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魔剣は口を挟みたい  作者: 楠アキ
第三章 アンダーソン邸の攻防
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第四十五話 序

 闇夜をダガーナイフの煌めきが走る。

 音もなくはぐれゴブリンを三匹仕留めた後、ヒナは再び茂みの中へ身を隠した。

 街道からは外れた位置にある森の中を、ヒナは北上していた。その彼女の肩の上に、私は擬体を小型化してしがみついている。

 ヒナの首元に手を添えて直立する私のその様は、さながら妖精のようだった。

「ふぅ……多いね、魔物」

「ですが、ヒナ様の手際の良さは賞賛に値します」

 跳ねるように木の枝を登りながら、ヒナは苦笑した。

「その『様』っていうの、やめようよ」

「申し訳ありません。昔から、他者を敬うように設計されていますので」

「呼び捨てでいいじゃん」

「妹以外には、いささか抵抗が」

「じゃあ、ヒナっちで」

「ヒナっち?」

「あれ、だめ? むむ……じゃあ、まぁ、さんづけかな」

「承知しました、ヒナさん」

「敬語も禁止ね」

「それは……」

「ごめん、冗談。でも、あたしはフィリアねぇって呼びたい……っていうか、呼ぶって決めてるから、できるだけフランクに話してね」

「承知し……わかりました。私もヒナさんのことを末の妹と思って接します」

「へへ、いいね!」

 ヒナがニッと笑って、私も口角を緩めた。

「やっぱり、向かってきてるね……」

 ヒナは一番上の太枝まで行き着くと、屈み込みながら遥か前方に目を凝らした。

 その視線の先には、夜明け前のライトグレーの夜空が広がるばかりだ。

 私の白魔法で魔力のエコーを飛ばして索敵したいところだったが、逆探知される可能性がある。ヒナが偵察を申し出たのには理由があった。

「視えますか?」

「まぁね」

 体内魔力を集中し、身体機能の一部をピンポイントで特化させている。器用なことをする。このセンスは、ゼウの体術に通じるものがある。

「やっぱり、フラちゃんの予想通りだった……こりゃヤバいや」

「飛行船ですね?」

「前と同じくらいの大きさ。また透明になって、見えなくなってる」

 瞬間。

 私が展開していた白魔法のシールドがオートで作動した。

「……!」

 ヒナの眼前まで迫っていた漆黒の槍は、白い防御壁に激突すると衝撃波を生みながら砕け散った。

 魔力を凝縮させたスピア。まさか、ヒナの言う飛空船から放たれたのか?

「ムカつく……あの距離から当てられた」

 先ほどの視線の距離から憶測するに、それは三キロほど向こう側からの攻撃だった。

 いや、それよりも問題なのは。

「こちらの位置が特定されています。すぐに退避を」

「わかってる……!」

 深い闇に紛れて、追撃がくる。

 ヒナが木から飛び降りる。地面に着地した直後、巨木の上部が弾け飛んだ。

「なんでこっちの位置がわかるわけ⁉︎」

 ヒナの言う通り、彼女のエーテルは私の白魔法でコーティングされていた。ウィザードたちには、目視以外で探知することはできないはずだ。

「んなくそ……!」

 ヒナは獲物を探す猫のように鋭く目を細めた。

「ギャッ!」

 漆黒の槍が雨のように降り注ぎ、ヒナは慌てて後方へ飛び退いた。

 敵の姿が見えないことはストレスだった。

「ちくしょー! 後で吠えずらかかせてやる!」

 ヒナは森の中を全速力で後退すると、街道の脇に隠してあった二輪のウッド・モビールに飛び乗った。

 ウッド・モビールの速度を全開にしても、飛行機関のスピードには圧倒的に劣る。遠方から禍々しい圧力が迫ってくるのがわかった。

 だが、相対距離がまだ開いている内に、ヒナはラインを超えた。

「接触します」

「了解!」

 ヒナはアンダーソン邸へ向けてトップギアを維持した。

 その後方で、私が展開していたドーム状のバリアに振動が走った。

 激しく大地を揺さぶりながら、白魔法のシールドが砕け散る。

 ステルスを解除された飛行船が姿を現し、地表目掛けて落下し始めた。

「フラガラッハ様への報告、完了しました」

「ありがと、フィリアねぇ!」

 ヒナは不敵に笑って見せた。

「さぁ、おっ始めようか……!」

 こうして、アンダーソン邸を巡る攻防戦の幕が切って落とされた。

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