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こちら夢守市役所あやかしよろず相談課  作者: 木原あざみ
第三章:真夏の恐怖怪談
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プロローグ④

 ――なにやってんの、その相馬さんって人。


 顔面蒼白になったあたしと対照的に、先輩は意地悪く笑っている。


「それができねぇ馬鹿だから眉唾の噂信じてここに来たんだろ」

「そうは言っても、僕はドラえもんじゃないからねぇ。タイム風呂敷~なんて言って、元に戻せはしないし。そもそもとして失くした書類を内容同じに新しく作り直したら、公文書偽造だよ」

「ははは」


 先輩の当て推量じゃなくて事実だったのか。引きつったまま、あたしは乾いた笑い声を立てた。

 知りたくなかった、かもしれない。


「と言ったら、怒って帰ってしまったのだけれど。やれやれ、彼はちゃんと伝えることができるのかな」


 困り眉で首を傾げた七海さんに、あたしはなんとも申せなかった。

 先輩はあいつにできるわけがないと言わんばかりの顔で、机に積んであった決裁書に目を通し始めている。


「あの」


 お節介かもしれないと自覚しつつも、あたしはおずおずと手を上げた。見てくれたのは七海さんだけだったが。


「もしよろしければ、あたし、税務課に様子を見に行ってきましょうか?」

「あぁ、うーん。そうだね」

「やめとけ」


 七海さんの逡巡を、先輩が視線も上げずに一蹴した。


「あいつはねちっこいからな。妙なことしてみろ。退職するまであることないこと言っていびられるぞ」

「え」

「それに誰かが気づくに決まってんだろ。その時期がいつになるかは知らねぇけどな」


 だからおまえがなにかするようなことじゃない。そう先輩が言ってくれていることはわかったし、それはそうだろうなぁとも理解することはできた。

 課に置いてある文書は誰が見てもいいのだから、紛失にはいつか誰かが気が付くだろう。

 その書類が頻繁に誰かの目に留まるものなのか、めったと留まらないものなのかで先輩の言うとおり時期は違ってくるだろうけれど。


「ですね」


 頷いたものの、悶々としたものは取れない。

 先輩の言うとおりだと思うし、その相馬さんとやらは、年齢も勤続年数も間違いなくあたしより上の方だろう。所属の課も違うのだし、あたしが口を出す問題ではない。


 ――でも、どうにもならなくなってからバレたほうが、もっとヤバいんじゃないかなぁ。せめてすぐに上の人に話を通したほうがいいと思うんだけど。


 うんうんと悩んでいるとかすかに電話の音が聞こえた。「おら」と先輩が顎をしゃくる。


「電話」

「あ、はい。こちらよろず相談課で――」


 慌ててメモ帳片手に対応しながら、電話に専念する。相馬さんのことは、ひとまず頭の隅の置いておこう。


「先輩」


 通話口を押さえながら、あたしは小声で先輩に話しかける。

 どう頑張っても理解できない電話を先輩に押し付ける回数は激減した。これも、あたしがここに慣れてきた証拠なのだろうか。


「狸のおばあちゃんからです。要約すると逢いに来てほしいみたいなんですけど、今日の午前って外に出れますか?」


 無言で頷いた先輩に了承の意を示し、狸のおばあちゃんにその旨を伝える。通話先からはケケケと喜んでいるらしい笑い声がした。

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