「それは...」
「その結果、私の会社は倒産寸前まで追い込まれました」
鷹山が続ける。
「だから、私はあなたに復讐したんです。会社を乗っ取って、全てを奪った」
そんなはずはない…裏切ったのは鷹山のほうだ。
俺は記憶を辿った。
確かに、前世で鷹山という名前のパートナーがいた。
でも、あの時は...
「待ってください。あれは、あなたが先に...」
「言い訳は聞きません」
鷹山が俺の言葉を遮った。
「今度こそ、完璧にあなたを潰します」
「何?」
「桜井美希さん、優秀ですね」
鷹山が笑った。
「彼女を私の会社に引き抜きます」
「美希を...」
「そして、あなたの会社を倒産させます」
鷹山が立ち上がった。
「前世の復讐は、まだ終わっていません」
俺は呆然としていた。
翌日から、鷹山の攻勢が始まった。
俺たちのクライアントに、破格の条件で契約解除を持ちかけた。
「神宮寺さん、契約が3件キャンセルになりました」
「くそ...」
鷹山の仕業だ。
そして、美希にも接触してきた。
「桜井さん、もう一度考えてください」
鷹山が美希を食事に誘っていた。
「私の会社なら、年収は今の3倍出せます」
「でも...」
「神宮寺さんの会社、このままだと危ないですよ」
美希が困った顔をしている。
俺は焦っていた。
美希を失ったら、会社も俺も終わりだ。
「美希、頼む。俺たちと一緒にいてくれ」
「神宮寺さん...」
「俺には、お前が必要なんだ」
美希が複雑な表情をしている。
「神宮寺さん、私のことを本当に必要としてますか?」
「当然だ」
「でも、私は...ただの駒じゃないですか?」
「え?」
「神宮寺さんは、鷹山さんに勝つことしか考えてない」
美希の目に涙が浮かんでいた。
「私のことも、会社のことも、全部鷹山さんに勝つための道具でしょ?」
「そんなこと...」
「違うんですか?」
俺は言葉に詰まった。
確かに、俺は鷹山に勝つことばかり考えていた。
美希のことも、会社のことも、全て鷹山との勝負のためだった。
「ごめん...」
「私、少し考えさせてください」
美希が去っていった。
その夜、健太が俺を叱った。
「颯太、お前、最低だぞ」
「分かってる...」
「美希のこと、本当はどう思ってるんだ?」
「それは...」
俺は自分の気持ちが分からなかった。
美希は大切だ。
でも、それは仕事のパートナーとしてなのか、それとも...
翌日、美希が俺の元に来た。
「神宮寺さん、決めました」
「美希...」
「私、鷹山さんの会社に行きます」
俺は崩れ落ちた。
「どうして...」
「神宮寺さんは、私のことを見てくれてない」
美希が悲しそうに言う。
「鷹山さんは、私の能力を認めてくれて、ちゃんと評価してくれます」
「待ってくれ」
「さようなら、神宮寺さん」
美希が去っていった。
俺は一人、呆然と立ち尽くしていた。
美希を失って、会社は傾き始めた。
クライアントも次々と離れていき、資金も底をつき始めた。
「颯太、このままじゃマズいぞ」
健太が心配そうに言う。
「分かってる...」
でも、俺には何もできなかった。
その時、予想外の人物が現れた。
「神宮寺さん、お話があります」
美希だった。
「美希...」
「鷹山さんの会社で働いて、色々分かったことがあります」
「何が?」
「鷹山さんも、あなたと同じです」
「同じ?」
「復讐に囚われて、本当に大切なものを見失っています」
美希が真剣な顔で続ける。
「二人とも、過去のことばかり考えて、前を向いていない」
「でも、あいつは俺を...」
「神宮寺さん、本当に前世のことを全部覚えてますか?」
「え?」
「鷹山さんが言ってました。神宮寺さんが先に裏切ったって」
俺は記憶を辿った。
前世で、確かに鷹山とトラブルがあった。
でも、詳細は...
「もしかして、俺が...」
「二人とも、自分の都合の良いように記憶を作り替えてるんです」
美希の言葉に、俺は衝撃を受けた。
「調べてみてください。本当の真実を」
美希が資料を渡してくれた。
「これは...」
「前世の会社の記録です。鷹山さんが作って持っていたものです」
俺は資料を読んだ。
そこには、衝撃的な真実が書かれていた。
前世で、最初に契約を独占しようとしたのは...俺だった。
鷹山は被害者だった。
「嘘だ...」
でも、記録は嘘をつかない。
俺は自分の過ちを思い出した。
あの時、俺は欲に目が眩んで、パートナーの鷹山を裏切ったんだ。
「俺が...悪かったのか」
俺は崩れ落ちた。
翌日、俺は鷹山の会社を訪ねた。
「神宮寺さん、何の用ですか?」
「謝りに来ました」
「謝る?」
「前世で、俺があなたを裏切りました」
俺は頭を下げた。
「本当にすみませんでした」
鷹山が驚いた顔をしている。
「あなた...思い出したんですか?」
「はい。俺が先に、あなたを裏切ったんです」
「...そうですか」
鷹山が複雑な表情をしている。
「でも、私もあなたに酷いことをしました」
「え?」
「会社を乗っ取って、全てを奪った」
鷹山が俯いた。
「私も復讐に囚われていました」
「鷹山さん...」
「転生して、もう一度人生をやり直せるのに、また同じことを繰り返していた」
鷹山が自嘲気味に笑った。
「馬鹿ですね、私たち」
「ええ、本当に」
俺も笑った。
その時、美希が部屋に入ってきた。
「二人とも、やっと分かってくれたんですね」
「美希...」
「これからどうするんですか?」
美希が俺たちを見る。
「また争うんですか?それとも...」
俺と鷹山が顔を見合わせた。
「神宮寺さん、提案があります」
「何ですか?」
「私たちの会社、合併しませんか?」
「合併?」
「ええ。二人で協力すれば、もっと大きなことができます」
鷹山の提案に、俺は考えた。
前世では敵同士だった。
でも、今度は...
「分かりました。やりましょう」
「本当ですか?」
「ええ。今度は、ちゃんと協力します」
俺たちは握手を交わした。
それから半年が経った。
俺と鷹山の会社は合併して、「ネクストホライズン株式会社」となった。
二人の知識と経験を合わせて、業界最高のAIマーケティングシステムを開発した。
会社は急成長して、大手企業からも注目を集めている。
「颯太、次の契約決まったぞ」
健太が嬉しそうに報告してくる。
「ありがとう」
鷹山もCOOとして、経営に参加している。
「神宮寺さん、来月のプレゼン資料、できました」
「ありがとう、鷹山さん」
俺たちは、もう敵じゃない。
最高のビジネスパートナーだ。
そして、美希も会社に戻ってきてくれた。
「神宮寺さん、今日のミーティング、うまくいきましたね」
「ああ。美希のおかげだ」
「そんなことないです」
美希が微笑む。
「でも、嬉しいです。神宮寺さん、変わりましたね」
「変わった?」
「はい。前より、周りを見られるようになりました」
「それは...美希のおかげだ」
俺は美希を見つめた。
「美希、俺...」
「はい?」
「俺、お前のことが好きだ」
美希が驚いた顔をする。
「ビジネスパートナーとしてじゃなく、一人の女性として」
「神宮寺さん...」
「前世では、仕事ばかりで恋愛なんてしなかった」
俺は正直に言った。
「でも、今度は違う。お前と一緒にいたい」
美希の目に涙が浮かんでいた。
「私も...神宮寺さんのことが好きです」
「美希...」
俺たちは抱き合った。
その様子を、鷹山が遠くから見ていた。
「良かったですね、神宮寺さん」
鷹山が微笑んでいる。
「鷹山さんも、誰か見つけてくださいよ」
「そうですね。今度は、ちゃんと人を愛してみます」
鷹山が空を見上げる。
「前世では、仕事ばかりで家族も作らなかった」
「今度は違いますよ」
「ええ、今度は...」
---
それから数年後。
俺たちの会社は、業界トップの企業になっていた。
俺は美希と結婚して、幸せな家庭を築いている。
鷹山も、ボランティア活動で知り合った女性と結婚した。
「颯太、子供はまだか?」
鷹山が冗談めかして聞いてくる。
「まだだよ。でも、そのうちね」
「私のところは来年生まれる予定だ」
「マジで?おめでとう」
俺たちは笑い合った。
前世では宿敵同士だった。
お互いを憎み、傷つけ合った。
でも、転生して、もう一度やり直すチャンスをもらった。
今度は、敵じゃなく、仲間として。
「神宮寺さん、鷹山さん、ミーティングの時間です」
美希が俺たちを呼ぶ。
「はいはい、今行く」
「すぐ行きます」
俺たちは一緒に会議室へ向かった。
前世の因縁は、もう終わった。
これからは、新しい未来を作っていく。
会議室には、社員たちが集まっていた。
「それでは、来期の事業計画について説明します」
鷹山がプレゼンを始める。
「私たちの目標は、単なる利益追求ではありません」
「本当に社会に貢献できるサービスを作ることです」
俺も続ける。
「前世では、俺たちは利益ばかり追いかけていました」
「でも、今度は違います」
社員たちが真剣に聞いている。
「人を幸せにするビジネスを、一緒に作っていきましょう」
拍手が起こった。
会議が終わった後、美希が俺の隣に来た。
「素敵なスピーチでしたね」
「ありがとう」
「神宮寺さん、本当に変わりました」
「それは、美希が変えてくれたんだ」
美希が首を振る。
「違います。神宮寺さん自身が変わろうと決めたんです」
「そうかな」
「はい。そして、鷹山さんも」
俺は鷹山を見た。
彼も社員たちと楽しそうに話している。
前世では考えられない光景だ。
「二人とも、やっと前を向けたんですね」
美希が優しく微笑む。
「これからが、本当のスタートです」
その夜、俺は一人で前世のことを思い出していた。
あの時の俺は、勝つことしか考えていなかった。
金も、名声も、会社も、全て自分のためだった。
そして、最後には全てを失った。
でも、転生して気づいた。
本当に大切なのは、勝つことじゃない。
信頼できる仲間と、愛する人と、一緒に前に進むことだ。
「颯太、まだ起きてたの?」
美希が部屋に入ってきた。
「ああ、少し考え事をしていて」
「何を考えてたの?」
「前世のこと」
美希が俺の隣に座る。
「前世の颯太さんは、幸せでしたか?」
「いや、全然」
俺は正直に答えた。
「金はあった。地位もあった。でも、心は空っぽだった」
「今は?」
「今は...」
俺は美希を見つめた。
「今は、本当に幸せだ」
「私も」
美希が俺に寄り添ってくる。
「神宮寺さんと一緒にいられて、本当に幸せです」
「ありがとう、美希」
窓の外には、満月が輝いていた。
新しい人生。
新しい未来。
前世の因縁に囚われることなく、前を向いて歩いていける。
鷹山も、きっと同じことを考えているだろう。
---
翌週、鷹山から連絡があった。
「神宮寺さん、今度一緒に食事でもしませんか?夫婦で」
「いいですね。ぜひ」
週末、俺たちは二組の夫婦でレストランに集まった。
「お久しぶりです、美希さん」
鷹山の奥さん、涼子さんが挨拶する。
「お久しぶりです」
四人でテーブルを囲んで、楽しく食事をした。
「神宮寺さん、最近の仕事はどうですか?」
「順調です。新しいプロジェクトも始まりましたし」
「それは良かった」
鷹山が微笑む。
「私たち、前世では考えられないような関係ですね」
「本当に」
俺も笑った。
「前世では殺し合いそうな勢いだったのに」
「今では、一番の親友です」
鷹山が真剣な顔になった。
「神宮寺さん、ありがとうございます」
「え?」
「あなたのおかげで、私は変われました」
「それは、お互い様です」
俺たちは再び握手を交わした。
美希と涼子さんが、嬉しそうに見ている。
「男性同士の友情って素敵ですね」
「本当ですね」
食事が終わって、店を出た時、鷹山が言った。
「神宮寺さん、これからも一緒に頑張りましょう」
「ええ、もちろん」
「今度こそ、誰かを犠牲にするんじゃなく、みんなで幸せになりましょう」
「約束します」
夜空には、星が輝いていた。
前世では、俺たちは敵だった。
憎み合い、傷つけ合い、そして両方とも不幸になった。
でも、転生というチャンスをもらって、俺たちは変われた。
敵から仲間へ。
憎しみから友情へ。
そして、過去から未来へ。
俺は美希の手を握った。
「美希、これからもよろしく」
「はい、こちらこそ」
美希が幸せそうに微笑む。
俺たちの新しい人生は、まだ始まったばかりだ。
でも、もう迷うことはない。
前を向いて、大切な人たちと一緒に、歩いていくだけだ。
転生して、本当に良かった。
前世の俺に、今の俺を見せてあげたい。
「ほら、お前が追い求めていた幸せは、こんなに身近にあったんだぞ」って。
―完―




