第 三 話 プリ尻
ゴブリンの集落を出発した俺は、歩いた。
沢山。
そして、歩いた。
しかも、歩いた。
車どころか自転車も無いんだから、当然の如く徒歩一択の俺は、兎に角めちゃくちゃ歩いている訳だ。
「疲れた。
凄く疲れた。
もの凄く疲れた。
クソッ!
そうだ!
魔法使いの少女に出会ったら、回復魔法をかけてもらおう!
そのお礼に、俺も魔法を見せてあげるんだ!
ほら、おじさんの体の一部が手を使わないのに膨らんでくよ。
不思議だね、フフフ、よく見てごらん…… って! うひょぉぉーー!」
俺は、アホな妄想をしつつ頑張って歩いた。
そんな妄想でもしていないと、孤独だし疲労も溜ってる俺は、簡単にくじけそうだからだ。
頑張れ。
頑張れ、俺。
頑張って、人に会うんだ!
そう。
「出会いさえすれば、モテるんだから!
頑張るんだ、俺!」
不屈の精神。
俺は、俺を褒めてあげたい。
こんなに頑張る俺が愛おしくてたまらないぜ!
少し元気が出た気がした。
「ようし、頑張るぞ!」
そうだよな。 苦労無くして成功無しだ。
そして、頑張った奴は絶対に報われるべきなのだ。
「ふんふんふんふ~~ん」
鼻歌交じり、軽快に歩きますぞ!
死……
ふと、そう、ふとした瞬間、ちょっとだけほんの少しだけ不吉な思いが頭をよぎった。
「いやいやいや」
遭難……
ふと、そう、ふとした瞬間、ちょっとだけほんの少しだけ不吉な思いが頭をよぎった。
「いやいやいや、この俺にかぎって」
「……うん」
一回そんな事を考えたら、急激に怖くなってきた。
てか、ここ何処だよ?
何処をどう歩いているのか、何処にむかってるのか。
本当に人なんているのか?
ゴブリンの集落を安易に出なかった方が良かったんじゃないのか?
手持ちの食糧や水が尽きてしまうんじゃなかろうか?
「もしや、俺は無謀な行動をしているんじゃ……」
ぶわっ!
凄い量の汗がわき出した。
冷たい汗だ。
鼓動も早くなる。
普通に歩いていたが、急に不気味な森を歩いているのではないかと思えてきた。
「す、ステータスオープン!
ステータスオープン! ステータスオープン!
ステータスオープン! ステータスオープン!
ステータスきゃぁぁぁああああ」
「……」
くそっ! やっぱり、でないじゃないか!
「だ、誰かぁーー!!」
俺は、走り出した。
「誰かいませんかぁーー!!」
怖い!
凄く、怖いぃぃぃ!!!
「誰かぁぁああああ!!!」
もう、モテるとかどうでもいいよ!
死にたくない!
「死にたくないよぉぉぉおおおお!!!!」
誰か助けてください!
ゴブリンの集落に戻ろうにも道が分りません!
「うわあああああーーーん!
誰か、誰か助けてぇぇぇえーー!!」
中年だって、怖ければ泣くよ!
恥も外聞も無いよ!
そんなもんクソくらえだ!
死にたくないんだよ、俺は!
「あ」
泣き叫び走っていたら足が!
足がもつれて豪快にコケて俺は、転げまわった。
ハハハ、お笑い種だ。
下種な考えで異世界に行きたいと願った罰があたったんだ。
転げまわり身を地面に打ち付けながら俺は反省を……
「……!」
俺は柔道の受け身のように体を回転させ華麗に体勢を立て直す。
男子たるもの、何時いかなる時も冷静であらねばならぬのだ。
「さあ、冗談はここまでにしとこう…… か!」
カッコよく俺はキリッと言い放つ。
その木の所に視線を移してな!
フフフ、何故なら…… わお。
「お、お美しいぃ」
自然と呟いていた。
俺の視線の先には、とても綺麗な女性がいた。
長い金色の髪と透き通るような白い肌。
背が高く手足が長くモデルさんみたい。
鼻筋が通って切れ長の目が気の強さを表している。
死んだ魚のような目をしているのが少々気になるが、兎に角、俺を見ているではないか!
俺のカッコ悪いとこを見て呆れているのか?
いや、断じて違う。
さっきので誤魔化せたハズ!
まあ、どうでもいいか。
直ぐに俺にべた惚れになるしな。
「やあ!」
右手を上げて俺は爽やかに声をかけてみた。
さあ、惚れろ!
まあ、俺的には、もう少し熟している女性の方が好みだが、贅沢はいってられないからな。
フフフ、俺も人が良いぜ。
「……何をしている」
女性が答えた!
間違いない!
嫌いなら無視するバズだから、声をかけてきたという事は、俺に惚れたな!
しかし…… なんて可愛い声なのだろう。
そして、俺がスーパーとかお店以外の女性と会話するなんていつ以来だ?
とうとう俺も奥さんが出来るのか、いささか感慨深いものがあるな。
しっかし、スタイルが良いね。
フフフ、耳の形を見てピンときた。
「エルフだ」
ニヤリとニヒルな笑い顔のカッコいい俺。
俺のダンディズムにメロメロかい?
まあね、俺ほどの異世界通であれば、種族を当てる事などたやすい事よ。
胸は小さめだが、良かろう。
さあて、ダメ押しといきますか。
「……」
女が少々イラついてる感じだな。
フフ、焦らしてごめんね。
「旅をしている。
俺は、そう、……旅人さ。
そして、僕がなぜ旅をしていたのか今、解ったよ……
そう、君に出会う為、僕は今まで旅してきたのさ!」
キリッ!
うん。
決まった!
か、カッコいいーー!!
俺って、カッコいいぜ!
「……頭、大丈夫か?」
なっ?!
し、失礼な女だな、おい。
もしかして俺の情けない姿を誤魔化せて無かったか?
先程の醜態の件はスルーするとして…… まずは、自己紹介だな!
「お嬢さん、僕の名前は、黒田 明。
って、行かないでくださいぃぃぃ!!」
なんなの?!
俺が話をしているのに、立ち去ろうとするんじゃないよ!
慌てて俺は女性を追いかけ、その綺麗な足にすがりつく!
「離せ! この」
「こんなトコに置いてかないでくださ…… ヒィィ!」
なんて冷めた目!
いや、遭難して野垂れ死ぬことに比べりゃ、なんて事ない!
兎に角、足から手を離す。
怖いし。
「……騒がしいと思って見に来たら」
「へへへ」
クソッ! さっきから、その蔑むような目をヤメろぉ!
しかし、機嫌を損ねて見捨てられたら、ホントに死んじゃう可能性があるからな、ここは下手に出る。
愛想笑いだ!
「お前、遭難して見苦しく泣き喚いていたよな?
うるさいから確認しに来てみたら…… 話しかけた事を私は現在進行形で後悔しているぞ」
「そこを何卒! 見捨てられたら、ホントに死んじゃうから! 助けてくださいよ」
生き残る為なら、これくらいの恥なんて、どうってことないぜ!
モテモテ、キャッキャウフフしないまま死んでたまるか!
「そうだな…… 私の奴隷になるなら、助けてやっても」
腕組して俺を見降ろして、この女性が俺に……
「……奴隷?」
奴隷だと、俺が?
ふざけんなよ!
猛然と俺は立ち上がった!
「ご主人様、このアキラは、ご主人様の下僕でございます」
跪き俺は臣下の礼をとった。
まあ、綺麗な女の傍にいられるなら悪くないだろうからな。
夜の御奉仕はお任せあれ!
いやぁ、困った、困った、今から夜が楽しみだぜ、うふふふふ。
しかし、綺麗な女性だ。
特に、衣服の生地面積が少ないのが好感度がもてるじゃないのさ。
ああ、ここはテンプレなんだ。
期待を裏切らない。
「……フン、ついてこい」
おっと、ご主人様が歩き出したぞ。
焦りなさんな。
「フフ、待てよ。
ねぇ、君、何て名前なの?」
俺はご主人様の横へ行くと肩に手を…… 俺より背が高いな。
手を腰に回して聞いてあげ
ゴッ!
「ぐッ!」
ぶん殴られ膝をついた。
殴られプシュッと出たが、鼻血なんて何年ぶりにだしたっけ?
気の強い女は嫌いじゃな
「って! 行かないで!」
ぷりぷり怒ってご主人様が歩いていくのが見えた。
プリプリさせるのは、その可愛い尻だけで十分だ!
俺を置いていくなんてもってのほか!
「お前な! そんなんじゃ俺の彼女にしてやらないからな!」
ええ、ガツンと言ってやりましたよ。
全くもって困った奴だぜ。
こういうのは、最初が肝心だからな。
ちゃんと、自分の立場ってのを解ら
「うぎゃあああああ!
やめ、やめて! 殴らないで!
うぎゃああああああああああああああ!」
俺は、名も知らぬ女にぼっこぼこにされた。
諦めない姿勢、見習いたいですね。
それでは、次回も宜しくお願い致します。