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オニキス伯爵家03 『密談』

数日後、図書準備室にメイベルはクララといた。

約束の時間になって現れたのは、渦中の人物であるアデレード・ギベオンであった。一人の女子生徒を連れているが、やはりどこまでも落ち着いていて気品があり、メイベル達は自然と頭を下げていた。


「お呼び立てしてしまい申し訳ありません、アデレード様」


謝罪をすると、アデレードは軽く首を振る。


「いいえ。貴女がたも私に会うリスクを承知の上で来てくれたのですから」


やはり自分達の生家の動きをアデレードは察しているのだと、メイベルとクララは顔を見合わせた。流石は次期王妃に望まれるだけの資質を備えていると、ひしひしと感じる。


「コランダム公爵家は家臣団にレイチェル・モルガナイト男爵令嬢を援護するように指示を出しました」

「我々も父から、そのように動くように言い含められておりますが、私達自身は決してアデレード様に、ギベオン公爵家に歯向かうつもりはありません」


見苦しい言い訳だとメイベルもクララも分かっている。もちろん家への背信行為だとは分かっているが、そもそも最初から分が悪い話だ。国王と王妃が認める輝かしいレディと娼婦さながらの平民上がりの女を同じ舞台に上げる方が間違っている。そんな無謀な計画に賛同しろなど、コランダム公爵家も無茶なことを言うとメイベルは内心で憤っていた。けれども、既に大人達は動き出している。自分達にできることは、こうして予防線を張っておくことしかないと、二人はアデレードに面会を求めたのだ。


「正直に話してくれてありがとう」


必死に頭を下げる二人の肩に手を置いて、アデレードは顔を上げるように優しく促す。


「貴女達のような娘まで巻き込むなんて、酷い話ね」


溜息を吐く憂いの横顔もまた美しい。レイチェルの内面は最悪だが、見た目は可愛らしい美少女である。しかし、アデレードのような絶世の美女になるだろう女性を捨て置いてまで手に入れたいかと考えた時、女のメイベルには分からなかった。


「アデレード様が御正妃にならなければ、ユージーン殿下の立太子など不可能だと言うのに……」


メイベルが言った通り、正妃の容姿や性格などユージーン殿下は気にしている場合ではないのだ。現時点では立太子が確定していない。第一王子がギベオン公爵家を捨てるのであれば、その優位性は失われるだろう。レイチェルは第三王子の婚約者よりも身分が低いのだから。


「コランダム公爵の養女にでもすれば良いと思っているのでしょう」

「あのように奔放な娘を王室に迎えるなど、正気の沙汰とは思えませんわ」

「えぇ。我が家も兄があの娘に現を抜かしていますから、お気持ちはよく分かります」


ユージーン殿下に、スチュワート、それにアデレードの兄のパトリックもまたレイチェルに侍っている。妹が蹴落とされようとしているのを黙って見ているどころか、一緒になって足蹴にするような阿呆が、今後のギベオン公爵家を担っていくというのだから憂鬱な気持ちにもなるだろう。


「男性は女性を下に見ているのがよく分かるわ。あの娘を自分ならば御せると思っているのね」


彼女の魅力に鼻の下を伸ばす殿下達も、彼女を利用し、権力を握ろうとする父親達も、本当に質が悪くて手に負えない。


「取り急ぎ、こちら側の派閥の女生徒には、あの娘に手を出さないように周知させました」


クララの他にも幾人か計画を知る女子生徒はいた。男子生徒に話がされないのは、殿下と同じようにレイチェルに狂わされることを危惧してのことなのか。


「大人しく言うことを聞きまして?」

「まさか。ですが、皆が憧れる麗しのアデレード様を蔑ろにする第一王子の転落劇を聞かせましたら、笑って承諾してくださいましたわ」


旗頭である第一王子の没落を仄めかすなど言語道断と、不敬罪に問われかねないが、ユージーン殿下達はあまりにも貴族女性を侮り、悪意を集め過ぎてしまった。人望や認めざるを得ない才能があれば別だったが、それでもこの度の略奪愛を許容できるものではない。


その上、アデレードの代わりに選ばれたのは分不相応な娘では話にもならない。人並みの教養があったとしても、淑女としての貞淑さや礼節を知らない娘が王妃になるなんて許されるわけがなかった。


だからこそ、彼女達もまたメイベルの言葉に耳を傾けた。尻馬に乗って軽はずみな行動を取るのは慎むべきだと、聡明な彼女達は気づいていたのだろう。平時であれば父や夫の言いつけを守り、口を出さないことが貴婦人としての振る舞いではあるが、彼らが選んだ船が泥船であることに気づいたら、乗らないか逃げるように算段をつけ、それを匂わすことなく促すのが一人前のレディの手腕とも言える。


「一人の女を巡って寵を競ったところで、手に入れることが出来るのは一人だけだというのに、誰も手を引かないなんて、愚か者ばかりで困りますわね」


アデレードは少し茶化して言ったようだったが、レイチェルに侍る男達は果たして気づいているのだろうか。彼女を王子妃に押し上げる為の踏み台にしかなれないと気づかない男達は、一体いつまで泥船に乗り続けるのだろうかと、メイベルは密かに思いを巡らせるのであった。



しかし、そんな彼女達の願いも空しく、アデレードは婚約破棄をされてしまった。

しかも裏切ったのは、メイベル達コランダム公爵家派ではなく、彼女の兄パトリックとギベオン公爵家派の女子生徒であった。内輪揉めによってギベオン公爵家の権威は地に落ちたのだった。

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