第 五 話 夫婦喧嘩は犬も食わぬ
クレアが俺の嫁さんになってくれた。
高身長でスタイル抜群、顔も凄く綺麗、どう考えても俺に不釣り合いな完璧な女性だ。
……ただ、少々束縛が酷そうな事を言っていたのが不安材料ではある。
だが、そんなマイナスなど些細な事。
デメリットを大幅に上回るメリットがあるのだからね!
だって、こんなにも美しい女性なんですもの。
俺が思うに、クレアは大げさに言っているだけなんだと思う。
全く、しょうがねぇな。
束縛?
俺が、そんなモノで結婚生活に挫けるとでも思ってるのかしら?
生涯の伴侶として、絶対に、俺は、クレアを手放さないからな! 愛してるぜ、クレア!
「俺は、君に、永遠の愛を誓おう!」
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◇◇◇
ダダダダ……
「くそッ! 冗談じゃねぇ、殺されちまう!」
俺は森の中を疾走していた!
なぜか?
「そりゃ、クレアから逃げる為だよ!」
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・
数時間前――
俺は、愛するクレアと共に街を目指し森を歩いていた。
空は、青空! 俺の心と一緒で曇りなし!
最高だぜ、イエイ! 踊っちゃう?
「クレア」
何気なく呼び掛けてみる。
「なあに?」
クレアが笑顔で振り返ってくれた。
可愛いいいいい!!!
こんな綺麗な人が俺の奥さんなんだなんて。
世界は輝いている。
最高だぜ!
「ううん、幸せだなって思って」
エヘヘ、自然と笑顔になっちゃうよ。
「ん?」
なんと、クレアが俺にキスを?!
「私も、幸せ」
だって。
「くぅ~~~! 最高だぁぁあああああ!!!」
今の俺に怖いものなんてないぜ!
クレアがいてくれたら世界が全て敵でも構わない気分だ!
( その時だった )
「きゃぁぁああ」
( 森に響く声。
ソレが始まりだった…… )
「アキラ!」
「ああ、クレア、俺も聞こえた!」
( 普段の俺であれば、聞かなかった事にしていたのに、今思えば幸せの絶頂で浮かれていたのかもしれない )
「急ぐよ!」
「あっ、待ってクレア!」
俺はクレアを追って森を走った!
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「先程の声は、アレのようだな」
俺とクレアが目にしたのは、絶賛賊に襲われている真っ最中の馬車。
倒れてるの…… アレって死体?!
「わお! バイオレンス!」
その光景に戸惑っていると、俺の横をクレアが風のように通り過ぎて行った。
白いお尻が最高だぜ!
いや、そうじゃないだろう。
嫁さんに危険な真似をさせる訳にはいかぬ。
「クレア! 危ないから待って!」
俺は言いながら急いでリュックから鉈を取り出す。
「よし!」
振り返ると、クレアが全ての賊を退治していた。
「……」
リュックに鉈を戻し、再びリュックを担ぎ上げ、クレアの元へと急いだ。
死体が沢山。
吐きそうになるな。
「大丈夫か、クレア。 賊は?」
「あらかた殺したが、何人か逃げて行った」
真っ二つになってる死体とかが散乱している。
あの短時間でコレかよ……
「あ、あのっ! ありがとうございます。
私達親子は行商をしているのですが、盗賊が突然襲い掛かってきて……
抵抗した仲間が数名……」
声のした方を見ると、頭から血を流している男が女の子の肩を借りて立っていた。
親子って事は、この女の子は娘さんか。
若いのに、立派だな。
胸が。
16か17ぐらいかな? 惜しい、どっちにしろ未成年だろうな。 将来有望だぜ。
ああ、親の男の方は俺と同じくらいの年齢のようだ。
「あんた、馬車の持ち主?
怪我しているみたいだけど、大丈夫か?」
胸の大きな女の子は怪我していないみたいで良かった。 可愛いし、怪我してたら可哀想だ。
「おかげ様で、なんとか……」
男が頭から血をドクドクと流しながら…… 明らかになんとかなって無い気がする。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
慌ててリュックを降ろすし、中から救急箱、そして、絆創膏を手にとる。
そういや、絆創膏って地域によって呼び方が違う。
きずばんって言っても通じなかったのは良い思い出だ。
さてと。
「絶対無理だろ!」
絆創膏を張ろうとしたら、ブルンとたわわな胸を揺らして女の子が俺に言った。
傷と絆創膏を交互に見る。
……確かに。
こんなんじゃ、止血にもなりそうにないな。
「アキラ、任せて」
「クレア?」
俺と胸の大きな女の子の間に割り込んできたクレアが、ゴニョゴニョと言い出した。
何を……
はっ!
「もしや! 呪文の詠唱か!?」
すげぇ! 魔法があるんだ、やっぱ!
感動モノだぜ。
ホントにすげぇ! この女の子の胸。
こんなデカいのエロ動画以外で見た事ない!
いや、むしろもっとデカいんじゃないか…… 服を着ているから良く解らないが、かなりのモノだろう。
俺程の男ならば、解る!
「い、痛みが……」
「父さんの傷が?!」
「え?」
娘さんの胸の考察をしている俺の耳に不意に声が聞こえた。
ああ、そういや、男の方が怪我してたんだっ
「って、治ってるし!
凄いな、クレア! 魔法か?! え?」
俺の指をクレアが握った。 何?
ボキィィイ!
「いだぁぁぁああああ」
クレアが無言で、俺の右手の人差し指を折りやがった!
「なにすん」
「……回復!」
クレアの言葉の後、痛みが消え、そして折れてた指が?!
「……治ってる。
そうか、実践してみせてくれたんだな、クレ…… ア?」
クレアの方へと視線を…… す、凄い見られてる。
ま、瞬き忘れてるから、クレア? ねぇ、クレアさん?
恐怖で固まっていると、次の瞬間、クレアが笑顔になった。
「???」
さっきのは、俺の気のせいか?
び、びっくりしたが、良かった。
「あの、クレア」
「無事なら、良かった。
私は、旦那様と先を急ぐから、気をつけてな」
あれっ?
クレアが俺を無視して馬車の持ち主に声をかけた。
「……」
いいよ、別に。
俺も挨拶くらいしとくか。
「君も、気を付けてね」
俺は、女の子に声を
「アキラ!」
ビクッ!
「なんだよ、クレア、突然大きな声で。
ビックリするだろう?」
「ゴメンね、アキラ。
でも、私達急いでるでしょう?」
「???
何の事? 別に急いでなんて…… ヒィッ!」
その目ぇ!
「急いでたでしょ?」
「は…… はい」
……圧力ですよね?
そして、俺は、クレアに手を引かれ森の奥へと連行されていった。
・
・
・
「……え?」
人気の無いとこまで来ると、突然クレアが抱きついてきた。
「ど、どうした?」
「もう、アキラのバカ。
私、嫉妬深いって言ったでしょ?
アキラが他の女とお話してるの、耐えられない。
誰にもアキラを取られたくないモン」
俺にギュッと抱きつき、クレアが言った。
そうか。
そう言う事か。
そんな心配なんて、全然必要無いのにバカだな。
ますますクレアの事が好きになっちまうだろ、フフフ。
「大丈夫だよ、俺には、クレアしか見えてないから」
爽やかな笑顔で言ってあげた。
だから、安心おし。
「うふふ、私ったら、心配で涙が出ちゃった」
可愛い!
舌を出して、おどけて言ったクレアにメロメロだぜ!
何か誤解があったようだが、解決したみたいで良かった。
ホントに良かった、良かっ
「それで、ペナルティの話なんだけど」
「は?」
なんだ?
今、ペナルティって聞こえた気がしないでもないが、聞き間違いだよな?
「さっきの行商の小娘の、あの下品な胸を見ていたよね、アキラ。
それから、その下品なデカい胸の小娘、もの欲しそうな淫乱そのものの顔してアキラに何か言ってたけど、あの小娘と何を話していたのかな? 勝手に他の女と会話しないでって言ったよね私。
二つも違反しちゃったんだから、ペナルティはしょうがないよね?」
「おい、クレア、そんな言い方無いだろう!
下品とか淫乱とか、あの娘さんに失礼だよ!
それに、お前、俺の指折ったよな? それでお相子だ!」
全く、何をいいだすんだか。
バカバカしい。
「アキラ、庇うって事は、あの乳デカ淫乱小娘に惚れたの?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ?
何を言って、その目ぇぇええ!!」
ガシッ!
「え?」
手を掴まれた?!
「ク、クレア?
俺は、あの娘さんと挨拶しただけだよ。
あの、その、 ……すまん、胸は、うん、ちょっと見てしまった。
でも男ならさ、ちょっと視線が行くくらいぃぃぃぃいいいだぁあああいいい!!!」
握力!
ギリギリ……
ギリギリ……
「う、腕が、ち、千切れ」
「チッ!
仕方ないわね。
……まぁ男は、ああいったデカくて下品な胸が好きっだって言うしね。
解った。 アキラは悪くないわ」
おっ! 良かった!
舌打ちされた気がしないでもないが、兎に角、手を離してくれたし、誤解も解けた。
何とか、よし、骨は折れていないようだ。
「悪いのは、アキラの目だからね」
痛みで、涙と鼻水をたらす俺の耳に、意味不明の言葉が入ってきた。
意味が分からな
「街に行ったら、焼き鏝で目を潰すとして……」
「え?」
ブツブツと、お前、聞き間違いだよな
凄くぶっそうな事を言ってないか?
「お、おい、クレア。
目を潰したら、目が見えなくなるんだよ?」
解ってる?
「大丈夫!
私が、アキラのお世話してあげるからね☆」
コイツ、満面の笑みで……
「そ、そう……」
俺は力なく答える。
これは、ヤバイ奴だ。
「ウフフ、アキラったら赤ちゃんみたいに、私がいないとなんにも出来なくって……
アキラちゃん、クレアはここでちゅよ、ウフフ」
……なんか、妄想してるし。
って、ふっざけんなよ!
何が、大丈夫なんだよ! 大丈夫な訳あるかぁ!
あ、頭おかしいよ、この女!
「……に、逃げよう」
俺は、物音を立てぬよう、そろり、そろりとクレアから距離をとる。
気づくな。
気づくなよ……
ダッ!
「あっ! アキラ!」
遠くでクレアの声が聞こえた。
悪いが、逃げさせてもらう!
・
・
・
「くそッ! 冗談じゃねぇ、殺されちまう!」
俺は森の中を疾走する!
殺されてたまるか、絶対に逃げ切ってみせる!
クレアの足音が物凄い速さで近くなっている気がするが、振り返るな俺!
微笑ましい夫婦喧嘩?
だが、恐怖で逃げたしたアキラ。
クレアとアキラの関係はどうなってしまうのか?!
次回、恐怖で逃げるアキラの前に……
次回もお楽しみに。