第 八 話 街へ!
数日かかったが、俺は森を抜けた。
クレアの話だと、街までもう少しとの事だ。
ここまで、よく来たものだと頑張った自分を褒めてあげたい。
だが、俺一人なら無理だっただろう。
クレアが居てくれて本当に良かった。
森の中では、クレアを始め、出会いもあったし、終わってみれば良い経験になったと思う。
なにより、俺は、人として成長したと思うんだ!
結婚もしたし。
「いやはや、怒涛の数日間だった」
俺は先程までいた森を眺めた。
感慨深い。
頑張ったよな、俺……
いや、なにか成し遂げた気になってしまった。
ここからがスタートじゃないか!
「クレア! これからも夫婦仲良く力を合わせてがんばって行こうな!」
「うん!
……ところで、本当に連れて行くの、アレ」
「ん?」
クレアが指差す先には、俺の部下であり、弟子でもあるオークが道端の花を嬉しそうに摘んでいた。
森から出るのが初めてらしいし、楽しいのかな?
「当たり前じゃないか。
ここまで連れてきて、やっぱ辞めたなんて言えないだろう?」
可哀想な事を言うなよ。
俺とクレアがそんな話をしているなどと知らずに、無邪気にお花を摘んでるオークが不憫だぜ。
あんな風貌だが、気遣いの出来る奴で俺の中での評価は高い。
俺とクレアがイチャイチャすると、邪魔する事無くそっとその場を離れたり、俺とクレアがラブラブすると、遠くに行って時間を潰してきてくれる。
そんな気遣いが出来る奴なんだよ。
「でも、魔物を街に引き入れたりなんかしたら……」
クレア…… お前の懸念してる事くらい、最良の伴侶である俺が解らないとでも?
「ああ、解ってる。
オークに名前をつけないとな!」
「うん、意味が解らないけど」
困惑しているのかい? クレア。
フフフ、おばかさんだな、クレアは。
「見た目で判断する奴は、そこまでの低レベルな人間だ。
気にすんな。
低レベルな人間の為に悩むなど、時間の浪費に過ぎない。
もっと時間は有意義に使うべきなんだよ。
って事で、有意義な時間の使い方として、彼奴に名前をつけようと思ったのだ。
それにさ、俺もクレアもアイツを呼ぶ時に名前があった方が都合が良いだろう?
オーク、魔物って呼んでたら、街に行った時に、低レベルの奴等がアイツをイジメたりするかも知れん。
そんなの、可愛そうだ。
ちゃんと、一個人としての敬意を持たれるように、名前が必要だと俺は思うんだ」
「そうなのかしら?」
「そんなもんだ」
俺の自己満足かも知れんが、兎に角、彼奴に名前が欲しいか聞いてみよう。
「おーい、豚ーー」
俺は、敬意をもって、お花摘みにいそしんでるオークを呼んだ。
『見て! 綺麗ブヒ!
奥様に似合うブヒ!』
花束を持ってオークがやってきた。
花束を差し出されてクレアが困惑している。
クレアには、コイツの言ってる事がブヒブヒとしか聞こえないらしいから仕方ないか。
「クレアにって。
クレアは、綺麗な花が似合うってさ」
通訳して教えてあげると、少し驚かれた。
「あ、ありがとう」
クレアお礼を言って花束を受け取っているのをみて、二人がもう少し仲良くなれたら良いなと思った。
「さて、そんな事よりもだ。
おい、お前に名前あるのか?」
優しく問いかける俺。
『名前? オーク族だけど』
「いや、それお前の種族全体の名称だろう。
お前個人の名前を聞いたんだよ」
『そんなもの無いブヒ』
「名前が欲しいか?
いや、あった方が他のオークと区別出来てありがたいからな、名前をつける。
ちなみに自分で名乗りたい名前があれば、それにするけど、どうする?」
『俺、自分で思いつかないから、アキラ様がつけてくれたら嬉しいブヒ』
「そうか……
名前、名前か……
うーーむ」
「アキラが名前つけるの?」
熟考する俺にクレアが聞いてきた。
そうだ!
「ああ、名前つけてくれって。
クレア、お前がつけてやれよ」
「えっ? 私?」
俺は、クレアに頷く。
それで、少しでもコイツと仲良くなればいいからな。
「なあ、クレアが名前つけてもいいよな?」
『構わないブヒ』
「そうか、良かった」
「クレア、コイツも構わないって」
「そう……
う~~ん」
困ってるな。
「それじゃ、オクルは? オークっぽい響きだし」
オクルか。
めんどくさいし、それでいいか。
俺がつけるとしたら、ロースかヒレかバラのどれかだったろうからな、それに比べりゃ上等だ。
「おい、オクルでいいか?」
『オクル…… 俺、オクル!』
気に入ったみたいだ。
「クレア、コイツ喜んでるみたいだぞ」
「そうね、オクル、オクルって言ってるもん」
「え?」
「オクルって言葉だけブヒブヒ以外で聞こえたわよ」
そうなのか?
「オクル!」
クレアが呼んだ。
『ブヒ!』
オクルが答えた。
うん。
「クレアの言葉が解るのか?」
『オクルと聞こえたブヒ』
そうなのか。
単語くらいは、聞き取れるのかも。
もしかして、言語が違うだけで、互いに、お互いの言語を習得出来るのかもな。
「まあ、どうでもいっかー!
そんな事より、早く、街に行こうぜ!
繊細な俺は、野宿もう嫌だから」
俺は、駆けだした!
急がなきゃ、置いてくぜ!
「アキラ、そっちじゃないわよ」
クレアに冷静に言われて、俺は、引き返した。
張り切って走り出した分、カッコ悪いぜ。
そんな感じで、俺達夫婦と扶養オーク一名は仲良く街へと向かった。
クレアが教えてくれた街『ゴンゾーラ』までもう少し。
どんな街だろう。
そういや、あの素晴らしいお尻のソニアとまた出会えるかしら?
細身のクレアも良いが、あのムチっと筋肉質なのもたまりませんからな!
それに、まだ見ぬ街の女の子も楽しみだし!
俺の体もつかしら!
うひょぉぉおお! おじさん、頑張っちゃうよ!
「……」
いや、しかし、女の子と遊びたいから金くれってクレアに言ったら、ぶん殴られるだろう。
そこは、オクルの服買うからって小遣いをせびるか?
女の子と遊ぶにも先立つものが必要だからな。
金。
金。
金。
……いや、俺のリュックには、俺の秘策が詰まっているじゃないか!
「せっかく、重い思いしてまで担いできたんだ」
苦労とは、報われる為に存在する。
そう。
「ククク、これさえあれば、俺は大金持ちになれるんだからな」
「ちょと、何をさっきからブツブツと、気持ち悪いわよ、アキラ」
おっと、心の声が漏れてたようだ。
気をつけないとな。
「ううん。 なんでもないよ! さあ、行こう、直ぐ行こう!」
俺は、胸と股間を熱くし、期待を込めて歩みを進めた!
まあ、今回は、街に到着までの軽いお話と言う事で。
次回、いよいよ街に到着です。
主人公の下種な夢は成就するのか?!