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プロローグ②

「白狐様がいない?」


 二時ぎりぎりに戻ったあたしと先輩にお小言を言うでもなく、七海さんはにっこりとほほえんだ。


 白狐って稲荷神社とかでよく見る狐の像だろうか。はるか昔におばあちゃんからそんなふうに聞いたことがあるような、ないような。

 ちらりと説明を求めて先輩を窺うと、不機嫌そうな顔を隠しもせず七海さんを睨んでいた。


「なんでそんな話が俺のほうにやってくるんだよ」

「しかたないだろう。僕はここから出たくない」


 出られない、じゃなくて、出たくない、なんだ。

 そういえば、七海さんが外回りしてるところは見たことがないなぁと、いまさらなことに気がついた。


「どちらにせよ二時半に相談に来られることは確定しているわけだから、よろしく頼むよ、真晴くん」

「本当、あんたって」

「なんだい?」

「……なんでもねぇよ」


 諦めたようにがりがりと鳥の巣頭をかきながら、先輩は自分の席に座った。ガタンと必要以上に大きな音が鳴る。母親に丸め込まれた幼児の腹いせみたいな態度だった。言わないけど。

 代わりに、七海さんにそっと問いかける。


「あの、白狐って、稲荷信仰……というか、稲荷神社とかで信仰の対象になっている、その、神様みたいなもののことですか?」

「うん。そうだね、だいたいはそれで合ってるよ」


 よく知ってるねと七海さんが笑顔で頷く。やはりどこかしらお母さん感がある。


「それで、その神様がいないって、どういうことなんですか?」

「正確に言うと、いないわけではないようなんだけどね。どうも拗ねていらっしゃるようで」


 拗ねるという単語と白狐様が結びつかなくて、あたしはクエスチョンマークを散らしながら曖昧に頷いた。


「上森地区にある稲荷神社なんだけどね。近々お祭りが行われるんだけど、それに白狐様が参加したくないと仰っているらしくて、区長さんが困っておられるんだ。白狐様が姿を現してくれなければ、お祭りの意味がないからね」

「はぁ」

「それで、はるばるうちにご相談に来られることになったんだ」

「区長さんが、はるばる……」

「念のために言っておくけれど、その方は人間だからね」


 あたしはこくこくと首を縦に振った。教えておいてもらってよかったと心底思いながら。

 こんなことを言うと失礼かもしれないが、ここに来る人、会いに行く人。誰が人間で誰が妖怪なのか、正直ちょっとよくわからないのだ。

 さすがに面と向かって、「ところであなた人間ですか」なんて聞けないし。もっとわかりやすい格好をしてくれたらいいのにと言ったあたしを、先輩は馬鹿かと一蹴したけれど。


「あそこの応接室を使ってくれたらいいから。お見えになったら、真晴くんと三崎くんで対応よろしくね」

「え?」

「え? って、どうかしたかな。三崎くんもそろそろそういった対応をしてもいいと思うんだけど」

「あ、いえ、すみません。そうじゃなくて、あそこの部屋、てっきり七海さんの部屋かと」

「んなわけねぇだろ、馬鹿か」

「真晴くん?」


 いい年をして女の子を威嚇しないの。続いたお説教に、先輩がむすりと黙り込む。本当にいい年をしてなんなんだ、この人。

 そうは思うものの、もはや改めてもらうことを諦めているあたしと違って、律儀に注意をするのだから七海さんはいい人だ。ちょっと謎なところはあるけれど。

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