第 十九 話 家を貰った。
俺達の護衛をしてくれた冒険者のソニアとザコウが報酬を受け取る為に街に帰って行った。
二人とも、ここ「アキラ村」に移住が決まっているのだが、彼等にも都合がある。
クレアとソニアの二人と夜を楽しみたかった俺なのだが、大人なので我慢する事にしたって訳だ。
この決定は、しつこくソニアに残れと迫って、クレアにぶん殴られた事とは、何ら関係ない。
諸々の都合を済ませてソニアが早く帰ってくるのを大人しく待とう。 大人なだけに。
ついでにザコウ…… そうね、ザコウは、うん。
人には都合があるからな、自分の都合で村に来てもらえばいい。
「アキラ、何時まで眺めてるの? 早く行くわよ」
クレアに注意されてしまった。
ボーっとソニアとザコウが去って行った方向を眺めていたようだ。
振り返ると、あら? みんなもう馬車に乗って俺を待っていたようだ。
「すまん、少し考え事をしていた」
慌てて馬車に乗りました。
クレアの視線が……
「そんなに、ソニアの事が……」
「ああ、ザコウ達が早く戻ればいいな!」
しつこいぞ、クレア!
まだ何か言いたげなクレアを無視して俺は、前のほうに身を乗り出す。
「ラムダ、頼む」
御者の隣に座るラムダに言った。
「そんじゃ、行きましょう! まっ直ぐ進んでください」
ラムダに案内されて俺達の馬車は村の中を進んでいく。
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村の結構奥まで進んだとこで、馬車が停まった。
目的地に到着らしい。
「ささ、アキラ様。
あちらが村が用意させていただきました、アキラ様達の家でございます」
家?
俺達の為に用意してくれてたの?
「……これが、俺達の」
目の前には、村の中でも立派な部類の一軒家があった。
柵がしてある敷地の中には納屋もあるし、ホントにこの家を貰ってもいいのか?
「野宿は無いとしても、家が用意出来るまでの間、人の家に居候になるのかもしれないと思ってたから良かった!」
人の家は気を使うし嫌だったからホントに助かる。
「領主様から、この村の支配者になられる方が移住してくると連絡を頂きましたので、村の中で大きいこの家をご用意させて頂きましたが、勝手に決めて宜しかったですか?」
ラムダが不安そうに聞いてきた。
そうか、ラウルが前もって使いの人をこの村に寄こしてくれてたんだ。
「いやいや、ありがとう! 十分だよ、結構大きい家だし、申し訳ないくらいだ」
「そうですか! いや、そう言ってもらえると、村の者も喜びます!
この家は、離村した者の家で空き家になっていたのですが、アキラ様が来られる前に村の者達皆で掃除と痛んでいる部分の補修をしましたから!」
「ラムダ……」
突然知らない奴が支配者になったと言われて戸惑っただろうに、俺達の為に空き家を住めるようにしてくれたなんて、その行動が嬉しいじゃないの。
俺は、感動した。
「補修が間に合ってない場所もありますが、住む分には大丈夫かと思います。
残りの補修も急ぎますので、何か不都合がございましたら…… そうですね、私の家は、そこのあばら家ですので何時でも呼んでください」
ラムダが、指差す先には、明らかに俺達の家よりデカい家があった。
あれがあばら家ならば、こっちは?
さっき俺に、この家が村の中で大きいって言ってたよな?
どう見てもお前の家の方がデカくないか。
流石に自分の家を差し出したくなかったのだろうし、そんな事されても俺も嫌だけど……
「……やはり、私の家の方がよろしかったでしょうか?」
ラムダが苦渋の表情で聞いてきた。
俺、そんな変な顔してた?
「アキラ、可哀想よ」
「え?」
何? クレア。
「ラムダが住んでるのに……」
「は?」
ラムダに言われた俺が「そう? そんじゃお前の家と取っ替えて」なんて言えるか!
どんだけ俺って厚かましい奴だと思われてるの?
軽くショックを受けた。
「いや、住んでる人がいるのに俺が取り上げる訳ないだろ!?
いらないよ、こっちの家で十分満足だよ!
ラムダも、俺、この家気に入ったから変な事を言うんじゃない!」
「そうですよね!」
ラムダ。
安心したのか元気いっぱいだぁ。
「この家の補修の済んでないってとこは、様子みて俺達が自分でやるから大丈夫。
ラムダ、悪いけどこの家の掃除や修理してくれた人達にお礼と、村の皆に後で俺達が挨拶にまわりますと伝えて来てね。
引っ越し祝いを配らないといけないからな」
めんどくさいけど街で買ってきたお菓子を配らないと。
ご近所付き合いは大切だからな。
「解りました。
それじゃ、私はこれから村の皆に伝えてきますね!」
「た、頼んだよーー!」
歳の割に身が軽く颯爽と去って行くラムダの背中に声をかけた。
「……俺より年上なのに元気だな」
ラムダを見送った俺は、マイホームを見上げた。
「凄いな」
アパート住まいだった俺が一軒家の主になろうとは……
「アキラ、さっさと荷物入れちゃいましょう」
「あ、ああ! そうだな。 一緒に暮らすんだもんね!」
ここが俺とクレアの愛の巣になるんだ。
一つ屋根の下で俺なんかが女性と二人、暮らす日が来るなんて思ってもみなかったぜ!
嬉しい気持ちで一杯の俺は、俺とクレアの新生活の荷物の乗る馬車へと急ぐ。
「おーーい、皆さん。
そんじゃ、引っ越しの荷物を家の中にお願いします!」
街から来てくれた手伝いの人足達に声をかけた!
「旦那、何処に運びましょう?」
「それは、家の中へお願いします。
クレアーー! 指示してあげてーー!
あっと、そっちのは、納屋の方へ入れてください!」
荷物を布団や家具等は母屋、農機具等は納屋へと指示を出す。
家主として立派に指示出しする俺、カッコいい。
『ここに住むブヒね。
俺の部屋は日当たりのよいトコが良いブヒ』
カッコよく指示出しする俺にオクルが声をかけてきた。
「オクルは、そこの納屋でいいんじゃないか?」
納屋を指差して教えてあげた。
藁でも貰ってきてあげてそこに寝させれば十分だろう。
『家畜じゃないんだから!
俺はベッドじゃないと眠れないブヒ!』
「お前、森で野宿生活だったんだろ?」
僕、繊細ですみたいな事を言いやがって。
「しょうがねぇな。
ちょっと待ってろ、俺は構わないが、クレアがなんて言うか聞いてくる」
俺は、家へと走った。
「旦那、この荷物は?!
……ああ、行っちゃったよ。 どうする?」
指示していたアキラが走って行ったので残った人足が他の人足に声をかけた。
「こっちで判断して振り分ければいいよ。
旦那の指示が無くても家の中で使うものかどうかくらい解るし」
「それもそうだな。
旦那がいない方がはかどる」
アキラがいなくても問題なさそうだった。
家に入ると、クレアが荷物をどこに置いてとかやってた。
「クレア! オクルがこの家に一緒に住みたいと我儘を言っているが、どうする?」
嫌だろ?
「えっ? この家じゃなかったらどこに住むの?」
「納屋!」
「いや、可哀想でしょ?!」
あ、そう。
「そしたら、オクルに知らせてくる!」
俺は、風のようにオクルの元へと走った。
「オクル! クレアがゴネたが、俺がガツンと言って一緒に母屋に住む事を納得させたぞ!」
『奥様はそんな事言わずに、一緒で良いと言うに決まってるブヒ』
なんだ、その顔は!
俺を信用していないのか、お前は?
まあ、いい。
「……確かにクレアは許可したし少し話を盛った。
だけどな、俺とクレアの生活の邪魔をするなよ!」
こういった事は最初にビシッと言っておいた方がいいからな。
『当然、心得ているブヒ。
気遣いはアキラ様より出来るブヒ』
プイッとしやがったコイツ。
「それは確かに! いや、どうでも良いだろうそんな事!
どうでも良いが、ここで荷物運んでるの見てても暇だから、クレアのトコに行くぞ!」
『自分の部屋が見たいブヒ』
俺とオクルは家の中へと向かった。
『奥様、これからも宜しくお願いしますブヒ』
オクルがクレアに挨拶してやがる。
「アキラ、オクルは何て?」
「ん? ああ、クレア。
オクルは、家事全般は自分に任せて欲しい。
奥様、これからも宜しくお願いしますと言っている」
「まあ!」
クレアが嬉しそうだ。
クレアが嬉しいなら俺も嬉しい。
『家事全般だなんて一言も言ってないブヒ!』
「黙れ! 働かざる者食うべからずだ。
お前は俺達の家族みたいなものなんだから、家族が家庭に貢献するのは当たり前!
俺も手伝うから、ちゃんとお前も家事をするんだぞ」
『アキラ様もするなら、構わないブヒ。
それに、最初から家事くらいしようと考えてたからブヒ。
俺は綺麗好きだから、掃除や洗濯が好きブヒ』
「そ、そうか、頑張ろうな」
ビジュアルに似つかわしくない事を言いやがって。
助かるけど。
「そしたら、ソニアの部屋も用意しないとな……」
「えっ! ちょっと、この家に一緒に住むの?!」
ボソッと言ったら、クレアに凄い驚かれた。
「ソニアはこの村の幹部だし、クレアの指導も受けたいって言ってたろ?
なら一緒に住んだ方が都合が良いだろ? な? な?」
俺にとっても都合がいいし。
オクルが一緒に住むなら、ソニアだっていいじゃん!
何一つおかしいところなど無い。
「いや、あんなのでも女性よ?」
「そうだよ?」
ソニアが女性なのは当たり前。
何か問題でもあるのか?
「あのな、クレア。
今は、村にとっても俺達にとっても大事な時だ。
男だから女だから、そんな些細な事より、何が大切なのかを考えてみなさいよ。
こんなスタートの忙しい時にだよ、他の家にソニアを住まわしてたら、いちいち連絡するのに時間がかかるだろう?
なら、一緒に暮らした方が報告連絡相談がしやすいだろう?
違うか?」
キリッと俺はそれっぽい事を口にする。
「そ、それは…… そうだけど……」
……もう一押しだな。
「クレアは、心配なんだね。
俺がソニアに取られるんじゃないかって思っているのだろう?
確かに、俺は魅力的だからね。
大人の余裕とダンディズムがこれでもか、これでもかと溢れている。
だけど。
フフフ、おバカさんだなぁ。
俺が誰よりクレアの事を愛しているのを知っているだろう?
クレア、俺は誰にも取られないから安心しなさい」
俺は、俺だからな。
誰かの所有物じゃない、俺だ。
そして、俺の意思でクレアを愛しているし、ソニアとも一緒に暮らして仲良くなりたい。
当然、ソニアとそう言った関係になるかもしれないが、俺は俺だ。
誰の所有物でもない。
人間を所有物って奴隷制度的考え、間違ってる。
だから、俺は間違っていないし嘘もついてはいない。
「……アキラ」
キスを求めてきている!
俺は何も間違っていないけど、なぜか罪悪感が……
チラッ
オクルを見ると、向こうを向いて両手で目を隠していた。
フフ、気遣いの出来る奴だぜ。
「愛してるよ、クレア」
屁理屈こねた俺は最悪だ。
こんな綺麗な奥さんがいるのに、ごめんね。
そして、俺とクレアは、熱いキスをした。
ブチュゥゥゥ……
ソニアの唇はどんなかな?
アキラは最低な男だった。
・
・
・
「ご苦労様です!
そんじゃ、帰ったらラウルに宜しく言っといてね!」
俺は、一人一人に僅かばかりだが謝礼のお金を手渡した。
ラウルからもお金が出ているのだろうけど、 荷物の運び込みもそうだが家具の移動とかもしてもらったって助かったから、気持ちだ。
たいした金額でもないのだが、人足達は、俺にお礼を言って自分達が乗ってきた馬車で街へと帰って行った。
ちなみに、2台あった馬車の内、荷物が乗っていた馬車が俺達の手元に残った。
ラウルが最初にくれた馬車だ。
貸してやると言われたような気がしないでもないが、何時返せとか聞いてないから悪いけどもう少し借りておこう。
村の経営が順調に軌道に乗って利益が出るようになったら、立派な馬車を買ってラウルに返せばいい。
「オクル、クレア、お菓子の積込みも終わったし、挨拶回りに出発だ!」
「了解!」
『解ったブヒ!』
馬車に乗った俺達は、お菓子を手に村の一軒一軒を挨拶に回る。
村の土地が俺の物になったと言っても、住民と信頼関係が何より大切だからな。
支配者だが、謙虚に地元民に受け入れてもらわないと。
「村に商店など見当たらなかったし、街で買ったお菓子は村の人にとって珍しいだろうから、きっとみんな喜んでくれて俺達を迎え入れてくれるさ!」
「そうよね!」
『仲良くするブヒ!』
村民のリアクションに期待する俺達だったが、オークであるオクルの姿を見た村人が騒いで村がパニック状態になった。
そして、手に入ったばかりのマイホームを放火されそうになるのだが、村人達との交流を期待に胸を高鳴らせる今の俺達には、そんな事など知る由もなかったのだ。
ロクな事を考えないアキラ。
家も手に入ったし、村の為に何かするのか?
大丈夫か?!