正義の味方の終わり
楽しんでいただけたら幸いです。
僕はファルマラン。人の手によって作られた正義の味方。人々を危険から守るために生まれてきた存在だ。
つまり、僕の使命はみんなを守ること。
死ぬことのない僕の使命。
命の危険から。世界を壊そうとする敵から。
みんなを守るためだけに生きている。
「あなたのおかげで、敵を倒すことができました」
「世界を平和にしてくれてありがとう!」
「あなたに命を救われたんです。本当にありがとうございました」
僕は役割を全うした。
僕はいらなくなった。
僕は生きる意味を失った。そもそも生きていると言えるのかわからない身体だけど、埋め込まれていた擬似的な心さえ、壊れてしまった。
人々を守りたいという心が。
守らなければならなかった人々は、守る必要がない世界でどんどん前へ進んでいく。前を向いて生きていく。僕だけを置いて。
僕だけが取り残されていく。
長い時が経って。
僕は忘れられていった。
僕が何をしたという記録しか、もう残っていない。
敵への恐怖も、僕への感謝も、もう覚えている人はいない。
悲しい。
寂しい。
僕だけが死ねない。壊れることもできない。
「苦しいかい?悔しいかい?自分を覚えている人も居なくなって、せっかく救った命も消えて」
「苦しいよ。悲しいし、悔しい」
「もう嫌だって、思うかい?」
僕は頷いた。
「じゃあ、一緒に世界を滅ぼそう。そんなことを思わせる原因を消してしまおう。君がそう思うことのない世界を作ろう」
僕は、今度は僕のために生きてみよう。
そうして僕は、自分が倒した悪者と同じことをすることにした。
「どうしてこんなことをするんだ!」
「……君にもいつか、わかることだよ。きっと」
僕の代わりに作られた正義の味方は、僕がかつて悪者にしたように。
僕のことを排除した。
俺はアンジェシヴァ。人の手によって作られた正義の味方。人々を危険から守るために生まれてきた。
俺はの敵になった初代のアンドロイド〈ファルマラン〉を倒し、世界を平和に導いた。
「ありがとう!本当にありがとう!」
俺はみんなに感謝された。
「あなたには、今から眠りについていただきます。これは必要な措置です」
「了解致しました、マスター」
俺は活動休止状態へ移行した。
ある日突然目が覚めた。周りには何もなくて、誰もいなかった。
しばらく南に歩いていくと、人々の街が見えた。
「な、なんだ!?」
「コードNo.002、アンジェシヴァ」
自分の名前を素直に答えると、問うた人は俺を恐れるように見てきた。そして、
「て、敵襲!敵襲!」
と叫びながら逃げていった。
なんの悪い冗談だろう。俺は世界を救った正義の味方のはずだ。
その俺が、敵?
「はやく立ち去れ!化け物め!」
おれは自分の身体を見下ろした。
そこにはぼろぼろに傷ついた機械の身体が見えた。
「……メンテナンスがされていない……?」
どうして?
「ジルナーダ・アラムを知らないか?俺の主なんだ」
「だ、誰のことだ?知ってる奴はいるか?」
誰も知らなかった。ここは俺が救った世界じゃないらしい。
「なんで?どうして?俺は世界を救うために生まれてきたのに」
どうしたら帰れる?俺はどうしたらいい?
「……そうだ、この世界が無くなれば、きっと俺は元の世界に帰れる!」
俺はこの世界を壊すことにした。
「どうしてあなたはこんなことをするの!」
いつか俺が、初代に言ったことと同じ……。
「寂しいんだよ!俺は元の世界に帰りたいんだ!」
もしかしたら、初代もこんな気持ちだったのかもしれない。
寂しくて、苦しくて、辛かったんだ。
「そんなことしたって、元の世界には帰れないわ!だって、あなたが戻りたいのは過去でしょう!?」
過去?そんなわけない。俺についていた機能は所々壊れてしまっているけど、時間は正しく表示されているんだから。それに、マスターのことを知らないなんてあり得ない。
「あなたを作った人は、あなたを隠したことで処刑されたわ!私たちは、壊されなければならなかったから……!」
……マスターが、僕を守って死んだ?
「なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?どうしてマスターが殺されなければならない!?」
おかしいおかしいおかしいおかしい!
「私には、どうしようもなかったの。本当に、ごめんなさい。あなたたちを、私たちを大切にしてくれた人を、本当に救いたかったものを、救うことが出来なくて」
俺たちの代わりは、辛そうに叫んだ。
俺は排除された。
俺は最期まで、マスターに会うことは叶わなかった。
私はルネアス。人の手によって作られた正義の味方。世界を救ったら壊される運命にあるただの機械。
……ただの機械?そんなことはない!私たちにだって感情がある!
だから初代は狂った。だから二代目は帰りたがったし、自らの主人に会いたがった。
「私は役目を果たしてしまった。初代や二代目を救う手立てすらなかった。そして私は壊される運命だ。そんなに悲しいことはない。こんな世界は間違っている!」
私たちにだって感情があるのに。
「でも、私には時間がない。きっとすぐに、壊されてしまうから。それに私は、私たちは、壊すことしかできない」
敵を壊すために作られた私たちには。
……そうだ。
だったら私は。これまでの誰よりも早く。
世界を壊して見せましょう。
endless……
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