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前世で負けた宿敵に今度こそ勝ちたくて転生したら、相手も転生していて因縁が続いていた件

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/10/06

死の瞬間、俺は何を思っただろう。


病院のベッドで、点滴に繋がれながら、天井のシミをぼんやり眺めていた。

45歳。まだ死ぬには早すぎる年齢だった。


だが、心はとっくに死んでいた。


会社を奪われ、財産を失い、信頼していた仲間に裏切られ——生きる理由なんて、もう何もなかった。


「鷹山...龍也...」


最期に口にしたのは、俺を裏切った男の名前だった。

意識が遠のいていく。

これで終わりだ。そう思った。


なのに——


目が覚めると、俺は見知らぬ部屋にいた。


「......は?」


最初に出た言葉は、間抜けな驚きの声だった。


ここはどこだ。病院じゃない。

天井が違う。壁も違う。何より、体が軽い。


慌てて体を起こす。部屋を見回す。

大学生の一人暮らしのような部屋だ。

机の上には教科書とノートパソコン。

カレンダーには、見覚えのある年号が書かれている。


「これは...過去?」


震える手で、机の上の学生証を手に取った。


神宮寺颯太。22歳。


知らない名前だ。

知らない顔だ。でも——


鏡を見て、俺は驚愕した。


「若い...」


鏡に映っているのは、確かに学生証の写真と同じ、20代くらいの若い男性だった。


信じられない光景に、俺は自分の頬を叩いた。

痛い。夢じゃない。


つまり、これは——


「転生...したのか?」


でも、本当の俺は違う。


前世で45歳まで生きた、IT企業の社長だった。

会社を立ち上げて、順調に成長していたはずだった。


でも、あの男に全てを奪われた。


鷹山龍也。


俺のビジネスパートナーだったはずの男が、裏で株を買い占めて、会社を乗っ取った。

俺は全てを失い、破産して、失意のまま病気で死んだ。


「今度こそ...」


俺は拳を握りしめた。

過去に転生したなら、今度こそあいつに勝つ。


幸い、前世の記憶は全て残っている。

45年分の人生経験と、未来の知識がある。


「まずは資金作りだ」


俺はノートパソコンを開いて、自分の口座を確認した。

バイト代で貯めたらしい50万円がある。


前世の記憶を頼りに、これから急騰する株を調べた。


来月、大手製薬会社が画期的な新薬を発表する。

その株は3倍になるはずだ。


俺は全額をその株に投資した。


一ヶ月後、予想通り株価は急騰した。

50万円が150万円になった。


「よし」


次々と投資を重ねて、半年後には資金が1000万円を超えた。


「これで軍資金は確保できた」


俺は大学でも優秀な成績を収めていた。

前世の経験があるから、授業も試験も余裕だった。


経済学の教授からも一目置かれるようになり、ビジネスコンテストでも優勝した。


「神宮寺君、素晴らしいプレゼンだったよ」

教授が俺を褒めてくれる。


「ありがとうございます」


順調だった。

このまま前世のように会社を立ち上げて、今度こそ成功する。


そう思っていた矢先、運命の再会が訪れた。

大学の講堂で、起業家を招いた講演会が開かれた。


「本日のゲストは、若手実業家の鷹山龍也さんです」


司会者が紹介すると、壇上に一人の男性が現れた。


俺は凍りついた。


「鷹山...」


あの男だ。前世で俺を裏切った男。


でも、おかしい。

前世では48歳だったはずなのに、今は23歳くらいに見える。


「まさか...」

嫌な予感がした。


「皆さん、こんにちは。鷹山龍也です」


鷹山が話し始める。


「私は去年、AIを活用したマーケティング会社を立ち上げました」


俺は愕然とした。

そのビジネスモデルは、俺が来年立ち上げる予定だったものと全く同じだった。


「このビジネスの将来性は...」


鷹山の説明は完璧だった。

まるで今までも経験があるように。


講演が終わった後、俺は鷹山に近づいた。


「素晴らしい講演でした」


「ありがとうございます。あなたは?」


「神宮寺颯太です。同じ大学の学生です」


鷹山が俺をじっと見つめた。

その目には、何か探るような光があった。


「神宮寺...颯太?」


「はい」


「面白い名前ですね。どこかで聞いたような...」


鷹山が意味深に笑った。

「気のせいでしょう」


俺は冷や汗をかいていた。

もしかして、鷹山も転生者なのか?


「神宮寺さん、投資で成功してるって噂を聞きましたが」


「少しだけ...」


「どの銘柄ですか?」


「バイオテック関連です」


「ああ、例の新薬の件ですね」


俺の心臓が止まりそうになった。

その新薬の情報は、まだ公表されていないはずだった。


「先輩も投資されてるんですか?」


「ええ。未来を読むのが得意なもので」

鷹山が確信を持った笑みを浮かべた。


「神宮寺さん、今度時間があれば、投資の話でもしませんか?」


「...はい。ぜひ」


俺は確信した。

鷹山も転生者だ。


そして、前世と同じように、俺を狙っている。


その夜、俺は一人で考えていた。

鷹山が転生者なら、前世と同じように俺を潰しにくるだろう。


「負けるものか」


俺は決意を固めた。

今度こそ、あいつに勝つ。


翌日、俺は親友の藤原健太に相談した。


「健太、俺、会社を立ち上げようと思ってる」


「マジで?何の会社?」


「AIマーケティングの会社だ」


「それって、昨日の講演会の鷹山って人と同じジャンルじゃん」


「ああ。でも、俺のほうが優れたシステムを作れる」

前世の知識があるから、技術的には鷹山より上だ。


「分かった。良ければ俺も手伝うよ」


「ありがとう」


健太は前世にはいなかった友人だ。

今度は、信頼できる仲間と一緒にやる。


会社の準備を進めていると、大学で一人の女性と出会った。


「あの、神宮寺さんですよね?」

振り返ると、綺麗な女性が立っていた。


「はい」


「私、桜井美希といいます。経営学部の3年生です」


「桜井...さん」


「神宮寺さんが起業するって聞いて、ぜひお話を聞きたくて」

美希は目をキラキラさせていた。


「私も将来、起業したいんです」


「そうなんだ」


「神宮寺さんのビジネスプラン、すごく興味があります」


美希の熱意に、俺は心を動かされた。


「それじゃあ、今度詳しく話そうか」


「本当ですか!ありがとうございます」


美希が嬉しそうに笑う。

その笑顔は、純粋で眩しかった。


数日後、俺は美希とカフェで会った。


「それで、どんな会社を作るんですか?」


「AIを使ったマーケティングシステムだ」


「それって、あの鷹山さんの会社と同じですよね」


「ああ。でも、俺のシステムはもっと精度が高い」


「すごい...」

美希が感心している。


「美希さんは、どうして起業したいの?」


「私、人の役に立つサービスを作りたいんです」


「人の役に立つ...」


「はい。お金とか名声とかじゃなくて、本当に誰かを幸せにできる仕事がしたいです」


美希の言葉に、俺は少しドキッとした。

前世の俺は、金と名声ばかり追いかけていた。


「いい目標だね」


「ありがとうございます。神宮寺さんは、何のために起業するんですか?」


俺は少し詰まった。


「...勝つためだ」


「勝つ?」


「ああ。ライバルに勝って、成功を掴むためだ」


美希が少し寂しそうな顔をした。


「そうなんですね」


その時、カフェのドアが開いて、鷹山が入ってきた。


「これは偶然ですね、神宮寺さん」


「鷹山さん...」


鷹山が俺たちのテーブルに近づいてくる。


「桜井さんもご一緒ですか」


「あ、はい」

美希が驚いている。


「鷹山さん、美希さんを知ってるんですか?」


「ええ。先日、私の勉強会に来てくれました」


「そうだったんですか」


俺は警戒した。

鷹山が美希に近づいている。


「桜井さん、私の会社で働きませんか?」


「え?」


「あなたのような優秀な人材を、ぜひうちで」


鷹山が笑顔で言う。

でも、その笑顔には何か計算高いものがあった。


「あの、私は...」


「もしかして神宮寺さんと何か約束でもしてましたか?」


鷹山が俺を見る。

その目には、挑発的な光があった。


「美希さんはまだ何も決めてません」


「そうですか。それなら、私の会社も検討してください」

鷹山が美希に名刺を渡す。


「条件は神宮寺さんより良いものを出しますよ」


「鷹山さん...」


「それでは、また」


鷹山が去った後、美希が困った顔をしていた。


「神宮寺さん、鷹山さんと何かあるんですか?」


「...ライバルだ」


「ライバル?」


「ああ。あいつとは、絶対に負けられない」


美希が心配そうに俺を見ている。


「神宮寺さん、何か...辛そうです」


「大丈夫だ」


でも、本当は大丈夫じゃなかった。


鷹山が美希を狙っている。

前世と同じように、俺の大切なものを奪おうとしている。



一ヶ月後、俺は正式に会社を立ち上げた。


社名は「ネクストビジョン株式会社」。

AIマーケティングシステムの開発と販売を行う会社だ。


健太がCTOとして技術を担当し、俺がCEOとして経営を担当する。


そして、なんと美希も参加してくれた。


「神宮寺さん、頑張りましょう」


「ああ、よろしく」


美希の笑顔に、俺は少し救われた気がした。


でも、鷹山の会社も順調に成長していた。

すでに大手企業との契約を複数獲得し、業界で注目を集めている。


「くそ、鷹山め」


俺は悔しかった。

前世の知識を使っても、鷹山に追いつけない。


「颯太、焦るなって」

健太が俺を励ます。


「俺たちのシステムの方が優れてるんだから、そのうち評価される」


「でも...」


その時、美希が言った。


「神宮寺さん、クライアントのことを第一に考えましょう」


「え?」


「鷹山さんに勝つことばかり考えてると、本当に大切なことを見失います」


美希の言葉に、俺ははっとした。


「そうだな...」


俺は方針を変えた。

鷹山に勝つことだけを考えるのではなく、本当に顧客に良いサービスを作ることに集中した。


すると、徐々に成果が出始めた。

中小企業を中心に、俺たちのシステムが評価され始めた。


「神宮寺さん、新規契約が3件決まりました」


「本当か?」


「はい。クライアントの方々、すごく喜んでくれてます」

美希が嬉しそうに報告する。


「よかった...」

俺は少し嬉しくなった。


でも、その喜びも束の間、鷹山から連絡が来た。


「神宮寺さん、少し話がしたいのですが」


「何の用ですか?」


「直接会って話しましょう。明日の夜、時間ありますか?」


俺は迷ったが、断る理由もなかった。


「分かりました」


翌日の夜、俺は指定された高級レストランに向かった。

鷹山はすでに席についていて、ワインを飲んでいた。


「お疲れ様です、神宮寺さん」


「お疲れ様です」

俺は向かいの席に座った。


「単刀直入に聞きます。あなた、転生してきましたね?」


鷹山がいきなり核心を突いてきた。


「...何の話ですか?」


「とぼけても無駄です。あなたの投資判断、ビジネスモデル、全てが未来を知っているとしか思えません」


「それは鷹山さんも同じでしょう」


「やはり」

鷹山が満足そうに笑った。


「私は鷹山龍也。前世では実業家でした」


「..俺は前世ではT企業社長でした」


俺たちは互いの正体を明かした。


「面白いですね。転生者同士が、同じ業界で競争するなんて」


「偶然じゃないでしょう」


「ええ、偶然ではありません」


鷹山が真剣な顔になった。


「神宮寺さん、いや、前世のあなたの名前は何でしたか?」


「...立花誠です」


鷹山の表情が変わった。


「やはり。あなたでしたか」


「どういう意味ですか?」


「前世で、あなたの会社を乗っ取ったのは私です。こんな偶然もあるんですね」


俺は拳を握りしめた。


「やはり...」


「覚えていますか?あなたが裏切った相手を」


「裏切った?」


「そうです。あなたは前世で、私を裏切ったんです」

鷹山の目が冷たくなった。


「私たちはビジネスパートナーでした。

でも、あなたは重要な契約を私に隠して、独占しようとした」


「それは...」


「その結果、私の会社は倒産寸前まで追い込まれました」


鷹山が続ける。


「だから、私はあなたに復讐したんです。会社を乗っ取って、全てを奪った」


そんなはずはない…裏切ったのは鷹山のほうだ。

俺は記憶を辿った。


確かに、前世で鷹山という名前のパートナーがいた。

でも、あの時は...


「待ってください。あれは、あなたが先に...」


「言い訳は聞きません」

鷹山が俺の言葉を遮った。


「今度こそ、完璧にあなたを潰します」


「何?」


「桜井美希さん、優秀ですね」

鷹山が笑った。


「彼女を私の会社に引き抜きます」


「美希を...」


「そして、あなたの会社を倒産させます」


鷹山が立ち上がった。


「前世の復讐は、まだ終わっていません」


俺は呆然としていた。



翌日から、鷹山の攻勢が始まった。

俺たちのクライアントに、破格の条件で契約解除を持ちかけた。


「神宮寺さん、契約が3件キャンセルになりました」


「くそ...」

鷹山の仕業だ。


そして、美希にも接触してきた。


「桜井さん、もう一度考えてください」


鷹山が美希を食事に誘っていた。


「私の会社なら、年収は今の3倍出せます」


「でも...」


「神宮寺さんの会社、このままだと危ないですよ」


美希が困った顔をしている。


俺は焦っていた。

美希を失ったら、会社も俺も終わりだ。


「美希、頼む。俺たちと一緒にいてくれ」


「神宮寺さん...」


「俺には、お前が必要なんだ」

美希が複雑な表情をしている。


「神宮寺さん、私のことを本当に必要としてますか?」


「当然だ」


「でも、私は...ただの駒じゃないですか?」


「え?」


「神宮寺さんは、鷹山さんに勝つことしか考えてない」


美希の目に涙が浮かんでいた。


「私のことも、会社のことも、全部鷹山さんに勝つための道具でしょ?」


「そんなこと...」


「違うんですか?」


俺は言葉に詰まった。

確かに、俺は鷹山に勝つことばかり考えていた。

美希のことも、会社のことも、全て鷹山との勝負のためだった。


「ごめん...」


「私、少し考えさせてください」

美希が去っていった。


その夜、健太が俺を叱った。


「颯太、お前、最低だぞ」


「分かってる...」


「美希のこと、本当はどう思ってるんだ?」


「それは...」


俺は自分の気持ちが分からなかった。

美希は大切だ。

でも、それは仕事のパートナーとしてなのか、それとも...


翌日、美希が俺の元に来た。


「神宮寺さん、決めました」


「美希...」


「私、鷹山さんの会社に行きます」


俺は崩れ落ちた。


「どうして...」


「神宮寺さんは、私のことを見てくれてない」

美希が悲しそうに言う。


「鷹山さんは、私の能力を認めてくれて、ちゃんと評価してくれます」


「待ってくれ」


「さようなら、神宮寺さん」


美希が去っていった。


俺は一人、呆然と立ち尽くしていた。



美希を失って、会社は傾き始めた。

クライアントも次々と離れていき、資金も底をつき始めた。


「颯太、このままじゃマズいぞ」

健太が心配そうに言う。


「分かってる...」


でも、俺には何もできなかった。


その時、予想外の人物が現れた。


「神宮寺さん、お話があります」


美希だった。


「美希...」


「鷹山さんの会社で働いて、色々分かったことがあります」


「何が?」


「鷹山さんも、あなたと同じです」


「同じ?」


「復讐に囚われて、本当に大切なものを見失っています」

美希が真剣な顔で続ける。


「二人とも、過去のことばかり考えて、前を向いていない」


「でも、あいつは俺を...」


「神宮寺さん、本当に前世のことを全部覚えてますか?」


「え?」


「鷹山さんが言ってました。神宮寺さんが先に裏切ったって」


俺は記憶を辿った。

前世で、確かに鷹山とトラブルがあった。


でも、詳細は...


「もしかして、俺が...」


「二人とも、自分の都合の良いように記憶を作り替えてるんです」


美希の言葉に、俺は衝撃を受けた。


「調べてみてください。本当の真実を」


美希が資料を渡してくれた。


「これは...」


「前世の会社の記録です。鷹山さんが作って持っていたものです」


俺は資料を読んだ。

そこには、衝撃的な真実が書かれていた。


前世で、最初に契約を独占しようとしたのは...俺だった。


鷹山は被害者だった。


「嘘だ...」


でも、記録は嘘をつかない。


俺は自分の過ちを思い出した。

あの時、俺は欲に目が眩んで、パートナーの鷹山を裏切ったんだ。


「俺が...悪かったのか」


俺は崩れ落ちた。


翌日、俺は鷹山の会社を訪ねた。


「神宮寺さん、何の用ですか?」


「謝りに来ました」


「謝る?」


「前世で、俺があなたを裏切りました」


俺は頭を下げた。


「本当にすみませんでした」


鷹山が驚いた顔をしている。


「あなた...思い出したんですか?」


「はい。俺が先に、あなたを裏切ったんです」


「...そうですか」

鷹山が複雑な表情をしている。


「でも、私もあなたに酷いことをしました」


「え?」


「会社を乗っ取って、全てを奪った」

鷹山が俯いた。


「私も復讐に囚われていました」


「鷹山さん...」


「転生して、もう一度人生をやり直せるのに、また同じことを繰り返していた」

鷹山が自嘲気味に笑った。


「馬鹿ですね、私たち」


「ええ、本当に」


俺も笑った。


その時、美希が部屋に入ってきた。


「二人とも、やっと分かってくれたんですね」


「美希...」


「これからどうするんですか?」

美希が俺たちを見る。


「また争うんですか?それとも...」


俺と鷹山が顔を見合わせた。


「神宮寺さん、提案があります」


「何ですか?」


「私たちの会社、合併しませんか?」


「合併?」


「ええ。二人で協力すれば、もっと大きなことができます」


鷹山の提案に、俺は考えた。


前世では敵同士だった。

でも、今度は...


「分かりました。やりましょう」


「本当ですか?」


「ええ。今度は、ちゃんと協力します」


俺たちは握手を交わした。



それから半年が経った。


俺と鷹山の会社は合併して、「ネクストホライズン株式会社」となった。

二人の知識と経験を合わせて、業界最高のAIマーケティングシステムを開発した。

会社は急成長して、大手企業からも注目を集めている。


「颯太、次の契約決まったぞ」

健太が嬉しそうに報告してくる。


「ありがとう」


鷹山もCOOとして、経営に参加している。


「神宮寺さん、来月のプレゼン資料、できました」


「ありがとう、鷹山さん」


俺たちは、もう敵じゃない。

最高のビジネスパートナーだ。


そして、美希も会社に戻ってきてくれた。


「神宮寺さん、今日のミーティング、うまくいきましたね」


「ああ。美希のおかげだ」


「そんなことないです」


美希が微笑む。


「でも、嬉しいです。神宮寺さん、変わりましたね」


「変わった?」


「はい。前より、周りを見られるようになりました」


「それは...美希のおかげだ」


俺は美希を見つめた。


「美希、俺...」


「はい?」


「俺、お前のことが好きだ」

美希が驚いた顔をする。


「ビジネスパートナーとしてじゃなく、一人の女性として」


「神宮寺さん...」


「前世では、仕事ばかりで恋愛なんてしなかった」

俺は正直に言った。


「でも、今度は違う。お前と一緒にいたい」


美希の目に涙が浮かんでいた。


「私も...神宮寺さんのことが好きです」


「美希...」


俺たちは抱き合った。


その様子を、鷹山が遠くから見ていた。


「良かったですね、神宮寺さん」


鷹山が微笑んでいる。


「鷹山さんも、誰か見つけてくださいよ」


「そうですね。今度は、ちゃんと人を愛してみます」

鷹山が空を見上げる。


「前世では、仕事ばかりで家族も作らなかった」


「今度は違いますよ」


「ええ、今度は...」


---


それから数年後。

俺たちの会社は、業界トップの企業になっていた。


俺は美希と結婚して、幸せな家庭を築いている。


鷹山も、ボランティア活動で知り合った女性と結婚した。


「颯太、子供はまだか?」

鷹山が冗談めかして聞いてくる。


「まだだよ。でも、そのうちね」


「私のところは来年生まれる予定だ」


「マジで?おめでとう」


俺たちは笑い合った。


前世では宿敵同士だった。

お互いを憎み、傷つけ合った。


でも、転生して、もう一度やり直すチャンスをもらった。

今度は、敵じゃなく、仲間として。


「神宮寺さん、鷹山さん、ミーティングの時間です」


美希が俺たちを呼ぶ。


「はいはい、今行く」


「すぐ行きます」


俺たちは一緒に会議室へ向かった。


前世の因縁は、もう終わった。

これからは、新しい未来を作っていく。


会議室には、社員たちが集まっていた。


「それでは、来期の事業計画について説明します」


鷹山がプレゼンを始める。


「私たちの目標は、単なる利益追求ではありません」


「本当に社会に貢献できるサービスを作ることです」

俺も続ける。


「前世では、俺たちは利益ばかり追いかけていました」


「でも、今度は違います」

社員たちが真剣に聞いている。


「人を幸せにするビジネスを、一緒に作っていきましょう」


拍手が起こった。


会議が終わった後、美希が俺の隣に来た。


「素敵なスピーチでしたね」


「ありがとう」


「神宮寺さん、本当に変わりました」


「それは、美希が変えてくれたんだ」


美希が首を振る。


「違います。神宮寺さん自身が変わろうと決めたんです」


「そうかな」


「はい。そして、鷹山さんも」


俺は鷹山を見た。


彼も社員たちと楽しそうに話している。

前世では考えられない光景だ。


「二人とも、やっと前を向けたんですね」


美希が優しく微笑む。


「これからが、本当のスタートです」


その夜、俺は一人で前世のことを思い出していた。


あの時の俺は、勝つことしか考えていなかった。

金も、名声も、会社も、全て自分のためだった。


そして、最後には全てを失った。

でも、転生して気づいた。


本当に大切なのは、勝つことじゃない。


信頼できる仲間と、愛する人と、一緒に前に進むことだ。


「颯太、まだ起きてたの?」

美希が部屋に入ってきた。


「ああ、少し考え事をしていて」


「何を考えてたの?」


「前世のこと」

美希が俺の隣に座る。


「前世の颯太さんは、幸せでしたか?」


「いや、全然」


俺は正直に答えた。


「金はあった。地位もあった。でも、心は空っぽだった」


「今は?」


「今は...」


俺は美希を見つめた。


「今は、本当に幸せだ」


「私も」


美希が俺に寄り添ってくる。


「神宮寺さんと一緒にいられて、本当に幸せです」


「ありがとう、美希」


窓の外には、満月が輝いていた。


新しい人生。

新しい未来。


前世の因縁に囚われることなく、前を向いて歩いていける。

鷹山も、きっと同じことを考えているだろう。


---


翌週、鷹山から連絡があった。


「神宮寺さん、今度一緒に食事でもしませんか?夫婦で」


「いいですね。ぜひ」


週末、俺たちは二組の夫婦でレストランに集まった。


「お久しぶりです、美希さん」

鷹山の奥さん、涼子さんが挨拶する。


「お久しぶりです」


四人でテーブルを囲んで、楽しく食事をした。


「神宮寺さん、最近の仕事はどうですか?」


「順調です。新しいプロジェクトも始まりましたし」


「それは良かった」

鷹山が微笑む。


「私たち、前世では考えられないような関係ですね」


「本当に」

俺も笑った。


「前世では殺し合いそうな勢いだったのに」


「今では、一番の親友です」


鷹山が真剣な顔になった。


「神宮寺さん、ありがとうございます」


「え?」


「あなたのおかげで、私は変われました」


「それは、お互い様です」


俺たちは再び握手を交わした。


美希と涼子さんが、嬉しそうに見ている。


「男性同士の友情って素敵ですね」


「本当ですね」


食事が終わって、店を出た時、鷹山が言った。


「神宮寺さん、これからも一緒に頑張りましょう」


「ええ、もちろん」


「今度こそ、誰かを犠牲にするんじゃなく、みんなで幸せになりましょう」


「約束します」


夜空には、星が輝いていた。


前世では、俺たちは敵だった。

憎み合い、傷つけ合い、そして両方とも不幸になった。

でも、転生というチャンスをもらって、俺たちは変われた。


敵から仲間へ。

憎しみから友情へ。

そして、過去から未来へ。


俺は美希の手を握った。


「美希、これからもよろしく」


「はい、こちらこそ」


美希が幸せそうに微笑む。


俺たちの新しい人生は、まだ始まったばかりだ。

でも、もう迷うことはない。

前を向いて、大切な人たちと一緒に、歩いていくだけだ。


転生して、本当に良かった。


前世の俺に、今の俺を見せてあげたい。

「ほら、お前が追い求めていた幸せは、こんなに身近にあったんだぞ」って。


―完―

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