第 十三 話 怒られた。
「相手が誰だって知るか、クレアは俺の嫁さんで、俺は、クレアの夫だ!」
俺は、立ち上がると大きな声で叫んだ!
この地の領主、ラウル・ゴンゾーラと商談中だが、関係ない!
この男は、クレアに惚れているらしいが、夫は、この俺だ!
だから、諦めろ。
俺よりも強く権力もあり若い。
そして、顔も良く背も高く、昔クレアとパーティーを組んで冒険者をしていたらしいが、俺との違いなど精々そんなものなのじゃないか!
俺は負けてない!
「フハハハハ! ……ハハ、ハ、ハァァ~~」
俺は、頭を抱えた。
自分でラウルとの差を考え、自分で勝手にダメージを受けた。
いや!
落ち込むな、踏ん張れ、立ち上がるんだ、俺!
フラフラになりながらも不死鳥の如く立ち上がった俺!
「どうしたんだ、アキラ。
さっき私がお前を紹介しただろう?
全く、商談中にうるさいぞ」
クレア……
「はいっ!」
俺は元気に返事をして着席した。
だよな、さっきクレアが俺を夫だと言っていたのに、繰り返してしつこかったな。
うん。
ラウル、俺を睨むな!
『この人さっきからアキラ様を睨んでいますが、なんでですか?』
「いや、コイツがクレアの事が好きらしいんだけど、俺が夫だからさ、嫉妬してるんだよ」
『身の程知らずですね。
アキラ様の方がよほどカッコいいですよ』
「そう? 冗談でも嬉しいよ」
流石オクルだ、俺を慰めてくれてるんだな。
『アキラ様の方が、俺達に近いですからね!
とても親近感がわきますよ! それに比べて…… 見て下さいよ、あの醜い顔を!』
「うん。
もう黙れ。
悲しくなる。
そして、ラウルを指差すんじゃない」
「おい!」
「ん?」
ラウル、俺を呼んだか?
自分を指差してみた。
「俺? みたいにするな。
お前だよ、お前!
今、俺がお前に嫉妬しているとか言ったよな?」
ラウルが鬼の形相で聞いてきた。
オクルが醜いとかどうとか失礼な事を言ったし、そりゃ怒るよな。
「すまん。
オクルと軽く雑談していたのだが、あ、ラウルもオクルの言葉が解るのか?」
「俺がオークの言葉など解る訳ないだろう!
ブヒブヒ言ってるオークに向かってさっきお前が喋っていたではないか!」
「ああ、そうか」
理解しました。
「……」
「……」
「……」
「……」
何だろう?
理解したから、そうかと言ったのに、いつまでラウルは俺を見ているんだ?
「いや、おかしいだろ!
ああ、そうかって、なんだお前。
俺の質問にちゃんと答えろ!
なんで、俺が、お前に嫉妬しなければならないんだよ!」
ラウル、顔を真っ赤にして言わなくても……
「だって、ラウルはクレアが好きなんだろ?
でも、クレアは俺の奥さんだからね。
羨ましいんでしょ?
でもな、羨ましくてもダメだよ。
クレアは俺のだから、諦めた方が良いって」
「おっ、お前、この野郎!!」
ラウルが俺の胸倉を掴んできた。
怖ッ、暴力反対!
「俺は、お前が聞いたから正直に答えただけだろ!」
「黙れ!
それ以上口を開くな!」
ラウルがキレた!
胸倉を掴まれた俺は、持ち上げられ、足が地面から…… く、苦しいって!
「なんだ、ラウルは、私に惚れてたのか?
でも、私が好きなのアキラだぞ。
さっきも言ったが、お前に恋愛感情などない。
全くない。
これっぽっちもない。
そんな非現実的な話より、商談中だろ、ちゃんとしろラウル」
「ク、クレア……」
クレアの容赦ない発言にショックを受けたのか、俺の胸倉を掴んでいた手の力が緩んだ。
離せ、この野郎!
俺はラウルを突き飛ばして窮地を脱した。
「……ふう、苦しかった」
さてと。
「クレアの言う通りだぞ、ちゃんとしろラウル」
商談中に注意力が散漫なラウルを注意した。
全く、困った奴だ。
「……よし!」
何が「よし!」なのか解らないが、ラウルが部屋を出て行った。
商談中に勝手に部屋を出ていくなど領主として大丈夫か?
若者の行動は訳が解らない。
ガチャッ
「おう、ラウル戻ってき…… お前!?」
ラウルが剣を手に戻ってきた。
ニコニコしてるし!
「クレア。
こいつはダメだ。
俺がお前とダメなのは十分過ぎる程に理解させてもらったが、コイツもお前にはダメだ。
この男は、お前をダメにする。
だから、俺が始末してやる!」
ラウルが剣を抜きやがった。
危ねぇな!
「ふざけんなよ! 何で他人のお前に決めつけられなきゃいけないんだよ!」
俺は、ラウルから距離を取る。
近づくんじゃねえ!
俺とラウルが応接セットの周りをグルグル、グルグルと……
「ラウル。
冗談は良いから、座って商談の続きをするぞ」
「クレア! アレは、冗談じゃ無いだろう?
完全に俺を殺しにかかってるって!」
あのラウルを見て冗談だと思うって、お前の目はどうかしてるのかクレア。
「うおっ、近づくなって! 離れろ、この野郎!」
ラウル! ちょっと目を離した隙に距離を詰めるんじゃない!
「アキラ、落ち着け。
大丈夫、何もしないから動くな」
「絶対に嘘だろ!」
胡散臭い笑顔で言いやがって。
「……なぜ、気づいた」
「気づくわ!」
コイツ、バカなのか?
『アキラ様に何をするブヒーー!』
ナイス!
奴の死角からオクルがラウルに飛び掛かった!
死にさらせ!
「邪魔だぁーー!」
バチーーン!
「オクルーー!」
ラウルにビンタされ、倒れたオクルが気を失ってしまった。
この野郎!
「お前、何の罪もないオクルに何しやがる!」
「襲い掛かって来たじゃねぇか!」
ラウルに正論を返された。
「ああ、もう! お前等じゃれ合ってないで、ちゃんと商談を」
「アキラ! いい歳して、ちょこまかするんじゃない!」
「殺されたくないって思うのに年齢なんか関係ないだろう!」
「往生際が悪いぞ!」
「黙れ、誰が往生なんてするか!
領主の癖に、女の事なんかで乱心してんじゃねぇよ!」
「お前等、いいかげんにしろぉぉおおおおお!!!」
◇◇◇
「反省したか?」
「……はい」
領主であるラウルがクレアに怒られている。
「ぷっ」
ざまあねぇな!
「アキラァ!」
「ヒィッ!
反省、反省してます、十分に!」
俺はすかさず土下座した。
言う事を聞かない事にクレアがキレて、俺とラウルはボッコボコにされた。
そして、仲良くクレアの前で正座中だ。
『そ、その辺で……
奥様、二人とも十分に反省しているようですし』
オクル……
オクルが俺を助けようとクレアに掛け合ってくれようとしている。
なんて、優しい奴なんだ。
「ブヒブヒ言って、何言ってるか解らないわよ」
バッサリだな、クレア。
「まあ、大方、二人を許してやってほしいとかでしょうけど。
いいわ。
大体、ここにこんな事しに来た訳じゃないんだから。
ほら、さっさと二人とも!
ちゃんと席について商談するわよ」
プリプリ怒ってクレアがソファーに腰かけた。
怒っているクレアも可愛いな。
さっきは、死ぬほど痛かったけど。
・
・
・
「……と、こんな感じでどう?」
「ああ、かなりの金額になってしまったが、それならば大丈夫だ」
クレアが定番の塩、砂糖、胡椒の金額をラウルと交渉し、合意に至ったようだ。
「ありがとう、ラウル」
「いや、それだけの価値があると俺が判断した結果だ。
これらの商品なら、中央の貴族相手に色々と使い道がありそうだからな」
ラウルがニヤリと笑った。
うん。
なんと、悪い顔か。
何にせよ双方が納得できる取引になって良かった。
「なぁ、ラウルは元冒険者なんだろ?
なんで、領主なんてやってるんだ?」
最初の取引が終わったので聞いてみた。
「国から冒険者ギルドに入った討伐依頼で、クレアがドラゴンを倒したからだ。
俺達は、その褒美で王様からパーティーメンバー各自が望む物を貰ったんだけど、それで俺は、貴族の身分と領地。
他の奴は、王宮勤めになった奴もいるし、クレアみたいなのもいる」
へー、そういう事か。
「じゃ、クレアも貴族なのか?」
「そう言うのめんどくさいから、報酬と自由を手に入れたわ。
無法を働かない限り行動の制限はないし、どんなに高い身分の貴族であっても私に命令は出来ないの」
「でも、冒険者ギルドに所属なら、元々ある程度自由なんだろ? なんか、勿体なくないか?」
「身分とかもらっちゃったら、この国の生まれでもないのに、国に束縛されるでしょ?
そうなるくらいなら、国の所属になるような身分とか必要ないわよ。
それなのに王様が私に自由に行動する権限を与えたのは、Sランクの冒険者が他所に行くのを防ごうって事でしょうけどね」
クレアの言葉を聞いて、ああ、そうかもなと思った。
国に所属したら、クレアなんてドラゴンを倒せたんだからって、次から次と無茶振りされて消耗させられそうだもんな。
まあ、疑問に思った事を聞けて良かった。
「さて、そんじゃ今日の本題に行きますか!」
疑問解決、スッキリした俺は、ラウルに笑顔で言った。
なんだかんだで、打ち解けてきたアキラ達。
和やかな雰囲気になった所で、アキラが口火をきる!