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こちら夢守市役所あやかしよろず相談課  作者: 木原あざみ
第三章:真夏の恐怖怪談
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税務課の相馬さん①

「税務課の相馬さん、ねぇ」


 ここぞという相談があるときご用達の個室居酒屋の一室で、夏梨ちゃんがビールを呑みながら「うーん」と唸る。

 カクテルが似合いそうな美女である夏梨ちゃんだが、冬は熱燗で夏は生ビールと相場が決まっているのだ。

 その嗜好は職場の飲み会であっても変わらないので、はじめて夏梨ちゃんと呑む人は、かなりの確率で二度見する。

「え? あの子が? あの美少女が?」みたいな。でも夏梨ちゃんはそういうことを気にしない男前な性格なので、「好きですが、なにか」みたいなしらっとした笑顔で迎え撃っている。

 だからなのか、ちょっとびっくりするくらいの美少女であるにもかかわらず、市役所内の同年代の男性陣のあいだで「かわいいけど恋愛対象じゃない」と夏梨ちゃんは噂をされているらしい。

 自分がオッケーだったら夏梨ちゃんに付き合ってもらえると思っている思考回路は、本当にどうかとは思う。


「こういう言い方はよくないと思うけど、あまりいい噂を聞かない人ではあるかも」

「あ、やっぱり」

「やっぱりって珍しいじゃない。はながそういうこと言うの。誰かからなにか聞いたの?」

「なにかというか、ちらっとご本人を見たんだけど。なかなかだったというか」

「なかなかって、よろ相に来たの? 相馬さんが? よろ相と税務課って関係あったりするの?」

「いや、どうなんだろう。そういうことじゃなくて私的な用事だったみたいなんだけど。あ、先輩にじゃなくてね、七海さんっていう人に」

「知ってるわよ」


 注釈を入れたあたしに、夏梨ちゃんは半目になった。


「七海さんも有名だもの。あまり姿を現さない方だから余計に噂が噂を呼んでる感じだけど」

「ちなみに噂って」

「うーん、ただの噂だけどね。漫画みたいな美人だとか。名探偵みたいな人だとか。超記憶力とか。あ、文書番っていうのも聞いたことがあったなぁ。そんな二次元みたいな人いないでしょって思ってたんだけど……って、え? なに。マジなの?」

「いや、……どうだろう」


 どこまでを正解と言うべきかわからず、あたしは少し悩んだ。


「美形なのは事実だし、なんていうか、近くで見てても漫画みたいな人だなぁって思うから、あながち間違いではないかも。あ、でも、先輩ほど近寄りがたくは」


 つらつらと並べ立ててから、あたしははたと我に返った。また話を明後日の方向に流してしまった。


「ごめん、夏梨ちゃん。あの、それで、その相馬さんがね、七海さんを頼りに来たんだけど、それがまぁなんというか身勝手な理由で。正当なことをやんわり言って七海さんがお断りしたにもかかわらず、ものすごい勢いでドアを閉めて出て行っちゃったもんだから」

「あぁ」

「実際、どんな人なんだろうなぁって気になっちゃって」

「あんた、国保にいたときは税務と関わることも多かったでしょ。会ったことなかったの?」

「基本的に住民税の人とばっかり話してたからなぁ」


 税務課にもたまに足を運んでいたのだが、相馬さんとやらを認識した記憶はない。もちろん顔を見たことがあっても、おかしくはないのだけれど。顔と名前を一致させて喋りかけたことは、たぶん、なかったはずだ。


「そっか。まぁ、あたしも相馬さんと話したことはないのよね。というか、そもそもとして電話を取らない人らしいから」

「え、それって……」

「そういうこと。電話が鳴っても頑として取らないらしいわよ。あからさまに忙しいアピールして逃げるってもっぱらの噂。窓口からもそんな感じで逃げ回ってるらしいし」

「え? いいの? それ、いいの」


 というか、なんで許されてるの。税務課も忙しいはずなのに。繁忙期なんて順番カードが出るレベル。

 それなのに正職員が窓口業務を放棄って、有り得ないだろう。

 目を白黒させたあたしに「そういう人なのよ」と夏梨ちゃんがあっさりと言い放つ。


「そういう人だから周りも諦めてるというか。早く異動させたいらしいんだけど、それが叶わなくて税務のお偉方も頭抱えてるんですって。何年か前に勤務態度を含めてちょっときつく咎めたら、ここぞと休まれて大変だったらしいから」


 おまけにそのとき精神科にも行ったらしくてねぇと言いながら、夏梨ちゃんはドリンクメニューを眺めている。

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