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神経症の世界へようこそ  作者: 佐山幹次郎
6/10

陋劣

 次の日、つまりは日曜日。彼女は教会に来ていなかった。とはいえ、そのことの意味に勘づく人間は私だけだ、もともと仕事が日曜日にかかることもある彼女だ。牧師をはじめ誰も不思議に思わない。午前中の礼拝では牧師が十戒の話をしている、いわくのあるであろう背景がある人間かこうも偉そうに説教している姿に内心白々しく聞いていた。礼拝が終わって教会の人たちと昼食を取っているとき、ふと見た携帯には彼女からメッセージがあり「先日はありがとうございました。今日は休みます。」と入っているのに気が付いた。とりあえず「お気になさらず、大丈夫です」と返信しておいた。すると、牧師がめずらしく「どうしたの?」と聞いてきた。タイミングの良さに思わずエスパーじゃないかと思った、とっさに「大学の時の友人です」と返すといぶかしげに「ふ~ん、連絡を取り合うほどの友達がいるんだ。先生友達少なそうだもんね。」と冗談で言ってきた。周りの教会員は笑っている。これか。これが本人にしか分からないような嫌がらせか。というか、いくら何でもこれは雑だろう。ただの失礼だ。しかし、これを笑っていられるってことは、こういうことが日常化してるということだろう。多分、無理に合わせて笑っている信徒もいるのではないだろうか。なるほど、と謎の納得をして昼食を続けた。


 信徒が全員帰って、教会の戸締りを見ていると「先生さあ、ここにきて半年経つけど誰かにご飯とか誘われた?」と牧師が話しかけてきた。「え?いや、ないですけど?どうしたんですか?」と訳も分からず返事をする。するとどこか安心したような表情で「やっぱりね、先生そこまでなじんでないっぽいもんね。仕事はちゃんとしてくれてるけど、牧師って対人職でもあるからさあ、明るくないと大変だよ?」とネチネチ続けてきた。なるほど、昼食の時の携帯のメッセージのやり取りをそこまで気にしているのか、だからわざわざこんなことを言ってきたのだ。もし私が「行った」とでも言おうものなら根掘り葉掘り聞く魂胆なのだろう。そしてこう続けてきた「先生はまだここにきて新しいから知らないかもしれないけど、来週ここでうちの教団の集まりがあるんだよ。先生は新顔だから挨拶してほしいけど、会議には僕がいるから出ないでいいから、お茶出しだけしてくれればいいよ。ほら、新人はお茶くみも仕事でしょう?」この牧師はいつの時代の新人の話をしているのだろうか、と違和感を覚えつつも面倒なので承諾し、すべての戸締りを確認して教会を後にした。


 帰宅すると、といってもアパートは教会のすぐ隣だが、とりあえず安全圏に入ってほっと一息ついているとまたもや彼女からメッセージが入っていた。「先生気づきませんでしたか?」どう返そうか一旦考えて「大丈夫でしたよ」とだけ返しておいた。確かに彼女はそういった事情を話せる唯一の教会員だが、牧師と信徒の間柄にもう1つの関係性を築いてはいけないだろうと思ったからだ。牧師と信徒以外に共通の人物についてを話す関係を加えてしまったら、あとあと面倒だし彼女にとってやりづらくなってしまう。私は牧師として彼女の相談を聞いていた、にとどめた方がいい。淹れたてのコーヒーの湯気を見つめつつ、日中の牧師の言動を振り返る。とんでもない危機感地能力だ。いつもと違うところに敏感に気が付く、私があまり教会で携帯を操作しないからあの時声をかけたのだろう。そして疑いが晴れるや否やすぐに牽制にかかる切り返しの良さ。そして、戸締りの時声をかけてきたのも再確認のためなのだろう。さらに来週あるという教団の会議の話も、全てを総合すると、きっと目的は人間関係から切り離そうとしているのかもしれない。教団、といってもそこまで大きくもない弱小教団だ。こんなところで若者を顎で使って自分のメンツを建てようとしてもタカが知れているだろうから、やはり来週の話も教団の他の牧師との関わりに入るな、と暗に言いたいのだろう。そして、いちいち人を陰キャだとか新人だとか上下関係をチラつかせてくる、つくづく気持ちの悪い牧師だ。ここまで新米に警戒心を持つならなぜ招いたのか不思議でならない。


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