殺人既遂 第一話
「ねっむ」
いつも通りの朝にいつも通りに起床する。特段変わった様子のない毎日をただ過ごしている。
別にそれが悪いと言っているわけでは無いが、なにか刺激が欲しいと思うのは当たり前だろう。
「おはよう」
リビングに降りると、母親にいつも通りの声をかけられる。
「おはよう」
「あさごはん用意してあるから、早く食べて学校行きなさい」
「ん、ありがと」
そうして用意された朝食を食べる。
うん、おいしい。いつも通りだ。
食べ終わった皿は、シンクに置いておく。
そうして部屋に戻り、学校へ行く用意をする。
「思ってたより時間あるな」
いつもより少し早く起きたらしい。
たまには少し早く出てゆっくり行くとするか。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そうして玄関を開ける。
朝に吹く風は冷たい。
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「ちょっと、君。これ落としたよ」
学校への道で、声をかけられる。
その人の伸ばす手には、ポケットに入れていたはずの僕のメモ帳がこちらの向けられている。
「あ、ありがとうございます」
メモ帳を受け取り、ポケットに入れ直す。
そうして道の方に向き直ろうとしたが、また話しかけられる。
「これも何かの縁だ、君に一つ質問をしていいかな?」
今日は早く出たから時間はあるよな?
メモ帳拾って貰ったし、聞くことにするか。
「いいですよ。どんな質問です?」
「では、君は友人が死体で発見されたと知ったらどう反応するかい?」
「え?」
「もう一度言ようか?」
「いや・・・・・・大丈夫です」
友達が、死んだ事を知ったらどうするか。
そんな事考えた事がなかった。
想像ができない。
「えっと、普通に悲しむんじゃないですかね。なんで死んだのかって強く思うと思います。」
「なるほど、確かに普通の答えだね。だけど、この質問は前置きだ。この質問に少し付け足しをしよう。もし、ーーーーーーを知ったら?」
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僕は、さっきの質問を思い返す。
全く想像できない。
『この質問は無理に答えなくていいよ』
彼の言葉が妙に頭から離れない。
歪んだ声が頭の中で反芻する。
そうこうしてるうちに学校が見えてくる。
今あまり良い気分とは言えない。
一限までに治るだろうか・・・・・・
「よおカスミ。朝から憂鬱か?」
そうしていると、急に声を掛けられる。現実に引き戻された。
幽は僕の名前だ。不知幽。容姿とカスミという名前のせいで女性に間違えられる事があるが男である。
「まぁ、そんなところだよ」
僕は曖昧な返答を返す。
「まぁまぁそんな暗い表情するなって。楽しんだもん勝ちだろ?」
この陽気さを繕おうとしている人は、譜環羅絲。クラスメイトで、僕の数少ない友人の一人である。
「それもそう、だな・・・・・・」
納得はできないが表面上だけでも同意する。
やっと学校の名前が書かれた門が見えてきた。
毎日通う通路だが、しかし何故か普段よりも長く感じられた。
「今日先生いないな?」
「そうだね、いつもはいるのに・・・・・・」
当たり前の様に他の生徒たちは校舎へ歩いていくが、校舎内はどこか忙しい様に感じる。
「なんかあったんか?」
「大事じゃないといいね・・・・・・」
そうして他の生徒と同じ様に校舎の下駄箱迄歩いていく。
「カスミ!あぁあとライトも!ちょっとこっち来てくれないか?」
不意に離れた職員室前の方から名前を呼ばれる。
振り返ると、戸から顔を出している髪が整えられていない高身長の男性教員がいた。
「神賦先生?なんかあったんですか?」
疑問を感じつつ、そちらの方に向かい歩く。
「あぁ、ちょっと二人に聞きたいことがあってな」
そう言うこの男性の名前は、神賦諭祇。僕とライトのクラスのHR担任である。
「どうしたんすか?」
神賦先生は急に険しい顔になり、声色の低い声で問いかけた。
「昨日の深夜、アサヒが何をしていたか知らないか・・・・・・?」
恐らく、アサヒというのは僕達の友人である、尸代昕碑のことだろう。
「いや・・・・・・分からないですね」
「それって具体的に何時頃とかありますか?」
ライトの質問に対し、神賦先生は「少し待ってくれ」と返し職員室に入っていく。
「アサヒになんかあったのかな・・・・・・」
「こうやって訊かれるって事はなんかあったんだろうな。大事じゃないといいが・・・・・・」
そうして少し経つと神賦先生が戻ってくる。
「大体12時以降だな」
「そんな遅い時間は分かんないですね・・・・・・」
「アサヒのことだし、寝てるかゲームだと思うけどなぁ・・・・・・」
「・・・・・・そうか、詳しい事はHRの時に話すな。教室に行っててくれ」
「わかりました」
そうして職員室から離れて、教室に向かう。
一見すると普段とあまり変わらない教室。
しかし、よく見るとアサヒの席が空席になっていることに気付く。
ふと、登校している時にかけられた質問が頭によぎる。
『友人が、死体で発見されたと知ったら』
そんなことない、と思うが、そんな話をした後だとどうしてもそういった思考になってしまう。