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 さて、〈虎〉は。

 とろん、とした顔で、人間どもを眺めていた。

 いずれも酔っていて正体がない。

 そんな様子もおもしろく、またごろり、と寝返りを打った。

「虎」

 その虎に、小声で呼びかける者がある。

「虎の先生」

 子供と、もじゃもじゃしたもの。

「ちょいと、窮屈じゃあありませんかい?」

 もじゃもじゃしたものは、人間のように見えたが、どうにももじゃもじゃしている。頭の毛は伸び放題で、髭も真っ黒。きょとん、とした大きな目玉が光っている。

「檻は、窮屈ですよねえ?」

「そおでもないさ」

 驚いたことに、虎はのんびりした声でそんなふうに反してきた。

「とらは、ゆっくり眠れればどこでもいいんだよ」

「そんなあ。先生」

 もじゃもじゃが、困り声になる。

「ぜひ、先生をお招きしたいという方がおりましてね」

「困っているのかい?」

「え」

「とらは、困っているところにいくんだ」

 どうしたはなしか。

「困ったこどもと、困ったかあさんをこのあいだも食べたよ」

 恐ろしい話が出てきた。

「困っていません」

「困ってないです」

 あわてて子供ともじゃもじゃが言う。

 すると虎は、

「そうかね。でも、困ったらいつでもおいで」

 もじゃもじゃが、ぶるり、と身ぶるいをひとつした。


   * *


 さて。こちらは明春と奥方。

「何をお題にいただきましょうか」

「よせ、明春」

 バルテリンク氏の止める声など届かぬようだ。

「なあに。余興ですよ。この筆がまこと妖術使いの霊験あらかたなるものか、とくとご覧いただきましょう」

 どこからか紙も手渡された。

「では……そうだな、」

 明春は、店のものを呼びつける。

「この部屋に来る廊下の角に、鸚鵡おうむの籠があったろう。そいつを書こうじゃないか」

「そんな、先生」

 番頭はおそれをなす。

「虎がおりますので、鸚鵡は遠ざけていたのですよ」

「俺の虎は、鸚鵡など喰わんよ」

 奥方も加勢した。

「そうよ。虎からは見えないように衝立でも立てましょうよ。鸚鵡の絵なんて、なんてありがたいんでしょう。きっと妾の屋敷に置かせていただきますよ。それともあの虎のように抜け出て、この店の二羽目の鸚鵡になるかしら。また評判になるわよ、番頭さん」

 何となく言いくるめられたかたちで、しばらくのち主人とも話がついたのか番頭は、鸚鵡の籠と屏風をそれぞれ持った小僧たちを連れて戻ってきた。

「ぐわあ」

 鸚鵡はひと声鳴いて、

「酔っぱらいばかりだなア。ああ、酒くさい酒くさい」

「おっ。こいつさっきはひと言も口を利かなかったのに、宴席では違うようだな」

 そんな軽口を申して次には明春、目の色が変わる。

 絵師の顔だ。

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