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04敵将の国と侵入②

雛菊達が美濃国に着いて三日目。

雛菊は政宗一行に付いて歩くうちに少しずつ美濃国についてわかってきていた。

そしてタイムリミットも近付いてきた。ここに滞在するのは三日間だけ、つまり今日が最終日という事だ。

織田のいる美濃国という事で長居はできないらしく、名残惜しくも明日早朝には政宗の領地に戻るために出発するらしい。


最終日ということで雛菊には焦りもあったが、今日が最大のチャンスでもあった。

最終日である今日は城下町に行くらしい。つまり、織田の住む岐阜城の近くに行くという事だ。

これはビッグチャンス!

なんとしても成功させなければ…!


町を適当に歩いて気になる店を見つければそこに入る、それが基本スタイルで最終日の今日も同じ動きだ。

最終日の三日目もそのスタイルではあるが、織田のいる城下町が近い事もあってか心なしか皆ピリピリしている…政宗以外は。

政宗はいつもポーカーフェイスでマイペース、敵である織田の近くにいるとは全くもって感じさせられない。


もちろん雛菊もピリピリしている。

何故なら今日は雛菊にとって運命の日となるのだから。美濃国に到着して三日も経っているので、長時間移動した疲れもすっかり癒されている。復讐のために準備は万端だ。


雛菊が鍛冶屋を探しながら歩いていると、政宗はいつものようにふらりと骨董屋に入って行った。もちろん片倉と護衛の一人も一緒にその店に入る。これで三人が暫く店から出る事はないだろう。


雛菊はそれを確認すると、鍛冶屋を探す足を早めた。もれなく三日間張り付いてくる護衛の一人も一緒だ。

…うっとうしいな、この人がいると中々好きなように動く事ができない。

彼女がそんな事を思っていると丁度刀店を見つけた。美濃国は鍛冶で有名なこともあり、刀を売っている店は少なくない。


店を見つけたのはいいけど、この護衛をどうやって巻こう…。

雛菊はそんな事を考えながら目の前の刀店に入る。表向きは美濃刀を見るために政宗一行について来たので、雛菊が刀店に入ること自体は怪しまれることはない。


彼女が刀店の中をくるりと見回す。美濃刀の出産地である事もあって品揃えが良いようだ。


「おや、おなごが刀店に来るのは珍しいのぅ。」

雛菊を見たおじいちゃん店主が言う。


「包丁を探しておるのか?」

店主が続けて言う。


「……いえ、短刀を探しています。」

雛菊は軽く微笑んで言った。

織田を殺すための短刀。

本当は剣道や居合いなどで使い慣れている長い刃が良いのだが、長刀を持っていると目立つし動きづらい。短刀が妥当だろう。


「女性が刀を買うなんて本当に珍しいのぅ。何に使うつもりじゃ?」

「…。」

そう言う店主の言葉に答えることができず、静かに店内をじっくりと見る。変に喋って護衛に怪しまれたら困るので変に口を開くことは出来ない。


店内をじっくりと見ていると一つの短刀に目が止まった。雛菊は引き込まれるようにその短刀を手に取る。

その漆黒のさやには花の模様が一つ描かれている。


微かに目を見開いた雛菊はその短刀を握り締めると、自然と口を開く。

「この花はもしかして…

「葵の花じゃよ。」

続きを言ったのは店主のおじいちゃんだった。


ドクン一瞬心臓が跳ねる。

葵…。


「それにしても御前さんは目が利くのぉ。その刀は若い鍛冶職人は打ったものなんじゃが、中々の出来で…」

店主が何か説明をしてくれているが、雛菊の耳には全く入ってこない。


葵…葵…葵、後ちょっと待ってて、お姉ちゃん、あんたの仇は絶対に取るから。

もうすぐ私も葵の所に行くからね…。


雛菊はチラリと護衛を見る。

護衛の人は時折雛菊のいる店内を見るくらいで、基本は店の外に立っているだけだ。


…よし、決めた、この短刀を買おう。

この短刀は運命だ。


「これ下さい。」

決心した雛菊は持っていた短刀を店主に見せて言う。


「お買い上げじゃな。値段は…

「あーっ!!」

突如として雛菊は大声を出す。

急に叫んだ彼女を見る店主や護衛。あまりにも大声を出しすぎたせいで通行人もちらほらと店内を見ていた。


しまったぁぁぁあ!!

私とした事が!!この時代のお金を持っていませぬ!!

このままじゃせっかくの短刀が買えない!!


「どうかしましたか?」

護衛の人が雛菊の元に駆けつける。


「こ、困りました!」

早口で言う私。


「な、何がですか?」

「おおお御財布を忘れてしまいました!」

いや、そもそも財布なんて忘れてませんけど。持ってすらないし。


「ええっ、どこにですか!?」

「たぶん今朝出てきた宿に忘れて来たと思うんですけど…。」

「それはいけない。政宗様に御報告してすぐにでも取りに行きましょう。」

「いえっ、待って下さい!」

すぐに店を出ようとする護衛を止める。


「本当に本当に大切な物があの財布には入っているんです!伊達さんに報告している暇なんてありません!それに骨董探しを楽しんでいる伊達さんに見ずを差したくないですし…」

「だが、しかしっ…」

「お願いします!取りに行ってもらえませんか!?」


「いや、政宗様に雛菊さんの護衛を命令されているので雛菊さんを一人にする訳には…」

「私はずっとこの鍛冶屋にいます!だからどうかっ、後生ですっ!!」

護衛に反論する隙を与えず、まくし立てる雛菊。この機会を逃すわけにいかない。

そして必死の思いで護衛を見つめた。


「……わかりました。すぐに戻ってくるので絶対ここから動かさないで下さいね!」

幸福なことに雛菊に押し負けた護衛はそう言うと、素早くその場を去った。


……よし、これで邪魔者は居なくなった。

自然に笑みが零れる雛菊。


問題はあと一つ、この短刀をどう買うか…。この短刀さえゲットできれば、後は伊達さん達にバレないように岐阜城に向かうだけ。


…盗んじゃう?

チラリと店主を見ると、店主は他の刀の手入れをしていた。

…いや、駄目だ、盗むなんて店主にもこの刀を作った鍛治職人にも失礼すぎる。

雛菊は自分の悪い考えを振り払うかのように自分の頭も振った。そして短刀を置いて、手当たり次第に鞄の中にある物を取り出す。


何か…何か金目になる物は…電源の落ちたスマートフォン等は持っているが、この時代ではただただ不思議な鉄の塊で人々の目に留まるかは謎だ。そもそも現代のお金も手持ちは3220円しかない。

駄菓子屋で買ったある物の価値をすっかりと忘れていた彼女はガックリと項垂れた。


そんなとき

「おおっ、これはなんと!!」

店主が感嘆の声を上げる。

ふと顔を上げると、その店主は私がぶちまけた荷物の中から少し飛び出したおはじきを手にしていた。


…おはじき?

……‼そうだ‼この時代でおはじきみたいなガラス細工は珍しいものだったんだ‼


「あ、あのっ…よかったらそれとこの短刀を交換して貰えもせんか!?」

頼みの綱はもうこのおはじきしかない!

希望を見出した雛菊は勢いよく言う。


「良いのか!?こんな珍品と短刀を交換してくれるなんて、こちらこそ万々歳じゃ!」

店主は嬉しそうに言う。

見事、取引は成立。葵が導いてくれた駄菓子屋さんのおはじきのおかげで短刀を譲ってもらう事が出来た。


葵の花があしらわれた短刀…。

何だか全ての事を葵が背を押してくれている気がする。

…葵、ありがとう。


雛菊は譲ってもらった短刀を着物の胸元にしまい込むと店主にお礼を言って、護衛が戻ってくる前に足早にその場を去った。

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