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こちら夢守市役所あやかしよろず相談課  作者: 木原あざみ
第三章:真夏の恐怖怪談
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VS税務課③

 お盆休み期間中の税務課の窓口は、いつもに比べると閑散としていた。

 これなら、カウンターの外側から声をかけても問題なさそうだ。それにそのほうが怒鳴られたとしても短時間で済みそうだし。

 姑息なことを考えつつ、一番近いカウンターに近づいて、あたしは「すみません」と声をかけた。


「あれ、三崎ちゃん」


 振り向いてくれたのは、国民健康保険課にいたころによくお世話になった中井さんだった。


「どうしたの。ひさしぶりだね。異動してから顔見る機会も減っちゃたし、ほのちゃんと寂しくなったねって言ってたんだよ」


 気さくな笑顔に、ほっと気がゆるむ。今の課は他課との交流はほとんど皆無なので、なんだかすごくひさしぶりだ。

 まぁ、その代わり、今まで無縁だったあやかしとの交流が発生しているのだけど。


「おひさしぶりです! よかった、中井さんがいてくれて」

「なになに、どうしたの。今、よろ相なんだよね。うちになにか用でもあった? 今まであんまりよろ相の人が来たことってなかったんだけど」


 ちらりと中井さんが、あたしの後ろに無言で立っている先輩に視線を送る。にこりとすることはないだろう先輩に代わり、「実は……」とあたしは眉を下げた。


「あの、相馬さんって、いらっしゃいます?」

「相馬くん? いる……とは思うけど、どうしたの?」


 怪訝な顔になった中井さんに、そろそろと隠していた決議書をカウンターの上に置く。


「え?」


 まさかの決議書に、中井さんの声が裏返った。


「なんで、三崎ちゃんが? 会計課からの返却分が混ざった……とかでもないよね。これ、また係長以上の印もらってないし。っていうか、締め切り過ぎてるじゃん!」

「あの、その、本当にあたしも意味がわからないんですけど、あたしの机のなかに入ってたんです」

「机のなかって、よろ相の? 旧館の? なんで?」


 矢継ぎ早に質問され、あたしは「わからないんです」と半泣きで繰り返した。本当にわからないのだ。わからないが、あたしの机のなかにあったのも事実なのだ。


「そ、それで、あの、早くお渡ししないと大変だと思って、それで」

「なるほどねぇ、またか」


 またかの意味がわからず首を傾げたあたしに、中井さんが苦笑いで頷く。


「届けに来てくれてありがとうね。私のほうから相馬くんに返しとくよ」

「え、でも」

「三崎ちゃんだって嫌でしょ。私は一応、相馬くんより先輩だからね」


 優しすぎる申し出は心の底からありがたかったものの、面倒ごとを押し付けるわけにはいかない。

 大丈夫ですと言い募ろうとした瞬間、「おい」という低い声がした。もしやと恐れおののきながら視線を声のほうに向ける。

 中井さんの背後に立っていたのは、不機嫌オーラ全開の相馬さんだった。見慣れてしまっただけかもしれないが、先輩の不機嫌オーラのほうが百倍かわいいと思える恐ろしい顔。

 その目がぎょろりとカウンター上の決議書に向いた。


「なんで、きみがそれを?」


 妙にゆっくりと区切られた言葉に、あたしは内心でひぃと竦み上がった。けれど答えないわけにもいかない。


「あ、あの。その、あたしにもなぜかわからないんですが、あたしの机のなかにこの書類が入っていまして」

「そうらしいわよ。よかったわね、相馬くん。早く持ってきてもらえて」


 援護射撃をしてくれる中井さんの優しさを噛み締めながら、あたしは愛想笑いを張り付けた。

 だが、しかし。相馬さんは愛想笑いを完全に黙殺し、決議書を手に取った。怖い。胃がまたキリキリしてきてしまった。そっと胃を撫でさすっていると、すぐ隣にやってきた先輩がカウンターに肘をついた。

 なんだか昔によく見たクレーマーのお客さんのような様相だ。これはこれで臨戦態勢なのが丸わかりで恐ろしい。

 言わないけど。


「それで、なんで、きみたちがこれを?」


 繰り返されて、あたしも愛想笑いを引きつらせながら繰り返した。中井さんのためにもどうにか穏便に終わらせたい。

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