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魔剣は口を挟みたい  作者: 楠アキ
第三章 アンダーソン邸の攻防
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第四十八話

「クエイク!」

 アニィーと呼ばれたウィザードを起点に、扇状にフィールドが激しく隆起した。剣山のように爆裂した大地が高速でバルトガやジーナたちの部隊を呑み込んでいく。

 この広範囲におよぶ圧倒的な制圧こそが、魔法攻撃の真価と言えた。

リトルレインボー(七色の雨)!」

 全ての味方へ個別に白いシールドを付与する。

「回避!」

 超振動で足元がぐらつく中、各々ができうる限りの回避行動が選択したが、それでもジーナとアルトの部隊の数名が直撃を喰らい、ある者は上空へと吹き飛ばされた。

 隊列が乱れた隙をついて、魔物と装甲兵の群れは大地の怒りをものともせずに進軍を再開する。

 ——愛しい我が子たちよ!

 三方へ分散させておいた自身の分身たちへ意識を走らせる。小人化しておいた自分自身を通じて、負傷した味方へ即座に回復魔法をばらまいていく。

ヒールレイン(癒しの雨)

 だが、両サイドへの魔法の行使で、私自身の防御が疎かになった。

「ギャハハハッ! ちゃんと防いで、偉いねぇ!」

「キャハハッ! ガラッ! ガラガラッ! ガラあきじゃん!」

 真正面で魔力が膨れ上がる。それはアースドラゴンのように地面の下を這い進み、地表を鋭利な岩石の刃物へ変えながらこちらへ超高速で突進してきた。

 狙いは私ではなく、後方のアンダーソン邸だ。ここを退くわけにはいかない。

「面白い!」

 下手足で構えたバルトガが迎え撃つ。

 ドゴギャッ! と火花が飛び散る。

 ビキビキと両腕に血管を走らせた大戦斧の一撃は、しかし複雑に隆起し突撃してくる山岳の半分を削っただけで、その勢いを殺すには至らなかった。

「下がって、おっちゃん!」

「しかし!」

「邪魔ッ!」

「むぅ!」

 バルトガが右サイドへ飛び退く。

 同じタイミングで、ヒナが私の前に躍り出た。

「インサイト……!」

 片膝をつき、リボルバーを構えるヒナの目元で、エーテルの紋様が明滅する。

「そこ!」

 地を這う魔法が私たち二人を呑み込もうとした、その直前——マグナムのトリガーを引いたヒナの右肘から先が真上に跳ねた。

 炸裂音がこだまする。魔力循環の中心点に弾丸を喰らったアースドラゴンは、ヒナの目前で黒いエーテルを撒き散らしながら爆散した。

「キャハハハッ! あんただねぇ! 妙な武器を使う小娘は!」

「ジャスパーがビビった奴だよ! ギャハハハッ!」

「続けてきます、ヒナさん!」

「りょーかい!」

 アニィーの頭上に、鋭利に研ぎ澄まされた岩石の槍が生成された。十本のランスだ。数が多い。

「ヒナさん、やはり私の魔法で防御を!」

「いらない。フィリアねぇの白魔法は他の人の治療に回して」

「パンツァー!」

「ほらほらほらぁッ!」

 スマァーの魔法で硬度を増した槍が射出される。

「アクセル……!」

 ヒナは両手でリボルバーを構えた。

 最初、私は何が起こったのかわからなかった。

 襲いかかる十本の槍は、五本ずつコンマ数秒の時間差で撃ち落とされた。重く乾いた発報音が同時に響く。

 マグナムを速射した後、即座に左のホルスターの銃にスイッチし、残りの五本を正確に撃ち抜いたのだ。

〝あたしはゼウにぃみたいに練り込んだ術式を体の外に打ち出せない〟

 いつだったか、ヒナは言った。

〝でも、ゼウにぃの役には立ちたい。だから術式は、自分の身体機能をピンポイントで特化させるのに使うことにした〟

「キャハハハッ! やるじゃないか!」

「ギャハッ! ギャハッ! じゃあこれならどうかなぁ!」

 私だけではなく、フィールドにいる全員が息を呑んだ。今度は、アニィーの頭上に無数の石槍が姿を見せたからだ。

 ひとつひとつのサイズは先ほどよりも小さいが、数えられる物量ではない。

 その切先の全てが、ヒナに向けられていた。

「キャハハハッ! お前は磔刑だああァァァー!」

 無数のランスが流星群のようにヒナへ降り注いだ。

 だが、腰ベルトからパージした弾丸の空中リロードを終えたヒナは、笑っていた。

「フルアクセル」

 二丁拳銃を構えるヒナが腰を落とす。「ヒュ……」と短く息を吸い込んだ、直後——。

「ドドドッ!」という射撃音は竜王の唸り声のようだった。

 ヒナの両目と両手の甲でエーテルの紋章が激しく明滅する。威力が異なるリボルバーの超速射撃。

 それは、幾重にも重なるバレットの多重奏だった。

 しかもその射撃は、同時にではない。

 片方の再装填を行ないながら、もう片方で正確無比な射撃を続けていく。

 速すぎる。

 トリガーを引く指も、バレットの反動を殺す腕の動きも、まったく見えない。

 まさか、圧倒的な物量を相手に手数で上回るなどということが起こり得るのか。

 炸裂した弾丸は無数のランスを粉砕しながら、さらにそこから派生したゼウの術式が別のランスへ誘爆し、やがてウィザードとヒナの中間地点で黒く巨大な花を咲かせた。

「な……」

 花火のように爆裂したランスが全て消失した後、双子のウィザードの口元から笑みが消えていた。

「終わり? まだ弾あるけど。もっと来なよ」

「ガ……ガキがぁ……!」

 スマァーの合図で、魔物と装甲兵の軍団は進軍速度を速めた。

「見つけた! ありがたい。準備しなきゃ」

「下がりますか?」

「少しだけ。ゼウにぃ、イリアさん、聞こえる?」

《ああ》

《感度良好だよ、ヒナちゃん》

《こら、ヒナ。私を無視するな》

「あぁ、ごめんごめん。やっとラインを超えてくれたから、もういいよ」

 暴れて——と、ヒナは付け加えた。

 ふたつの旋風はフィールドの両サイドから発生した。

 ライン上にいる魔物とアーマー・モビールを蹴散らし、粉砕しながら、白魔法のステルスが解除されたゼウとイリアは中央にいる双子のウィザードに向かって同じタイミングで衝突した。

「! こいつら、前線にいたはず……!」

 ゼウの掌底とイリアの横薙ぎをいなしたアニィーとスマァーは、フィールドの西側を凝視した。

 ヒナの活躍であらかたの魔物が排除されたその場所を防衛しているのは、私が作り出したゼウとイリアのダミーだった。

「補助魔法で私に勝てると思わないことです」

 私は白魔法の使い手だ。

 攻撃はフラガラッハ様たちに任せる。

「さて……いくぞ、二人とも」

「あぁ」

「やってやります!」

 双子のウィザードと相対したゼウとイリアは、攻撃体勢をとった。

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