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魔剣は口を挟みたい  作者: 楠アキ
第ニ章 同棲編
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第二十六話

 アンダーソン邸の裏庭に、鈍い激突音が何度も響く。

「はぁあッ!」

 イリアの左右からの二連撃を、ヒナは両手のトンファーで受け止め、流した。

「タイミングはいいが、踏み込みが浅いぞ!」

「は、はい!」

 イリアの呼吸はすでに乱れているが、構えたまま軽やかにステップを踏むヒナにはまだ充分な余力がある。

「あと一回! イリアさん!」

 ヒナの激励にあわせて、イリアは下方から刃を薙いだ。今度は深く、速度も充分だ。

「甘いね!」

 ヒナはその一撃にも右のトンファーの打ち下ろしで対応する。だが激突の直前、イリアは強引にグリップを引き戻すと、反時計回りに体を唸らせ、逆サイドからの回転斬りを見舞った。

「とった!」

 当然斬量はゼロにしてあるが、私の刃がヒナの首元でピタリと止まった。

「はぁ……はぁ……」

 イリアが満足そうに微笑む。

 だが、ヒナはニヤリと笑った。

「どうかな?」

 ヒナの左のトンファーは、イリアの脇の下へ深く当てがわれていた。

「うそ……」

「ホント」

「ヒナの方が速かった。イリアの負けだ」

「ガーン……」

 レジャーシートに並んで腰掛けながら、ヒナはイリアへドリンクボトルとタオルを手渡した。

「ありがと、ヒナちゃん」

 イリアは三角座りで塞ぎ込んでいる。

「イリアさん、いいセンスしてると思うよ」

「甘やかすな、ヒナ。運動量は魔力で補うとしても、体の使い方は覚える必要がある。素振りは毎日千回だな」

「ガガーン……」

「フィリアを守れるようになりたいのだろう? 泣き言はやってみてから言うのだな」

「はいぃ……ぐすん」

 そこへ、裏山へ山菜と薬草を採りに行っていたゼウが帰ってきた。背中の籠がきのこや野草で満載になっている。

「おかえり、ゼウにぃ」

「ちょうどいい、イリア。ゼウをこっちに呼んでくれ」

「えぇ? お姉ちゃんとお昼ご飯作るって言ってたから、迷惑なんじゃあ……」

「少しだ。構わんだろう」

「わ、わかりました」

 裏口から台所へ行こうとするゼウを、イリアは立ち上がって呼び止めた。

「?」

「あの……フラガラッハさんに呼び止めよと言われまして……」

「イリアさんの体の使い方、見てあげてよ」

 私の意図を汲んだヒナが助け舟を出す。

「それは、いいけど……剣技についてはわからないぞ?」

「ナイフとダガーなら使うでしょ? 力の入れ方の緩急だけでいいから、コツを教えてあげて。あたしはけっこう感覚でやっちゃうタイプだし、こういうのはゼウにぃの方がうまいでしょ?」

 ゼウと目が合って、イリアはペコリと頭を下げた。

「ヒナ」

 もごもごしながらゼウを見つめているイリアを横目に、私は座り込んでいるヒナへ耳打ちした。

「りょーかい」

 私を構えたイリアの正面に、ヒナがショートソードで対峙する。武芸百般、銃以外にも幅広い武器を扱えるヒナは天才肌の持ち主だった。

「はあぁッ!」

 イリアが上段から斜めに斬り下ろす。鈍い金属音が響いた後、しかし腰を落としたヒナは片手のみの剣で受け止めた。

「ゼウにぃ」

 イリアが落ち込み顔で離れた後、ヒナはゼウを手招きした。

「な、に……?」

 ゼウの頬が紅潮する。

「いいから」

 今度はシッシッと手払いされ、ゼウはイリアへ近づいた。

「あ……どうですか? ……って、ダメですよね、全然」

 突然ゼウがイリアの両手をとって、彼女は体を硬くした。

「うえぇッ⁉︎」

「あの……が、がんばってください。イリアさんなら、絶対すぐに上達しますから」

 言ってから、ゼウはニヤつきながら腕組みをしているヒナを振り返った。

「が……」

「え?」

「がんばります……ッ!」

 驚くべきことに、それだけでイリアの魔力値が一・五倍にまで膨れ上がった。

「どおぉぉりゃあぁぁぁッ!」

 再びイリアが上段からの袈裟斬りを放つ。

「うそ、ヤバ……!」

 先ほどとは比べ物にならない踏み込みから放たれた一撃に、ヒナは両手でショートソードを構えた。

 斬り結ぶには至らなかった。

 イリアの斬撃はヒナのショートソードを叩き斬り、折れた刃が高々と中を舞った。勢いは止まらず私の刃は地面に着弾し、「ズンッ!」と裏庭を震動させて放射状の破壊痕を作った。

「す、すごい……」

 やった本人が一番驚いている。

 やはりそうだ。

 華奢な見た目とは裏腹に、イリアは典型的な脳筋のパワーファイターだ。

「あ……」

 イリアの足がカクンと折れて膝をつく。

 ゼウが絡むと段違いに魔力も剣圧も上がるが、常時フルパワーで解放するから、すぐにエネルギー切れになる欠点も抱えている。

「イリア」

「は、はい?」

 私は真面目な声で言い放った。

「お前、早くゼウとちゅーしろ」

 一瞬きょとんとした後、イリアは頭からホットな湯気を立ち昇らせた。

「えぇぇーッ⁉︎」

「?」

 私の声を拾えないゼウだけが首を傾げていた。

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