殺人既遂 第二話
HRの時間になった。
神賦先生が教室に入ってくる。
アサヒの席だけは、相も変わらず椅子が仕舞われた侭である。
それ以外は、普通だ、当たり前だ。
だと言うのに、何かが、いつもと違う。
そう感じられて仕方が無い。
神賦先生も、いつもと変わらない顔の筈だ・・・・・・
それでも、何故か、いつも以上に、いや、見た事無いほど、
険しさという物が感じられてならない。
他の生徒は気にしていない。
気にしている素振りも、いやそもそも、氣附いた素振りさえ見えない。
気にしすぎなだけなのか・・・・・・?
ライトの方を片目に見る。
目線が合った。
ライトも、何か、感じ取っているのだろうか・・・・・・?
普段通り、HRを始める朝礼が行われた。
其れが終わると神賦先生は神妙な面持ちで話し始める。
「見ての通り今日アサヒが来ていない。其れについて今日の一限目に、体育館で全校集会が開かれることになった」
教室が騒めく。それはそうだろう。
生徒が一人来ていないだけで、全校集会が開かれるなど、只事では無い。
騒めくとは言っても、反応は其々だ。
アサヒの身を按ずる者、何があるのかと恐怖する者、授業が潰れたと嬉しむ者、普段とは異なる様子に興味を示す者、様々だ。
神賦先生が話を続ける。
「其の他には特に連絡事項は無い。全校集会に遅れない様に」
其れだけ言うと、神賦先生はHRを終える礼を促す。
其れが終わると、そそくさと教室から出て行ってしまった。
神賦先生にしては珍しい・・・・・・
それ程何かが起きていると言う事なのだろうか・・・・・・?
アサヒに、何も無ければいいのだが。
ライトが席に近付いて来る。
「アサヒの身になんかあったってことだよな・・・・・・?」
「そうだよね・・・・・・態々アサヒの事を訊かれたって事は、行方不明とか・・・・・・?」
「でも行方不明で全校集会まで開くか・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・?経験なんて有る訳も無いし・・・・・・」
「まぁそれもそうだよな・・・・・・」
そう一言二言交わし、体育館への移動を始める。
移動中に見る他クラスの生徒は、困惑している様子が見て取れる。
此れから始まる事への懐疑を抱きつつ、足早に移動する。
ーーーーーーーーー
程無くして、全生徒が体育館に蒐められた。
校長先生が演台に立ち、話を始める。
「今日、緊急でこの様な集会を開いたのは、我が校の生徒に、忌々しき、そして不幸な事件が発生したからです」
一同が騒めく。
この様に集会を開く程の事件とは、一体何なのか。自らの身は大丈夫なのかと、思案する声が聞こえる。
「静粛に!」
声が飛び交う生徒を、教頭先生が制す。
それを確認して、校長先生が続きを話し始める。
「名前は伏せます、が、今朝、この学校の生徒が死体となって発見されました」
状況の理解が出来無いという、最早断末魔と言える声を其の儘に、校長先生は続きを話す。
「死亡時刻は昨晩の深夜頃、死因は、刃物による刺殺と見られ、凶器は、」
一拍を挟み、その事実が伝えられる。
「付近に落ちていた、我が校が所有するカッターナイフであると見られています。
つまり、今此の場にいる、教師・生徒の中の誰かが、其の犯人である可能性が高いと推測が為されています」
体育館に様々な声が飛び交う。
其れが真実なのかと懐疑する声、自らに狂気の手が伸ばされないかと案ずる声、殺人犯と同じ場所には居られないとパニックに為る者。
決して已己巳己では無く、其々の反応には個性が出る。
其れが人間の面白い所でもあるが。
だが、僕はその事実に対して、あまり気にしていなかった。
いや、何も思わなかった。
同じ学校の生徒と言うだけで、他人なのだ。
そんなこと日頃常に何処かでは、起こっているじゃないか。
それに、凶器が見つかっているなら、普通は犯人も直ぐ分かるものではないのか?
死体も凶器も昨日今日で直ぐ見つかっているのだ、人を殺したいだけなら証拠は残さないが普通だろう。
なら自分にその被害が来る事は先ず無いのではないか?
そうやって、自分の無関心に言い訳を重ねていた所で、或る事を思い出す。
神賦先生は、HRの時間で、アサヒが居ない事についての集会と言った。
まさか・・・・・・死んだのは、アサヒ・・・・・・?
そうで無いと信じたいが、あの質問を思い返すと、
いやこの状況だと、そうとしか思えなかった。
でも・・・・・・アサヒが他殺されるなんて・・・・・・
あの男は、予言者か何かだったのか?
それとも、何か知っていた?
そこまで考えていると、ふと、
今迄に無かった疑問が浮かぶ。
生徒が、死体として発見されたんだぞ・・・・・・
もっと慌てるなり感情が溢れるなりしないのか・・・・・・?
何故先生達は、こんな、機械の様に事務をこなすだけみたいな・・・・・・?
お久しぶりです
花筏です
第一話とかなり時間が空いてしまいましたが、
ちゃんと書いています。
気まぐれではありますが、Youtubeにて、
これから茶番劇動画としても投稿していく予定です。
なにとぞよろしくお願いいたします