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神経症の世界へようこそ  作者: 佐山幹次郎
5/10

尻尾

頭に様々な思いが浮かんでは整理しているうちに土曜日が来た。とりあえず、私を送り出した出身教会の牧師のアドバイス「他教会の問題に首を突っ込みすぎるな」を胸に私は子ども集会の準備に取り掛かった。新たな視点を得たと言うことは、違う側面を新たに知るチャンスとも言える、と前向きに考えようとするが、教会でハラスメントが起きているという視点は願わくば持ちたくはなかったと結局は悲観的なことを考えていると「ねえ!もうさあ!つまんないんだけど~、前いたさとりんの方が面白かった~!」と子どもから抗議を受けた。さとりん?誰だそれは…と考えるや否や、離れていたはずの牧師がこちらを向き、牧師夫人がほぼ反射と言ってもいいだろう、ひきつっているのか笑顔なのか分からない目と口がバラバラの表情で「さとちゃんは違うとことにお仕事が決まったからもう来ないんだよ。お別れ会したでしょ。」と話している。どうやら、前にこの教会にいた女性なのだろう。そして、牧師夫妻の様子から察するにおそらく何か良からぬことでこの教会を出ることになった1人なのだと直感的に悟った。


 問題の尻尾を自分で見たのだと思ったが、だからと言ってすぐにその彼女のことを聞くことは野暮だろう。なぜなら今週相談をしてきたあの女性がどのように動くか分からないからだ、下手に聞いて勘づかれると厄介だ。いや、以前いた人について聞くことは不自然ではないのだが作為を感じさせてはいけない。きっとまた、何かの折に出てくる名前だろう。するとチャンスは勝手に訪れた、子ども集会が終わり片付けているときにふと牧師夫人と二人きりになったのだ、こちらが聞くまでもなく夫人は話し始めたのだ。「さとちゃんってね、10年くらいいてくれて、こうやって先生みたいに、教会のことを手伝ってくれていたんだよね。地元はこっちなんだけど、ご両親と上手くいかなくて、高校生の時からうちで面倒見てたんだけど、…ちょっと不安定な子で、子どもたちには良かったんだけどちょっと色々大変な子でね。良くやってくれてたんだけど、なんかそのうち、うちの子と夜遅くまで、その二人で話すようになってて、年齢的にもさとちゃんがずっと上なのに、そのことを話したら怒っちゃって、この教会を出て行ったんだよね。」きっと、私が一瞬不思議そうな顔をしたことに気を使って話してくれたんだろう。ただ、言葉を選んでいるような言い方が気になる。おそらくこれが他人に話せるレベルの話であって、他にも何かがあるのだろう。しかし、あえて話したのは「これ以上は聞くな」という防衛の現れなのかもしれない。


 タイミングというものは重なるもので、いや、半年たったということで気を許され始めているところもあるのかもしれないが、何か有効な証言を得たような気がした。やはりこの教会には何かある。この牧師には何かある。そして、話題に上った女性がキーパーソンかもしれない。覚えておこう、きっとまたどこかで話を聞くことになる。しかし、その件の彼女は今どこで何をしているのだろうか、牧師夫人の話では本名はおろか彼女の役職やポジション、いつからいているからいなくなったのかがいまいち的を得ず、煙に巻かれている。それすらも知られたくないことなのだろうか。推測しようと思えばいくらでも推測できてしまう。さとりん、おそらく”さとみ”という女性は高校生くらいから10年ほどいた、ということは今は20代後半あたりなのだろう。そして、牧師夫妻にとって都合の悪いことを知っている。そして、先日相談をしてきた彼女の問題は時系列的に考えてそのことの延長線上にあるのだ。背中に寒いものが走る。牧師夫人の計算された言い方といい、彼女の話といい、”さとりん”の言葉に反応する牧師といい、この教会には邪悪な何かがある、ということを確信した。


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