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神経症の世界へようこそ  作者: 佐山幹次郎
9/10

会議

 会議には出ないで良いとのことだが、こんないい機会を棒に振るわけにはいかない。申し付けられたお茶出しに専念すると見せかけて牧師をよく観察しよう。幸い、牧師夫人もセットの会議なので、今の私はノーマークだ。耳をそばだてれば聞こえるし、隙間から様子が見て取れる。牧師はホームだからか、どこか偉そうにしていて、牧師の味方だと考えられる若手の牧師たちが牧師に話を合わせているような顔色を窺っている一方で、それ以外の牧師たちは淡々と議論を進めるという不自然な雰囲気がある。しばしば牧師はあれこれとちゃちゃを入れるのだ、まるでクラス会の話し合いでお笑い担当がボケコメントを入れるような感じだが、全員大人の会議であの人は何をやってるんだろうかと我が目を疑う。それに隠しきれていない苦笑いで反応する若手牧師たちと、さらりとスルーする他の牧師たちで会議は二分している。面と向かって「やめなさい」と咎められない他の牧師の姿にだらしがないと思うが、できない理由がどこかにあるのだろう。誰にも止めてもらえない牧師はまるでお山の大将のようにニヤニヤしている。

 しばらくして、一人の牧師が、カップを見た後に顔を議案に向けたので「今だ」と思っていそいそとお茶を追加しに行った。牧師は少しぎょっとしたようで「先生どうしたの?」私はとぼけて「お茶の追加を」と答えると「変なところで気が利くね」といじってくる。私は、我関せずと他の牧師たちのカップにそれぞれ追加のお茶なりコーヒーを入れて回る。すると年輩の牧師が私に「先生はこの会議に出ないの?教会に赴任して働いているのだから、出席することは可能と思いますけれども。」…なるほど、やはりこれは牧師の策略だと思うやいなや、牧師が何か言いかけそうになったので先手を打った「いえ、私はまだ良くわからないので、顔見世だけで大事な会議に参加するのはもったいないです。今日はお茶出しで失礼させていただきます。」すると牧師が「先生、気を使ってくれてありがたいけど、きっと疲れてるだろうし、会議の間ずっと教会にいてくれなくていいんだよ。家、隣なんだし会議が終わったらまた教会に来てくれればいいから。」とのたまう。「分かりました、ではまた後で来ます。」と返事をするも、内心こんな不自然な会話があるかと可笑しかった。会議の様子も見られたくないのか、警戒しているんだなあと納得しながらアパートに帰り、一息つく。できれば、またあの牧師に対して良く思っていないか中立の牧師と接触できれば良いと思うも機会がなさそうなので、アパートから張ってみることにした。誰かが教会の玄関から出たら向かえばいいのだ。言い訳はどうとでもできる。

 やがて教会の玄関が開いた、教会の中もなんとなくざわざわしている様子なのが音で分かったので教会に向かった。そこには案の定、帰りがけの牧師たちがいた。牧師と夫人はこの場にいないことを確認して、帰りがけの牧師に挨拶をした。すると、相手もあの牧師がいないのを少し周り確認してから「お茶出しありがとう。教会はどう?君すごいね、最初にリクエストしたのと同じのをさりげなく追加で出してくれたでしょう。今度の会議には出るのかなあ、でもあの先生だしね。僕は秋山と言います。良かったら連絡先教えてもらってもいい?」多分この牧師は何か知ってると直感して、番号だけをさっと書いて渡した。すると相手の牧師はすこし驚いた顔をして「ありがとう。後でショートメール入れるよ。」とだけ言って帰っていった。会堂の中に入ると牧師は若手の牧師と談笑している。「会議お疲れさまでした」と声をかけると、牧師は上機嫌だった。カップなどを洗っていると、全員を見送り終わったのか牧師がキッチンに入ってくるや否や牧師はこう言った「先生~、あれはマズいよ。途中で出てきたら『あれ?この人会議盗み聞きしてたのか?ちょっと危ない人だなあ』って思われちゃうよ?僕ドキッとしちゃったよ。気が利くのは良いけどさ~TPOってあるじゃない?」TPOがないのはどっちだ?と思いつつ「すみません、これから気を付けます。うちの実家の母がしてたことを真似してみたんですけど、良くなかったですか?」すると「まあいいけどさあ、っていうか先生マザコンなの?恋人できないよ~。とりあえず今日はお疲れ様。」と牧師は早々に話を切り上げて帰っていった。


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