第二十三話 序
(な、ななななんでこうなったの……⁉︎)
イリアの心臓がバクバクと早鐘を打つ。
湯煙で湯船の中の視界は悪いが、イリアの背中から腰に両手を回しているのはゼウで間違いなかった。
アンダーソン家自慢の檜造りの大浴場。
広い湯船の中で、当たり前だがイリアもゼウも何も身につけていない。
これはイリアの夢でもなんでもない。裸のゼウが、裸のイリアを背後から抱きしめている。
「イリアさん……」
「は! はいぃ⁉︎」
ゼウの唇が、甘い吐息と共にイリアのうなじに押し当てられる。
「あ……」
くちゅ……と、ゼウのリップが触れる首筋から音が鳴って、イリアはふるっと身震いした。
「ん……」
「……………」
ゼウの逞しい胸板が、イリアの背中に密着している。
激しく高鳴る鼓動が彼に伝わってしまう——それがイリアはたまらなく恥ずかしかった。
「……⁉︎」
ゼウの右手がイリアの腹部をなでるようにゆっくりと迫り上がる。人差し指と親指が、イリアの双丘の裾野にやさしく触れた。
「あ……だ、だめです、ゼウさん。お姉ちゃんの、腕輪……ある、から……」
そう言いながら、イリアは右手を後ろに回して、ゼウの頭をかきむしるように抱き寄せた——。
なぜこんな状況になったのか。
話は一週間ほど前に遡る。




