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こちら夢守市役所あやかしよろず相談課  作者: 木原あざみ
第三章:真夏の恐怖怪談
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税務課の相馬さん②

「そんなこと言われたくらいでどうにかなる神経してないでしょ、が課の総意だったらしいけど。俺は鬱だなんて言われたら、きつく言いにくいじゃない。診断書までは出してこなかったらしいけど。妙なこと言ったら、コンプライアンスに訴えられそうだし」

「す、すごいね」

「仮に相馬さんが人事課に言っても、その噂も人となりも知ってる以上、税務を一方的に咎めることはないと思うけどね。面倒は避けたいでしょ。だから、触らぬ神になんとやら、みたいな扱いが定着しちゃったらしいのよ。まぁ、自分が気に入っている人とはそれなりにコミュニケーションも取ってるらしいけど、気に入らない人への当たりはひどいらしいから」


 一緒の課にはなりたくないタイプよねと言った夏梨ちゃんに、あたしは心の底から同意した。

 旧館のもじゃおさんのほうが百倍マシだ。噂だけで判断するのはどうかと思うけど。


「ちょっとだけ、先輩が言ってくれたありがたさが身に染みたかも」

「先輩って、最上さんよね。どうかしたの?」

「その、相馬さんがいろんな意味で心配になっちゃって、余計なお世話だろうなって思ったんだけど、税務課に様子見に行きましょうかって言ったんだけど」

「げ。本当にお節介ね、あんた」

「わかってるよ、知ってます。でも気になっちゃったんだもん。そうしたら先輩が、あいつに絡まれたら退職するまで目の敵にされるからやめとけって」


 もしかすると、先輩はすでに目を付けられているのかもしれない。先輩は良くも悪くも気にしないだろうけれど。

 夏梨ちゃんは「あぁ」と遠い目で頷いた。


「最上さんが正しいわ。よかったじゃない。気にかけてもらえて」

「うーん、どうなんだろ。最終的に自分に飛び火するのを防いでるだけの気がしないでもないけど。でも、そうだね、優しいよ、先輩は。なんだかんだ言っても」


 物言いはきついけど、理不尽なことは言わないし、ちゃんと説明もしてくれるし、あたしの話に耳も傾けてくれる。まぁ、無視されることもあるんだけど、それはそれ。

 なんだかんだと言うわりに、きちんと指導していただいていると思っている。

「旧館のもじゃおさん」なんて呼んでいる人たちも、色眼鏡を捨てれば先輩のいいところが見えるだろうにと思うと、もったいない気がするくらい。


「まぁ、はなはさ」


 やってきた店員さんに生ビールの追加と枝豆を頼んでから、夏梨ちゃんがほほえんだ。


「よろ相でうまくやってるみたいで安心したよ。最初は大丈夫かなって思ったけど、ちゃんとかわいがってもらってるみたいだし」

「かわいがって……は、よくわからないけど、なんとかやれてるよ」

「うん、だから。妙なことに首を突っ込まなくていいんじゃないかなとあたしも思うわけよ。どうせ長くいる職場だもの。質のいい人間関係を保持したいじゃない」

「そうだよね」


 頷いたものの、やっぱりほんの少しだけお節介の虫が騒めいている。だって、あれだよ。変な人ってだけならまだしも、公文書を失くした上に、すぐに報告もせずに変な噂を頼ってくるような人だよ。

 絶対に自分の失態を上司に報告したりしないでしょ。というか下手したら、誰かに責任を擦り付けるでしょ。それは黙認しちゃ駄目でしょ、みたいな。


 とは言え、夏梨ちゃんが心配してくれていることはわかったので、あたしは「そうする」と笑って頷いた。

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