第 二 話 一宿一飯の恩返し
人懐っこく愛くるしい43歳の俺は、ゴブリンの集落で目が覚めた。
「んんん~、朝か。
昨日酒を飲んでそのまま寝てしまったらしいな。
まあ、ゴブリン達も悪い奴等でもなさそうだし、危険など無いだろう」
眠気眼をこすりつつ、辺りを見渡す。
ゴブリン達がウロウロとしている。
「仕事もせずに、暇なのか?」
無職の俺が言うのもアレか、まあ、気にしないでいよう。
「おおー、アキラ起きたのか? おはよう!」
声をかけられ振り向くと、昨日俺の隣で酒を飲んでたゴブリンがいた。
暇そうだね。
いや、俺にとって都合がいい。
「おはよう。
すまんが、俺は昨日こっちに来たばかりで、何もわからない状態だから少しこの世界の事を教えてくれないか?」
起きて直ぐ前に進む為に行動する俺。
自分の勤勉さに頭が下がる思いだ。
立派だぜ、俺!
「……この世界の事?
う~ん、俺に解る事であれば教えるけど……」
お前がそんな調子だと、こっちが不安になるじゃないか。
しっかりしてくれよ、おい。
「大丈夫だよ。
俺より詳しいのは確実なんだし。
ちなみに、ここはどこ?」
「俺達の集落だ」
「うん。
さっそく不安になってきたが、質問を続けるぞ」
「任せろ!」
その自信はどこから来るんだ?
「人間の住んでるところってここから遠いのか?」
「知らない」
即答か。
「人間を見た事は?」
「ある!」
おっ!
「どこで?」
「森!」
「……」
もしかして、今、俺は凄く無駄な時間を過ごしてるんじゃないか?
「たまに、森に人間いる。
襲って、食べる、俺達」
「なんで、カタコトなんだ?
さっきまで普通に喋ってたろ、お前。
全く……」
ん?
「……今、人間食べるって言った?」
「言った!」
「……」
「……」
言った! じゃねぇーよ!
ふざけんなよ!
俺、すやすや寝てたじゃねぇか!
危険な場所で寝ていた事に気づいて、変な汗が出た。
「ああ、アキラは食べないから、心配いらないぞ!
どことなく見た目とか親近感があるしな!」
笑顔でゴブリンに言われた。
ゴブリンに親近感があるとか言われたが、俺は人間だ。
ここに居ては女の子とキャッキャウフフが遠のくばかりな気がしてきた。
「普段は、お前達は何を食べてるんだ?」
「木の実や葉っぱ、狩りで肉を手に入れる事もある!」
人間みたいに雑食か。
昨日酒飲んでたしな。
ん?
あれ?
「人間食う必要なんて無いんじゃないの?」
「人間も動物も同じ生き物、逆に、何で食べちゃダメなんだ?」
クッ。
質問に質問で返しやがって。
そりゃぁ、人間は……
いや、何でって……
あれ?
答えれないぞ。
いやいやいやいや、倫理的に? 人間は特別な生き物だから?
うん。
「理由なんて、ねぇ! 俺が嫌だから、今後人間を食べないでくれ」
「うん、別にいいよ。
人間なんて滅多に出会わないし」
「……」
軽ぅい。
ゴブリンがあっさり言ったのでちょっと固まってしまった。
「そ、そう。 それなら良かった。
そんじゃ、世話になったが、そろそろ出発するよ。
人間の居る場所を探しに行かなきゃ」
「あ、そう」
「……」
軽ぅい。
あ、そうって、いちいち言葉が軽いな。
「あの、俺が言うのもアレだけど、もうちょっと名残惜しいとか無いのか?」
「淋しいとは思うが、行くんだろ?」
「その通りですけど。
……あ、そうだ! 一晩お世話になったお礼に記念になる物をあげよう!」
我ながらナイスアイデア!
「え? いらな」
「そうか! 欲しいよな! ちょっと待ってろ!」
俺が傷つきそうな事を言いかけたから被せて言ってやった。
迷惑そうな顔をするな。
傷つくだろう!
さて、何を贈ろうか。
「木彫りの彫刻とか…… うん! そうだ!」
「えぇ……」
「いや、ええとか言わない。 傷つくだろ!」
とか言ったが、出来上がったの見たらきっと気に入るって! フフフ。
俺は、さっそく作業に取り掛かるべく行動を開始した。
・
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・
ゴブリンに指導して、木を集めさせた。
大きいと大変なので、デカめの木の枝とかを取ってきてもらったのだ。
彫刻なんて初めてだが、何とかなるだろう。
「よし!」
2時間後――
「出来るか! こんなもん!」
鉈で切り刻まれた木を蹴飛ばしてやった!
素人が思い付きで出来る訳ないんだよ。
「くそっ!」
自分のふがいなさに腹が立つ。
「……そうだ! アレなら……」
・
・
・
「おーーい、出来たぞ!」
俺は、ゴブリン達を広場に集めるよう、お願いした。
暫くして、集落のゴブリンが集まってくれた。
「俺が出発するのに、集まってくれた皆に感謝だね、感動するよ」
ホロリと涙が……
「アンタが、皆を集めろと言ったんじゃないか」
「……」
いや、そうだけど。
まあ、いい。
「さてと! 俺は、この集落を去るが記念に素敵な木彫り彫刻を残して行く!
素人なりに一生懸命作ったものだ、どうか受け取って欲しい」
俺は隣に立たせているゴブリンに笑顔で頷くと懐に入れておいた贈り物を取り出した。
ざわざわ……
「……これって?」
ゴブリンが頬を染めて聞いてきた。
フフフ。
「これは、俺の故郷に伝わる伝統的な人形で、『こけし』というんだ!
まあ、素人の作だからな、頭の部分が丸くないし、くびれも少なくなって少し不格好だが、どう? 可愛いだろ?」
可愛いこけしを手にグイグイとゴブリンに迫る。
「ハァハァ!
ほ、褒めてくれ、頑張ったんだから!」
ゴブリンの感想を期待!
なんか興奮するな!
「か、可愛いっていうか…… その立派にそそり立って……
女達が喜びそうではありますが…… これって、ちん」
「お人形だからね、女の子とか喜ぶよ! きっと!」
異世界の人形だから戸惑っているのだろう。
しかし、初めてにしては我ながら良く出来たと思うんだよね!
俺って彫刻のセンスがあるのかもしれない。
こけしを見たゴブリン達が微妙な空気になってる気がしないでもないが、きっと喜んでんだよな?
俺は、皆にこけしが良く見えるように高らかに掲げた。
表面を磨いたから黒光りして綺麗だろ?
女のゴブリンがキャー、キャー言ってるし喜ばれているようだ。
間違いない!
それから俺は、恥ずかしがって受け取ろうとしないゴブリンに無理やりこけしをねじ込むように渡すと、颯爽と集落を後にした。
「さらば、異世界転移した俺の最初の出会いの集落よ!」
ほっこりする話になったかな?
さあ、次回も上品にいきましょう!