01運命の日③
雛菊が桜並木に近づくにつれ複数の足音とそれに合わせるかのようにポクポクという聞き慣れない音が聞こえてくる。
加えて、微かに話し声のような声も聞こえてきた。
これで道を聞ける!
喜んだ雛菊は走る足をさらに早める。
雛菊は躊躇うことなく桜並木を抜け、先程まで葵と歩いていた道に飛び出した。
急いで土手を上がったために服は乱れジャケットが肩からずれ落ちてしまい中に来ているタンクトップが露わになっている。
「うおっ!」
「何奴!?」
急に出てきた雛菊に驚く複数の人達。
「すみませ…」
しかし、驚いたのは雛菊も同じだった。驚くあまり言葉の途中で口を止めてしまった。
互いに目を見開いて身体を固める。
完全にその場にいる全員の時間が止まった。
優しく暖かい風だけがそよそよと流れる。
雛菊の目の前にいる人達…その人たちは時代劇で見るような格好をしていた。
白の小袖に紅の肩衣、白の小袖からはオレンジの下着が見えていた。細い帯は赤色で肩衣と同じ色の袴には刀をさげている。
10人ほどの男の人達皆がその格好をしており、その真ん中にいる男の人だけが馬に乗っていた。周りの人達は徒歩のようだ。
えっと…これは何?どんな状況?
もしかしてここで時代劇の撮影でもしてるの!?
どこかにカメラがスタンバイしてて私が説明の邪魔をしちゃった!?
私はカメラを探すために周りをキョロキョロ見回すけどカメラもスタッフらしき人も見つけることができない。
雛菊はパニック状態になっているが、相手はそんな彼女を待ってくれない。
「お前は誰だ、女!珍妙な格好をしよって!」
馬の周りにいる一人の若い男性が腰の刀に手をかけて言う。
珍妙って…むしろ私がスタンダードでしょ!?
ジ〇ユーのセール品のジャケット!ユ〇クロのジーンズ!
しかし、時代劇の格好をした人達の演技は本物さながらで殺気を飛ばしているようにも見える。
雛菊は相変わらずパニックに陥っている頭をぐるぐる回しなから考える。
……もしかして私にもこの時代劇にゲリラ参加しろってこと!?
タイムトリップしてしまった少女を演じろと!?
いやいや…流石にそれは無理でしょう……私は演技なんて学んだことないし。
「すみません!撮影中ならここから立ち去るのでスタッフさんの場所を教えてくれませんか?」
劇に参加できないと判断した雛菊は勢いよく頭を何度も下げて言う。
よく見ると私に話しかけてきた男性以外の人たちも腰の刀に手をかけていて恐怖を感じてしまう。プロの俳優の演技は本当に凄い。
まさか…刀が真剣ってことはないよね、演技だもんね。時代劇だもんね。
「さつえい?すたっふ…貴様は何意味のわからんことを言ってるんだ!女であろうと信長様の前を阻む者は斬るぞ!」
男性はそう言うとさっきまで腰にかけていただけの刀を抜き、私に向かって構えた。
う、うそ…
雛菊はその刀を見て驚く。
その刀は紛れもない真剣。
居合を嗜む過程で刀を見るのも趣味になっていた雛菊は確信する。
真剣と認識すると同時に非現実的なあり得ない考えが浮かぶ雛菊の脳内。
いや…まさか……
「まさか信長ってあの織田信長のこと…」
ぽつりと口から零れ落ちる非現実的な言葉。
先ほどのスマホが示していた時計は1543年、確か織田信長は1500年代の人物だったような…。
「貴様ぁ!信長様を呼び捨てにするなど言語道断!」
雛菊が偉人である織田信長のことを呼び捨てにしたことが大層な無礼にあたるらしく、真剣を素早く雛菊目掛けて振り下ろしてくる。
「ひぃぃぃいっ!」
叫ぶ雛菊。
ヒュッ
雛菊は死に物狂いで、桜の木のほうに避ける。
ガッ
振り下ろされた刀は桜の木の枝に勢いよく刺さった。
女である雛菊がまさか刀をかわすと思っていなかったらしく、武士は目を大きく見開いていた。
ざわつく武士達。
そのとき、馬に乗ってる織田信長と呼ばれている男が口を開いた。
「ほう…女、なかなかやるな。猿、お前がその女の相手をしてやれ。」
信長は楽しそうな顔をして、右に控える武士に言った。
猿というあだ名…
雛菊の額に汗がにじむ。
信長に絶対的信頼をされており猿と呼ばれている人物といば豊臣秀吉しかいない…。
猿と呼ばれる武士は小さく頷くと、刀を抜いた。
雛菊と違って秀吉は私を斬る気満々らしい。
勘弁願いたい…
ガッ!!
雛菊は秀吉を睨みつけながら最初に斬りかかって来た武士の腕を蹴り上げ、力いっぱい刀を桜の木から引っこ抜いた。
そして、その真剣を秀吉に向ける。
本当は逃げたいけど…この大人数相手に逃げるのは難しい。何より逃げると葵に危害が加わるかもしれない。
葵、お願いだからまだ川辺で駄菓子を食べていて…こっちに来ちゃ駄目。
秀吉以外の武士は、刀を抜く気配はなく私に手を出す気はないらしい。
私がすぐに秀吉にやられると思ってるんだろうな…事実だけどさ!
緊張した空気の中、雛菊はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ははっ、ただやられるつもりはないということか。面白い!」
藁にもすがる思いでとった雛菊の行動は信長には面白い余興らしい。
雛菊は外野の声を気にしないようにして集中力を高める。
「ふざけるな!」
秀吉はその声と同時に雛菊に向かって勢いよく走り刀を振り下ろしてくる。
キィィィンッ
刀と刀が激しくぶつかる音が響く。
秀吉は女である雛菊は刀を受け止めたことに驚いたらしく、周囲もつい感嘆の声を漏らす。
ギギッ
ザッ
二人はぶつかっている刀を力いっぱい押し戻し、雛菊は少し後ろに飛び下がり秀吉と間合いを取った。
そして、雛菊は瞬時に刀を峰側に持ち替え力いっぱい振り切った。
ドスゥッッ
雛菊のホームランが秀吉の腹を打つ。
雛菊の渾身の一発は得意な剣道でもなく、趣味の居合いでもなく…野球の一打だったのだ。
「ぐえっ!!」
秀吉は苦しそうな声を漏らし、衝撃で刀を地面に落とす。
雛菊はまだ動きを止めない。
「何!?」
みぞおちを押さえ予想外の展開に驚く秀吉に、素早く刀を振り下ろした。次は峰側ではなく、鋭い刃側だ。
「くそっ…」
秀吉は悔しそうにそう言うと、咄嗟に自分の腕で身を守った。
よし、作戦通り!
雛菊は刀を脇に捨てると、無防備に出された秀吉の腕を持ち
ガッ
ドタァアンッ
背負い投げを繰り出し、重く強い音が地面に響く。
その際に頭を打ったのか、秀吉はすぐに気絶してしまった。
汗だくの雛菊は急いで自身と秀吉の刀を確保し、出来るだけ相手方の武器を減らすように努める。
秀吉が私が女だと油断していたからなんとかなった…雛菊は一息つく。
「…。」
「…。」
予想外の展開に訪れる沈黙。
頬に当たる風は先ほどと変わり鮮やかだ。
信長は目をぱちくりとさせていて、他の武士たちも驚きを隠せずに口と目をぽかんと開けていた。
そんな沈黙を破ったのは信長だった。
「はーはっはっは!これは面白い!」
信長はこれでもかというくらい大声で笑うと、ひらりと馬から降りる。
雛菊は身の危険を感じ、瞬時に一本の刀を出来るだけ遠くへ投げ捨てもう一本の刀を構えた。
信長からの威圧をビリビリと感じ、彼女の刀を持つ手が微かに震える。
「…いい構えだ。女でこれほど綺麗な構えを出来る奴を見たことがない。」
信長が雛菊の前に来て長身から見下ろしてそう言う。
彼は刀を向けられても微動だにしない姿は威風堂々としている。
雛菊の頬に汗が流れる。
「女、名前はなんだ。」
信長は内心ビビりあがりながら刀を構える雛菊に、ニンマリとした笑みを向けて言う。
そして、信長の威圧感に押されてつい、
「…し、東雲雛菊。」
と弱弱しい声で答えた。
「雛菊、いい名だな。雛菊の花言葉は希望だったか…。」
信長はそう言って雛菊の肩頬に触れた。同時に緊張と恐怖で雛菊の身体が固まり、汗が大量に流れだす。
「そう怖がるな。雛菊、お前のことが気に入ったのだ。その強さ、くのいちにでも任命したいところだが…強い女を側室にして服従させるのも面白い。」
そう言って雛菊に微笑む信長だが、目の奥は笑っていない。
ゾクリと寒気が駆け巡る。
しかし、雛菊は勇気を振り絞って次の行動を取る。
パシンッ
「私は貴方様のことが気に入ってません!」
雛菊はセリフをそう吐き捨てると、信長の手を振り払って回れ右をして駆け出した。
とにかく逃げなきゃ!戦国時代に来てしまっていたとしても、信長に道を聞くのは駄目!
早く葵の安全を確保して、隠れないと‼
雛菊は後ろを気にする余裕も無くとにかく必死に走って葵のもとへ全力疾走する。
この時、後ろの動きを気にしていたら最悪の事態は避けられたかもしれなかったのだが、それは後の祭りだった。
桜並木を飛び出して葵のいる河原に戻ると、何も知らない葵は駄菓子を食べ終えて腰掛けていた岩から立ち上がったところだった。
「葵‼」
雛菊は汗だくの顔で声を張り上げる。
「へ!?そんな必死な顔でどうしたんだよ?ってか、その刀何?」
葵が予想だにしない姉の姿に頭が混乱してしまう。
道を尋ねに行った姉が何故か刀を持って焦った様子なのだ、状況が理解出来ないのも無理はない。
「いいからっ、とにかくここから離れるよ!なんかおかしいことが起こってる!」
雛菊は汗ばんだ手で葵の腕を強く引っ張ると、遠い場所に逃げようと試みる。
「はぁっ!?急に何言ってんだよ!?人見つけたんじゃねぇの!?」
「見つけたけどあの人たちは無理!」
「おい、落ち着けって!」
葵が正気を失った雛菊の肩をガクガクと揺さぶる。
これが落ち着けるものですか!
先はなんとか頑張って冷静に対処したつもりだけど、考えれば考えるほど冷静になれないって!
戦国時代にトリップして、織田信長に狙われてるなんて説明してもすぐに葵が理解してくれるとは思えない‼
「いいから行くよ!」
説明をしている暇のない雛菊は精一杯の力で葵の手を引く。
雛菊と葵が揉めていると、
「見つけたぞ。」
その低い声に振り返ると、そこには織田信長がいた。
手分けをして雛菊を探したのか、先程の人数よりは少なく信長と2名の武士のみが近づいて来た。
雛菊は咄嗟に葵の前にかばうように立つ。
とにかくお仲間が増える前にこの場を離れないと!
「な、なんだ!?」
葵が雛菊の後ろから、武士の格好をした人たちをまじまじと見る。
「そう逃げなくてもいいだろう。雛菊のことを気に入って側室にしてやると言っているのに…っと、そやつは誰だ?」
信長が葵をまじまじと見る。
「なになに、時代劇の人たちか!?」
葵が武士たちを興味津々という感じで言う。目が輝いてすら見える。
雛菊の最初の反応と同じで目の前にいる者たちを俳優か何かと思っているようだ。
「この人たちは正真正銘の武士たち!(信じたくないけど)。今は葵黙ってて!」
咄嗟に雛菊が声を張り上げる。
現状を説明している暇のない雛菊は勢いで葵を制止するしかない。どうせ本物の武士で戦国時代に来てしまったようだと説明しても理解までには時間がかかるだろう。
雛菊が葵から目の前の男たちを止めようと躍起になっている中、武士たちは葵に注目し驚きの声を出した。
「何だ此奴は!」
「もしや異国のものか!?」
武士たちがざわつき始める。現代の格好をした雛菊を見た時以上の反応だ。
葵の服装もさることながら、彼の容姿はこの時代には珍しいブロンドヘアに緑色の瞳、それに加えて190㎝の大柄体型だ。同じ人間ではなく怪物に見えていてもおかしくない。
バサッ
葵への敵意を察した雛菊はすぐに上着を脱ぎ捨てタンクトップ姿になった。少しでも葵より自分に視線を向けるための悪あがきだ。
「何の御用ですか?」
チャキ
加えて雛菊は刀を構えつつ言う。
露出の高い雛菊に一瞬うろたえた武士たちだが、すぐに気を取り直し信長に刀を向けた雛菊を敵と見なし各々刀を構える。
一気にピリピリとした殺気が一帯に張り詰めた。
「良い、下がれ。」
しかし、それは信長の落ち着いた声で遮られる。信長自身が前に出て武士二人を制したのだ。
その言葉に武士たちは渋々刀を下ろし後ろに控える。
「お前はいちいち面白い行動を取るな。俺がわざわざ雛菊を捕まえに来るほどだ。そんなに警戒せずとも俺の元に来れば家族ともども安泰な暮らしを保証しようぞ。」
そんな信長の言葉にいち早く反応したのは状況がわかっていないはずの葵だった。
「何意味わかんねーこと言ってんだ!このストーカー野郎!」
葵が噛みつかんばかりの勢いで言う。状況はわからないが、姉が変な格好をした男に狙われているのはすぐに理解したらしい。
雛菊は前に出ようとする葵の腕をすぐだま掴んで言う。
「葵、落ち着いて!この人たちは本当に危ないから!」
なんたってか弱い女の子に理由を聞かず斬りかかってくるような野蛮人たちなんだから。
とても過激なストーカーだ。
「外国かぶれのお前…逆らうのか。」
信長の目がスッと鋭いものに変わり、葵を見ながら腰にある刀に手をかけた。
もしかしなくても葵が危ない‼
「お願いだから下がってて葵っ!後でちゃんと説明するから!」
「なんだかよくわかんねぇけど姉ちゃんが変態野郎に連れ去られそうなのはわかる!」
迫力ある表情と声で言う葵。大好きな姉の危機には敏感だ。
それとは打って変わって冷静なのは信長だった。
「おい、お前は雛菊のなんだ。」
静かに尋ねる信長。
「俺は雛菊姉ちゃんの弟だ!」
「こんなに髪の色が違うというのに兄弟と言うか、面白い。姉かはともかく雛菊のことが好きだということは存分にわかった。」
「どうでもいいからさっさと消えろこのコスプレ変態野郎!」
コスプレとは武士の和装について言っているらしい。
雛菊は今にも信長に殴りかかりそうな葵を全身で抱きしめる。しかし、怒りでアドレナリンが出ている筋肉質な男性を抑えるのは簡単ではない。
「ええい、もう我慢できぬ!信長様への数々の無礼!」
信長の後ろに控えていた武士の一人が葵に向かって刀を向け走ってくる。
「葵…!!」
キンッ
私は紙一重で持っていた刀で武士の太刀を受け止めた。そして、相手の力を利用して刀をいなす。
「…ッ…はぁ~…」
安堵のため息をつく雛菊。
武士はそんな雛菊の姿を見て悔しそうに奥歯をギリリと噛んだ。
私の最愛の家族をもう失いたくはない…何とか葵に怪我をさせなくて済んだ。
他の武士が襲ってこないことを確認すると雛菊は刀を下ろし、葵の方へと振り向いた。
「葵、だいじょ…」
ザシュッ
という音と
ピトッ
何か生温いものが雛菊の頬に触れる感覚。
え…?
雛菊は後ろを振り返ったまま動けなくなった。全身の感覚が遠のく。
葵が…あの信長に太刀を浴びていたのだ。
雛菊の目にはスローモーションのように膝から崩れ落ちて倒れこむ葵の姿が見えたのだ。
「うっ…ゴホッ…」
葵が苦しそうな声を漏らす。
雛菊はすぐに葵のもとに駆け付けようとしたが、それは叶わなかった。武士の二人が彼女を羽交い絞めにし拘束したからだ。
「口の利き方を学んでから出直して来い。」
倒れる葵に冷たい視線を向ける信長。
信長は血に濡れた刀を葵の服で拭くと鞘に納める。
みるみると地面に広がっていく葵の血。
「葵ー!」
雛菊は悲鳴のような声で名前を叫んだ。
葵を助けたくても羽交い絞めにされて動くことができない。
「うぁああああああああ!!」
錯乱状態になる叫ぶ雛菊。
状況を理解していくと同時に途端に震えが止まらない。膝がガクガクとして身体中汗が噴き出す。
大好きな葵が大量出血をして苦しそうに息をしている。
「ぁあああああぁぁあっ!」
雛菊は叫びながら羽交い絞めを力づくで解き、真っ青な顔をしている葵に必死に声をかける。
「葵っ、しかっりして葵!」
葵は右肩から左の腰あたりにかけて斬られたみたいで血がドクドクと流れている。
急いで葵の服を破き脱がしてその服で止血をするけど、血はなかなか止まらない。
「葵っ、葵…」
涙をボロボロと流しながら何度も葵の名前を呼ぶ。すでに葵の意識はない。
この世でたった一人の私の家族…!
「大人しくしていろ、女!」
冷静にその状況を見ている信長をよそに、武士二人が再び雛菊を拘束しようと掴みかかってくる。
気配を察知した雛菊は鋭い眼光を武士に向ける。
今はそれどころじゃないっての!!
ザクッ
ザッ
素早く一人の武士の太ももに刀を刺し、もう一人の腕を斬りつけた。剣道や居合いの作法等気にする余裕はなく、相手の動きを止める最短の攻撃だ。
「ぅ゛っ」
「うううっ…」
二人の武士は痛さに蹲る。
武士を見向きすることもなくすぐに葵に駆け寄ろうとしたが、雛菊が見たのは信長に川へ投げ捨てられる葵の姿だった。
バッシャアン
信長が怪我を負った最愛の弟を持ち上げて川に投げ入れたのだ。
「葵っ!」
雛菊も急いで川に飛び込もうとするけど、それは憎い信長によって阻まれてしまう。
「もう弟は居なくなったのだからいいだろう。さぁ、雛菊は俺と来るのだ。」
信長が雛菊の肩を抱いて言う。
何がいいのか全く分からない!
「うるさい!私はあんたと行かないし、触れないでこの鬼畜!」
こんな話をしている時間すら勿体ない。
流れの強い水に投げられただけでなく、大怪我してるっていうのに!
「本当に気の強い女だ」
「早く離して!」
意識のない葵が流れていってしまっている。このままでは葵が見えなくなるのは時間の問題だ。
「離すわけないだろう。俺の側室になりたい奴はごまんとおるというのにおかしな女だ。」
「その自信がどこから来るのかわかりませんけど、私にはあなたが良いという女性のほうが理解できません!」
雛菊はじたばたと暴れて信長から逃れようとする。
どうしたらいい
どうしたらいい
どうしたらいい
「それにしても珍妙な格好だ。そんな露出の多い格好をして…」
信長は雛菊から少し離れるとまじまじと雛菊のタンクトップ姿を見る。
そうか…この時代にこの格好が露出高いのなら……
ビリィッ
私はおもむろに力いっぱいタンクトップの胸元を引き裂いた。
露になる胸元
二人の武士も含め、さすがの信長も驚いて目を見開く。
一瞬の隙ができた。
「うわぁぁああああ!」
雛菊は自分でもわからない叫び声を出しながら刀で信長の腕を切りつけ、隙が出た瞬間に思いっきり蹴りを入れて信長を川に突き落とす。
バッシャアン
「なにっ…」
雛菊の蹴りは弱かったらしく、信長が落ちたのは比較的川の浅瀬で流されるまでにはなかった。
「「信長様―!!」」
二人の武士は急いで信長を助けるために川へ飛び込む。
…雛菊が確認できたのはそこまでだった。
雛菊はその場の全員が川に落とされた信長に注目している隙に全速力で走り出す。
すでに流された葵の姿が遠くにしか見えないため、いち早く追いかけなければ助けに行けない。
背後に信長達の姿が見えなくなった時、
ズルッ
ガァァアッン!
雛菊は砂利で滑って力強くおでこを打ち付けた。
遠のく意識…
こんなとことで脳震盪なんて…
葵…葵……
そこで雛菊の意識は途切れてしまった。