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魔剣は口を挟みたい  作者: 楠アキ
第ニ章 同棲編
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第二十七話

「いや! 本当に申し訳ない!」

 公応接室に響き渡る声で、バルトガはゼウに向かって頭を下げた。

 両手を膝についた首の角度は深く、豪快な謝罪である。

「いや、俺は別に……」

 頭をかくゼウを尻目に、バルトガの後頭部を副師団であるジーナが思い切りはたく。「パァンッ!」という音が小気味良い。

「まったくっスよ! 王様助けてくれた恩人殺そうとしてどうするんスか!」

「まぁ、そう言うな。わしも頭に血が昇っておったのだ」

「団長が頭に血が昇ってないことなんてありましたっけ?」

 ジーナとアルトに両サイドから責められ、バルトガは「シュン……」と縮こまった。

「ゼウさん。命を救っていただいたこと、感謝の念に堪えません。改めてお礼を申し上げます」

 アルトとジーナが揃って頭を下げる。

 ヒナは礼儀正しいアルトに熱烈な視線を送っていた。

 首都の復興作業は急ピッチで進められていた。深刻なダメージが残ったのは西地区のみで、他の地区の魔物の鎮圧が早かったのがよかったのだろう、王が治療中にもかかわらず、都市の機能は安定している。

 さすがに討伐祭は中止になったようだが、再び平原に数を増やし始めた魔物については、レオ師団と復興支援のために遠征してきたエステリアの騎士団、そこに有志の傭兵が加わって対応しているらしい。

「しかし、驚きましたよ。あなた方が聖魔神器をふたつも所持されていたとは」

「すまんな。謀るつもりはなかったのだが、ゼウが魔力を扱わない故、人語を操る必要もなかったのだ。今はイリアを主として世話になっている」

 私はイリアの膝上から声を発した。本来は腰に装備されているが、今は王都に招かれた手前、彼女の膝に置かれている。相変わらずピンクのリボンは付けられたままなのが無性に恥ずかしい……。

 フィリアもまた、自身の本体がドラウプニルであることと、白魔法の使い手であることを打ち明けていた。どのみちウィザードの連中が表立って行動を開始すれば、我々の正体はどこかでバレる。それが早いか遅いかの違いでしかないのなら、先手を打って外部に情報を漏らさないよう盟約を結んだ方がいいと我々は判断した。

「魔剣・フラガラッハ。神が作りし最古の聖魔神器。中央のエステリアでも拝めん代物だな。一度手合わせ願いたいものだが」

 無骨な笑顔でバルトガが私を覗き込んでくる。

 それを、ゼウが右手で制した。

「私としてはやぶさかではないのだが。このイリアの騎士を倒すことができれば、考えてみてもいい」

 眼光だけは鋭く、ゼウは無表情のままバルトガを見据えていた。

「ふん」と鼻息を残して、バルトガが引き下がる。

 フィリアから聞いた話では、バルトガはゼウに敗れているらしい。

(どうした、イリア? 何をもじもじしておるのだ? もよおしたのか?)

 両手を膝に置いてきょどきょどしていたイリアは、ビクッと体を震えさせた。

(違います! レディーに対して失礼ですね)

 イリアは隣のゼウを横目で一瞥した後、目を伏せた。

(だいたい、昨日フラガラッハさんが変なこと言うから……)

 ちゅーのことか。

 ゼウとの関係が私の魔力制御に多大な影響を与えるなら、さっさと交際を進行させろと思って言っただけなのだが。

 イリアが意識しすぎなのは間違いないが、ゼウはゼウでおかしなところがある。

 先ほどの行動もそうだが、心なしかゼウの距離がイリアに近いのである。ソファーが狭いのだろうか。

(手が……触れちゃいそう)

 やれやれ。

 乙女の恋心とは、かように大変なものらしい。

「ところで、エステリアの使者はいずこに?」

 フィリアが問う。

「もうそろそろ、こちらに到着すると思うんスけど……」

 その時、応接室の扉が勢いよく開け放たれた。

「待たせたな、師団長」

 その女性には、気品と野生味が奇妙に同居していた。

 高身長を包み込むハイクラスのアーマーからは身分の高さが伺えたが、それに似つかわしくない野蛮な魔力臭が全身から剥き出しになっている。この昂った闘気、直前まで魔物を討伐していたのだろう。

 どれほどの数の魔物を狩ってきた……?

「お待ちしておりましたぞ、ディアーナ殿」

 バルトガたちは同時に立ち上がり、敬礼した。

「ここは貴公らの国だ。しかも王は療養中で不在ときている。かたい挨拶はなしにしよう」

 ディアーナと呼ばれた女性は、ニッと快活な笑顔を見せた。

 なんだ?

 私は、彼女のその笑い方に見覚えがあるような気がした。

「高ランクの魔物はあらかた狩っておいた。沸いて出るまでには日がかかるだろうから、後はあたしの部下に任せておけば問題ないだろう」

「かたじけない」

「バルトガ殿と共闘できるかと思っていたのだが、残念だ。貴公ほどの手練が負傷するとは、王都へ侵入した魔物はよほど強力だったのだな」

 ジーナにもの凄い形相で睨みつけられ、バルトガが再び萎縮する。ヒルビリーの賊に素手でのされたとは言えなかったらしい。

 おや? と、私は思う。

 ディアーナの方を振り返ったゼウたちの表情が、初めて会う相手に向けられるものではなかったからである。

「お久しぶりです、ディアーナ様」

 フィリアとイリアは恭しく頭を下げた。

「一年ぶりか。やはりお前たちだったんだな」

 自分の娘に向けるような眼差しを、ディアーナは見せた。

 フィリアとディアーナの視線が絡む。

「この場におられる方々には、私の正体を開示することにいたしました」

「そうか。お前がアイシャの擬体を使っているから、そんな気はしていたよ。あたしが来ることにして正解だったようだ」

「こちらのアンダーソン兄妹に助けていただいたのですが、事態は少々複雑です」

「そのようだな」

 ディアーナはゼウとヒナに対しても、自分の身内へ向けるような眼差しを向けた。

「久しぶりだな、ゼウ、ヒナ。まさかお前たちまで絡んでいるとはね」

「お久しぶりぶりです、ディアーナ様」

 ソファーから身を乗り出して、ヒナが「やっほー」と手を振った。

「お知り合いなのですか⁉︎」

 イリアがゼウとディアーナへ交互に視線をやる。

「こいつらの師匠とは因縁があってね。プコットのやつは元気にしてるのか?」

「旅に出ているので、俺も詳しい消息は知りません」

「自由人め。こっちは山ほど話があるっていうのに」

 ディアーナはふんと鼻を鳴らした。

「さて……ということは、あたしが初対面なのはイリアが持ってる聖魔神器だけってわけだ」

「なるほど、そうか」

 全員の視線が私に集まる。

「おぬし、アークの子孫だな?」

 ようやく思い至った私は、思わず声を張り上げた。

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