【三題小説】「忘れられた手紙」「古い時計」「嵐の夜」
それは嵐の夜の事でした。
今まで見た事もないような雨と風に見舞われた
カヤネズミのトールは、一人の孤独な老婆の小屋に迷い込みました。
暗い部屋の揺り椅子の上で、おばあさんは静かに泣いていました。
でもトールは、人間がネズミを追いかけて、ひどい事をする事をしっていました。
親が人に捕まってから、生まれてこの方、たった一匹でさまよってきたのです。
だから音を立てないようにそっと眠る場所を探していたのですが、
ようやく古い時計の奥に柔らかい寝床を見つけた時です。
気を抜いた隙にしっぽが触れて、カチリと振り子が音を立ててしまいました。
「こんばんは、ネズミさん」
トールは腰を抜かして、振り子の下まで転げ落ちてしまいました。
でも、おばあさんはトールをそっと手に乗せると、寂しそうに微笑みました。
「あなたも私と同じ、ひとりぼっちなのね。私は若い頃は、多くの男から声をかけられたわ」
「でもたくさんの男と付き合ったのに、何も私の手には、残らなかったの」
トールはこの悲しいおばあさんに、寄り添ってあげたいと思いました。
「私は求められる事が愛される事だと思っていた。ただ誰かに愛された証が欲しかったのに。そう思っている内に私は衰え、今は動かないこの時計のような、誰も見向きもしない存在になってしまった」
トールはひとつ身じろぎすると、時計の中に消えていきました。
「ああ、いかないでネズミさん」
トールは古い時計の奥から、見つけたばかりの柔らかい布団を抱いておばあさんの下へ戻りました。
「まあ、これは手紙?」
それは、忘れられた手紙だったのです。
“かわいいリリィへ”
それは誰も呼ばなくなった、おばあさんの名前でした。
ああ、とおばあさんは震える手で封を開けました。
“リリィ、この手紙が見つけられるくらい、大きくなったのですね。
お母さんは病気で、その姿を見る事ができないでしょう。
でもわたしは思い浮かぶだけの、貴女の幸せを思い描いて天国へいきます。
そして同じだけ、貴女の悲しみを抱き締めていきます。
生まれてきてくれてありがとう。”
リリィは若い頃から男の家を渡り歩いて、家に帰らない娘でしたので、今日までこの時計の秘密に気付かなかったのです。
おばあさんは、ふと気づきました。
どんなに裏切り、裏切られた日にも、お母さんの残してくれたこの家だけは、
雨の日も、風の日も、嵐の日も、彼女を暖かく迎えてくれた事に。
今この時も嵐の中でおばあさんのかよわい命を、守ってくれている事に。
「生きてこの世にある事が、愛された事の証なのね」
手紙の引っかかっていた歯車が動き出し、古い時計がコチコチと時を刻みはじめました。
おばあさんはもう、一人ぼっちではありませんでした。
トールもおばあさんの側に寄り添い、もう、さまよう事はありませんでした。
それは嵐の夜の事でした。
そして嵐のやんだ朝の、出来事でした。
【俺後書き】
さてようやく私も、ストーリーを見せたら
どんな反応を返してくれるのか、気になって参りました。
お題から一時間くらいで書いた物語です。
こうして見ると、最初に時計の中で見つけた柔らかい寝床が後で持ち出す手紙の事だとは、わかりにくいですねえ。
全体的な唐突感は、AIさんにも指摘されてしまいます。