第四十七話
各方面の戦闘は同じタイミングで発生した。
「ふんぬらばッ!」
バルトガの戦斧が唸り、アーマー・モビールの巨躯が千切れ飛ぶ。驚異的なことだが、数の上では最も不利な真正面の戦局を、バルトガは一人で支えていた。
「アルト隊は隊列維持! 装甲兵の進行を抑えるぞ!」
「うちらは魔物を優先して数をへらすっスよ!」
アルトとジーナは戦術的な展開を見せていた。荒くれ者の集団にしては、その集団戦闘の様は鮮やかだった。
実力が突出しているのはジーナだ。ミドルソードの二刀流。派手さはないが、スピードが段違いに突出している。
そして、レフトサイドで派手な銃撃戦を展開しているのがヒナである。
「アクセル……」
逆手に持ったダガーナイフで手近な魔物を蹴散らしながら、中空から飛びかかろうとするガーゴイルの群れへダブルアクションのリボルバーを見舞う。左右に三発ずつ、速射された弾丸は正確に六体のガーゴイルの額を撃ち抜いた。
サイドからアーマー・モビールが放った肩口の魔道砲を、ヒナはバックステップで回避した。ウエストポーチから放出したムーンクリップの弾丸を空中でリロードし、ヒナはさらに別のガーゴイルの群れを仕留めた。
必殺必中。ヒナの両の目尻にエーテルの紋様が明滅する。
ゼウとイリアが後方のアーマー・モビールを押し留めている間に、ヒナは周囲の魔物をあらかた始末した。その圧倒的なスピードと立ち回りは、弾丸の「嵐」と形容して差し支えない。
「いい銃だけど、反動がいまいち」
ヒナは体を沈み込ませながら、リボルバーを左のホルスターへ収納した。と同時に、右のホルスターのリボルバーマグナムへチェンジする。
「アクセル」
前傾姿勢のまま、ヒナは前方に向かってしなやかに加速した。不規則な左右のステップにあわせて、激烈な発砲音がアーマー・モビールの首元のわずかな接合部へ叩き込まれる。
「むむ……!」
遠方のアーマー・モビールが放った魔道砲を紙一重で回避しながら、狙いを定めたヒナの一撃がアーマー・モビールの駆動部に着弾し、ゼウの術式が内部のエーテルを瞬く間に喰らい尽くすと、モビールは膨張しながら爆散した。
この装甲兵の魔道砲は厄介だ。魔力を撃ち出す武器は、生身の人間には携行できない。加えて、軍事用に開発されたアーマー・モビールはパワーも段違いだった。まともに対抗できているのはバルトガのみで、ジーナたちは暴力的な圧力と数の前に苦戦を強いられていた。
「フィリアねぇ、状況は⁉︎」
ヒナが弾丸の再装填をしながら私の隣まで舞い戻る。
「やはり、数が多いですね……」
敵の展開は三層だ。
最前面に魔物と装甲兵の混戦部隊。その後方にウィザードが二体、さらにその後ろに二……いや、三体のウィザード級が控えている。
異常な高魔力値でそれらがウィザードであろうことはわかるが、個体差までは判別することができなかった。
三方で、撃破したはずのアーマー・モビールの甲冑がより集まり、次々に復活していく。乗り手がいないにも関わらず、編隊を組みながら統率のとれた動きを見せるこの巨人たちを、魔物と共に操っている者がいるはずなのだ。
「にゃろー、後ろの方でこそこそと。絶対炙り出してやる」
「探し出します」
「違うよ。一緒にやるから」
「ニッ」とヒナが笑ってみせて、私の強張った頬がわずかに緩んだ。
「キャハハハッ! 思ったより善戦してるね、スマァー⁉︎」
「ギャハハハッ! そろそろ難易度を上げようよ、アニィー!」
バルトガが開いた中央のフィールドに、二体のウィザードが佇んでいるのが見えた。
髪の長さが違うだけの、双子のウィザード。紺碧の頭髪の奥に、邪悪な瞳が無邪気に歪んでいる。
「子供⁉︎」
「見た目に騙されてはいけません。ウィザードたちは、喰らった人間の魔力だけでなく、姿形まで吸収します」
つまり——あの二体のウィザードは数多の子供を捕食している。
「ギャハッ! ギャハハッ! パンツァーカイル!」
魔力の渦が小雨のようにフィールドへ散布された。
「む……⁉︎」
中央のバルトガが一歩ひるむ。アーマー・モビールがバトルアックスの一撃を真正面から跳ね返したからだ。
「後退だ! 下がれ!」
同様の事態はアルトたちの方面でも発生した。
装甲兵だけでなく、魔物たちの強度も増している。
「キャハハッ! どんどんいこうよ!」
アニィーと呼ばれたウィザードが右手を振り上げた。
「さぁ、自慢の白魔法で防いでごらんよ! できるかなぁ? できるよねぇ!」
大地が激しく地鳴りを始める。
ステータス強化と、地属性の魔法のコンボか。
面白い。
「エレメント……!」
私は大きく息を吸い込んだ。




