第 十 話 ひさしぶり
冒険者ギルドを出た俺は、仲間であるオークのオクルの服を買いに、服屋へ向かった。
『アキラ様、服屋に行く道を尋ねる時なんで女にばかり声をかけるんですか?』
などと、オクルが俺にバカな質問をしてきた。
「ハハハ、バカだな。
女の子と話をした方が楽しいからじゃないか。
あわよくば、お友達になれるかもしれないしね!」
『奥様がいないと、好き放題出来るって事ですか?』
ん?
「……なんだよ? 棘がある言い方だな。
あのな、楽しいからとか友達になれるかもってのは、あくまでおまけであってだな、お前の服屋を探すってのが第一なんだぞ。
ダメだよ、そんな勘違いしちゃ」
『勘違いですか?』
「当たり前だろ?
俺は、クレアを愛しているし、この先もずっとだ。
だが、クレア以外の女の子と仲良くイチャつきたいってのは別問題。
それはそれコレはコレってやつだ」
と、説明したが、完全に納得いってない顔だな、ソレは。
てか、俺の事なんかどうでもいいんだよ。
「それはそうと、お前にも彼女を作ってやらないとな。
俺と一緒にいては、好みのオークと中々知り合えないだろうからな……
また今度森にでも行って、お見合い大作戦でもしてくるか」
『え? 俺の為にですか?!』
「そうだよ。
だって、一人だと寂しいだろ?」
『そんな…… アキラ様ってホントは優しいんですね』
「ホントはって…… あのな」
お前、俺に優しいとか言ってたの適当に言ってやがったのかよ?
『なんだか、スパイみたいな真似するの心苦しくなっちゃいますね』
ん?
今、何か、ボソリと言わなかったか?
スパイ……
ピタッ。
俺は立ち止まった。
『あ、あれ? どうしたんですか、アキラ様?』
「オクル。 ちょっと、そこの店でお話しようか?」
俺は笑顔でオクルに言った。
そこにあるカフェでお話しましょうね。
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話終えた俺とオクルはカフェを出た。
「クレアめ、そんなに俺の事が信用できないのか!」
憤る俺。
『絶対に奥様に言わないでくださいよ、殺されちゃいます!』
そんなに、ビビるな、スパイめ。
まさか、会話も出来ないのに、オクルに俺をスパイさせるとは……
しかも、ちゃんと意思の疎通が出来たみたいな事を言ったけど、いくら恐怖からといってそんな事が可能なのか?
どんだけの圧力かけたら、そんな規格外の事ができるんだよ、全く。
ホント、クレアは化物だな。
「とっとと、お前の服買って、俺は女の子のいる店に行くからな!
俺が気分を害したバツとして、お前は、クレアが来ないか店の外で見張ってろよ!」
許してあげるんだから、それぐらいの仕事をしろよ!
『いいのかなぁ』
オクルが生意気にも深い溜息を吐いていた。
◇◇◇
服屋『ブルーマウンテン』
俺達は、目的の服屋の前に到着した。
こじんまりとした店。
ドアは開けてあり、店の前にも籠が何個か置かれている。
外の籠に値段が付けてあり、中には沢山の服がおいてある。
おや?
「ああ、靴とかもあるんだ」
この店で一式そろいそうだ。
値段が書いてあるが、この世界の服や靴の相場など知らないから、安いのか高いのか全く解らない。
まあ、大量生産など出来ない時代設定なのだろうから、確実に日本より高いだろうけどね。
クレアからの小遣いで余裕で買えそうなので心配はいらないか。
店内に入ると、中にも沢山の服が陳列されていた。
多くは中古の服のようだな。
「いらっしゃいませ。
何かお探しですか?」
身なりの整った男が出てきた。
店員さんだろうな。
めんどくさいし、時間がないから助かる。
「まあね。
今日は連れの服を揃えようと思って」
「ほう、お連れ様の…… え?」
店員さんがオクルを見て固まった。
「あの、お客様、アレはオークですよね?」
店員が俺に小声で。
「そうだよ。
オクルってんだ。 良いの揃えてやってよ」
俺は、陳列してある服を見ながら答えた。
現地の服を俺も調達しといた方が良いかな?
シンプルな物が多い印象だな。
靴とかスニーカーのままの方が楽だけど、こっちの靴とかもそろえるか?
「……まあ、うちも商売だから、金さえもらえれば構わないですけど」
正直に口にして、店員がオクルの方へ行った。
「俺のも良いけど、クレアへ生地面積の少ない素敵なのあったら買っていこうかな」
久々のショッピングに心躍る俺。
なんかスケベな衣装でもないかしら?
「お客様、あの」
俺が女物のパンツを真剣に品定めしていると、店員が話しかけてきたので、少し恥ずかしかった。
「お客様、あちらのお客様ですが、サイズが大きすぎてオーダーメイドになりますが、どうなされますか?」
中々あの大きさは置いてないか。
「どれくらい時間かかる?」
「そうですね、今ある大きいサイズの服を手直しして…… 三日もいただければ」
「うーーん、そっかぁ。 三日くらいなら、この街に滞在していよう。
それじゃ、お願いするよ。
それと、羽織るタイプで良いから、なにかオクルに合うの無いかな?
この際、前が留めれなくていいから。
ただでさえ目立つのに、半裸でウロウロされると、女の子が引く」
「は? はあ。
それでしたら……」
店員が何やらブツブツ言いながら、奥に行った。
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数分後、オクルは袖なしのベストみたいなのに、半ズボンにベルト代わりの荒縄をつけたもの、足元はサンダルという出で立ちで現れた。
中々ワイルドな恰好だが、半裸よりずいぶんマシになった。
「オクル、裸同然だったのが、大分マシになった。
オーダーメイドでよそ行きの服も作ってるからな、いよっ! この衣装持ちめ」
『なんか、服一つで街の住民に溶け込めた気がします!』
そうか、そうか、幸せになったようだな。
俺も嬉しい。
「って事で、次は、俺が幸せになる番だ!
服屋の親父から女の子と遊べる店をリサーチ済みだからな、行くぞ!」
俺は、少年のように駆け出した。
『奥様が戻られるまで、あまり時間がないですよ!』
オクルに言われるまでもない、解ってるから急いでいる。
後、1時間か? 30分か? いや、2時間くらいあるだろう!
兎に角、急げ、俺!
「あっ! アキラじゃないか!」
急いでいる俺は声をかけられた。
誰だ? こんな時に!
「って、ソニア?! お前、戻ってたのか?」
俺に声をかけてきたのは、ビキニアーマーで褐色の大女、ソニアだった。
「ああ、数日前に帰ってきてたよ。
アキラは、今日着いたのか?
随分と、ゆっくりしてたんだな」
こんな時に……
「ああ、まあな」
そしたら、俺は、急いでいますので。
会釈して行こうと思ったのだが、
「あっ!」
ソニアが言うから、立ち止まってしまった。
何?
「ウフフ、そっかぁ、だよね~。
森でクレアと楽しんでたからだね」
くっ!
そんな事か!
「ハハハ、ま、まあね。
僕、これから行かなきゃならないところがあ」
「ところで、クレアは?」
話を聞かないスタイルか!
「クレアは、アレだ、領主に挨拶に行くとか言ってたぞ」
「そうなのか、残念だな。
あれ? アキラは、一緒に行かなくてよかったのか?
こんなところで何をしてるんだ?」
あああ、時間が惜しい。
「いや、仲間の服を買いに、一寸……」
クソ!
なんで時間が無い時に限って、こんなくだらない事を、この女は……
女?
そうだよな、ソニアも女だ。
凄く綺麗な。
胸もまあ大きい方だ。
確実にクレアより肉付きが良い。
引き締まった腹筋。
そして、素敵な衣装。
「だよな」
丁度、急いでる時にカモが葱背負ってやってきたようなもんじゃないか!
「フフフ、ソニア……」
俺は、ソニアの腰に手を回す。
いや、肩に手を回したいが、ソニアが大きいから。
「え? ちょ、ちょっと、こんな往来で……」
「そうだね。
ゆっくり出来るところで、少し話そうか」
「何を考えるんだ、お前は?!」
「何をって? 久しぶりに会ったから、近況とかの話を落ち着いて話しようかと思っただけだけど?
ん? ……もしかして何か、違う事、期待してた?」
「そんな事!
もう、お前は、クレアの旦那さんだろ?」
「そうだよ。
そして、今は、ソニアの友人。
これからは?
未来の事など誰にも解らない」
「と、兎に角、この手を離せ!」
「もう少し、綺麗なソニアの肌に触れさせてくれないか」
チラッと向こうを見ると、オクルが気をきかせて離れた場所でこちらを伺ってくれていた。
よし。
邪魔をするなよ。
「なあ、ソニア。
俺は、君の事をもっと知りたい。
俺達は、もっと良く知り合うべきなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!」
ビックリした。
一瞬、向こうにクレアがいたような気がした。
よく見たら、いなくなってるから、幻覚でも見たのだろう。
疲れが溜まってるのかな?
ソニアに抜いてもらおう。
いや、疲れを。
「もう!
お前は、そうやって、ふざけてばかりで」
やべ、怒りそう?
「ソニアの胸もお尻も俺を惑わせるから、とても正常じゃいられなくなるんだよ」
クソッ! キスしたいが身長が足りん!
「そんな……」
ソニアが恥ずかしそうに。
筋肉ムキムキだが、可愛いものだ。
ほぼ裸みたいなものだが、その少ない生地の向こう側へ俺を連れて行ってくれ!
「楽しもう。
二人だけの思い出を、おお?」
あれ?
オクルは?
向こうに立っていたオクルが見当たらない。
どうした?
「クレアに悪いし……」
「ソニアは、悪い子だ。
何か、クレアに悪い事を考えてるの?」
「そ、それは、 ……お前が」
「俺の名前を言って御覧?」
「アキラ!」
そう、俺の名前は、アキラあああああああああああああ、クレア!!
なぜそこに?!
そして、オクルは? オクル?
俺は、左右を見渡してオクルをさが
「ヒィィ!」
腕が変な方向に曲がって倒れる!
そうか……
ダッ!
死ぬ!
俺は、死にたくない!
「だから、逃げさせてもら、ダメだぁぁあああああああ!」
頭をがっちりと掴まれた。
絶対奴だ!
「ドウシテ逃ゲルノ?」
なんて、感情の無い声。
「に、逃げてなんて、ないよ。
お、お、おかえり、クレア」
愛する伴侶の帰りを出迎える挨拶をした。
てか、許してください。
まだ、何もしていないんです。
殴るなら、せめて、何かあってからにしていただけると、ありがたいいいいだだあああああああいいいいぃぃ!!!
「う、腕が……」
ボキィィィイイ!!!
躊躇なく折られた。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいい!」
俺は、必死に頭を下げた!
「アキラ」
ん?
許してくれるのか?
そして、ソニアが走り去る後ろ姿が見えた。
相変わらず、良いお尻だ。
「どうして謝るの?
それとも、謝る様な事をしたの?」
その眼ぇえええええ!
「はは、いや、なにも」
声を震わせながら、俺は答えた。
じゃあ、なんで俺の腕を折ったんだよ! とは言えなかった。
自殺行為だ。
「はい、反省の色が見えないから、もう一本ね!」
答え間違ってたあああ!!!
「ごめんなさい! ソニアを口説こうとしておりました!」
俺は、涙ながらに訴えた。
正直者な俺を許してくださ
ボキィィィイイ!!!
躊躇なくもう一本の腕も折られた。
「今回は、未遂で終わったし正直に言ったから、優しめだけどコレで許してあげるわ」
俺は、耳がどうかしたのだろうか、人の両腕をへし折って優しめだと?
その後、回復魔法で怪我を直してもらったけど、流石の俺も怒りが沸々と……
だが、その夜、宿屋に宿泊したアキラは、クレアに甘えられて全てを許した。
許すと言っても、そもそも、アキラ自身が悪いのだけれども。
兎に角、アキラは反省した。
そう、次はもっと上手くやろうと。
そして、オクルは、クレアの絶対的強さに更なる忠誠を誓うのだった。
クレアと宿で愛し合い仲直りをした。
そして、アキラは、秘策を現金化すべく歩み出すのだ!
次回、アキラの目的が明らかに!
こりゃぁ、ブクマや評価するっきゃないぜ! って事でお願いします。