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こちら夢守市役所あやかしよろず相談課  作者: 木原あざみ
第三章:真夏の恐怖怪談
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おばけよりも怖いもの②

「な、なにしてるんですか、こんなところで」


 ちょっとばかり声が固くなってしまったものの、正当な詰問のはずだ。いや、でもだってそうだろう。

 誰もいない他課に勝手に入ることはないし、挙句の果てに許可もなく人の机を漁っていいわけがない。

 やむを得ない事情があれば仕方がないけれど、相馬さんにやむを得ない事情も正当な事情もあるようには思えなかった。


「今、先輩の机、触ってましたよね? やっぱり税務課の人のものを勝手に取っていたのって……」

「妙な言いがかりをつけるな、なんだ。なにか証拠でもあるのか?」

「いや、証拠ってこれが正に証拠じゃないですか。逆に聞きたいんですけど、そうじゃなかったら勝手にうちに入ってきてなにやってるんですか」

「だから、どこにその証拠がある。用があったからわざわざこんな墓場に出向いてやったんだ。用があっても入ってたら駄目なのか」


 馬鹿にしたように吐き捨てられて、目が点になる。なに、この人。なんでこんなに自信満々なの。


「いいのか、おまえこそ。なんの証拠もなく人を盗人呼ばわりして。訴えるぞ」

「はぁ!?」


 相手は年上で先輩であるということも忘れ、思い切り声が裏返る。

 基本的に気が長く穏やかだと評されるあたしでも、限界はあるのだ。だが、しかし。ぶちっとキレそうになった瞬間、先輩にひょいと押しのけられてしまった。


「せ、せんぱ……」

「証拠って言ったか?」


 あたしの抗議を無視して、先輩はそのまま相馬さんのほうに向かっていく。そして、自分の机の引き出しを引いた。


「へぇ、なんだ、これ。まぁた税務課の決議書かよ。よく失くなるんだな」

「決議……あ! それ、ほのかさんの!」


 ちらりと見えた起案者の名前に、先輩のところに駆け寄る。やっぱり、間違いない。ほのかさんの細宮という苗字は、そうある苗字ではないのだ。


「な、なんで、ほのかさんのを?」


 不貞腐れたように黙っていた相馬さんの眉がぎゅっと吊り上がる。


「俺が入れた証拠なんてどこにもないだろうが! おまえが盗ったんだろ。それを俺が探しに来てやったんだよ!」


 なんという言いがかりだ。突拍子すぎるし、誰が聞いても絶対にあたしたちが正しいと言ってくれるに違いない。

 このあいだとは違って、先輩も相馬さんがやったことだと思っているようだし。

 その先輩は、大きな溜息を吐いて、もじゃもじゃ頭を掻きむしっている。あ、これ、相当キてるなと瞬時に悟ったものの、さすがに庁内で殴り合いはしないだろうと判断して一歩退く。

 破天荒に見えても常識人なのだ。まぁ、ちょっとアレだなと思うところもあるはあるけれど。


「中井ってやつの印鑑もか? あと、なんだ。松村ってやつの鏡。それ盗ったのも、おまえだろ」

「え?」


 真顔の先輩から相馬さんに視線を移す。呆気に取られていた相馬さんの顔は、みるみる真っ赤に染まり始めていた。


「な、なにを根拠にそんなことを……!」

「なぁ、相馬」


 興奮した声を出す相馬さんとは対照的に、先輩の声は静かだった。


「おまえ、なんでこんなクソ暑い時期にきっちり長そでのシャツ着こんでんだ? おまけに腕まくりもしないで。暑いだろ」

「そんなもの、こっちの勝手だ!」

「まぁ、おまえの勝手だけどな。ちょっと捲ってみろよ。見せれるなら」


 なぜかその台詞に、相馬さんがぐっと息を呑んだ。意味がわからなくて困惑するあたしをよそに、平然と先輩が追い打ちをかける。


「困ってんじゃねぇのか」

「こ、困ってる?」


 展開に付いていけないまま、あたしは相馬さんの腕を凝視した。白いカッターシャツは袖ボタンまできっちりと留められている。けれど、そんなにおかしいことではない。

 でも、先輩は確信を持っているようだった。そうなるとおかしいのは、シャツの下なのだろうか。なにかを隠しているだとか、そういう……。

 じっと観察しているうちに違和感を覚え、あたしは眉間にしわを寄せた。


 ……動いて、る?


 いや、そんな馬鹿な。だって、相馬さんは人間だ。そのはずだ。七海さんだってそう言っていた。でも。

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