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重なり合う悪と罪  作者: 東京卑弥呼
3/8

室田耀、事の事実を知る・・・

実和は作業場で、製品を梱包しながら、ロッカーで見つけた写真のことを考えていた。

〈大島さんもきっと私と同じ目に会っていたんだ。きっとどうするか悩んで、出す決心がつくまであそこに隠したんだ。そこへ結婚が決まってあの封筒を出さなかった……。あの封筒はおそらく忘れ物だ!〉

その時、実和の心によからぬ考えが浮かんだ。


それから二日。粕谷製作所も大貴も何も変わった様子はない。実和もまた何も変わらず、いつものように働いていたがどこか落ち着かない。というのもアレがもう会社に届いている筈だと思っていたからだ。そのアレは案の定、会社に届き、事務員の林が専務宛に届いた郵便物を大貴のデスクに置いた。

退勤時間になり、実和は着替え、事務所内にあるタイムカードを押すため事務所に入った。

「お疲れ様です」

実和はチラッと大貴を見るも大貴はパソコンに向かい仕事をしている。何も変わった様子はないいつもの姿。実和はタイムカードを打刻して、「お先に失礼します」といって事務所を出た。そして、会社から出るなりポツリと呟いた。

「まだ、届いてないのかな、それともなんとも思ってないのか……」実和は家路についた。


その夜、会社が終わってから大貴は直属の部下の室田といきつけの居酒屋の座敷にいた。

大貴と室田は向かい合って座り、テーブルの上には封筒と大貴と大島奈々がラブホテルに入る写真が置いてある。室田は、便箋を読んでいる。便箋の最後の一文には『あなたのせいで、私の人生滅茶苦茶だわ。必ず仕返ししてやる』と書いてあった。

室田は便箋をテーブルの上に置いた。大貴がビールを一口飲んでから言った。

「今日届いたんだ」

「大島さんからですか?」

「結婚して辞めたんだから、こんなの今更だよなぁ」と大貴は、室田に同意を求めた。

「そうですね」

「それでちょっと、奈々に会ってきてくれないか?」

「え、俺がですか? 俺、大島さんと付き合いないですよ?」

「うちの社員で、そう、村上さんなら、仲良かったから連絡先知ってるんじゃないか」

「……」

「うまくいい方向に収まるよう話つけてきてくれ。経費は全て会社持ちだ」

「……わかりました」

「兎に角、時期が時期だけに面倒になると厄介だ。わかるだろ?」

室田は大貴が婚約のことを言っているのを察した。

「はい」

「じゃぁ、頼むな」


室田は、大貴に言われた通り、とりあえず奈々と仲の良かった村上に電話番号を訪ねた。

するとさすがに村上も人に電話番号を教えていいのか迷い、「なぜ、そんなこと聞くの?」と尋ねてきた。

「いや、実は、こないだ部屋を整理してたら大島さんから借りていた海外のアーティストのDVDが出てきたんだ。別に返さなくてもいいかなっと思って、フリマで売って処分しようと思ったら、めちゃめちゃプレミアついてて、ちょっと売るに売れず、やはり本人に返したほうがいいと思って」と室田は誤魔化した。すると村上は「そう」と素っ気なく言って、怪しむことなく、スマホを取り出し奈々の電話番号を室田に教えた。

「ありがとうございます。こんど久しぶりにみんなで飲みに行こうって言っときます」

「いいわよ」

村上は素っ気なく断った。

室田はさっそく奈々に電話した。しかし、出なかったので留守電にメッセージを残した。

〈お久しぶりで。粕谷製作所の室田です。お元気ですか? 久しぶりに会いたいなぁと思って電話しました。連絡待ってます〉

すると五分も経たないうちに、奈々から電話が来た。

「もしもし、室田ですけど」

「あ、室田君」奈々の声はどこか上擦っていた。

「大島さん。お久しぶりです」

「何、どうしたの?」奈々の声は明るい。室田からの突然の電話に全く警戒する様子もなく、それどころかどこか懐かしがっている雰囲気が口調から伝わってきた。

「いや、ちょっと久しぶりに会いたいなぁと思って。少しでいいんです。ちょっと会ってくれませんか?」

「何それ。もしかして告白。ちょっと辞めてよ、告白なんて」電話の向こうで奈々がはしゃいでいる姿が浮かんだ。

「告白じゃないけど、ちょっと話したいことがあって。そんなに時間とらせませんから」

「じゃぁ、久しぶりに会ってやるか!」

「ありがとうございます」

「じゃぁ、いつにする? 今、働いている場所に来てくれるのならから今日でもいいよ」

「本当ですか?」

「でも、四時前じゃないとダメだよ」

「わかりました。じゃ、今から伺います」

そう言って、電話を切った。

〈警戒されると思ったんだが、案外だったな〉

奈々から指定された場所は、繁華街の表通りから路地裏に入った雑居ビル。表通りはまだ飲食店、飲み屋が多いが、路地裏に入ると、キャバクラ、ホストクラブが軒を並べていた。

室田はスマホのGPSを頼りに、奈々から指定された雑居ビルに向かった。雑居ビルは幅が狭い五階建てのビルだった。一階はガールズバーで奈々から指定された場所はそのビルの三階だった。雑居ビルの奥に階段とエレベーターがある。エレベーターは四人も入れば満員になる小さなエレベーター。室田はそのエレベーターに乗り三階へ向かった。エレベーターが開くとすぐお店の玄関になっていた。その入り口のグレーのガラス扉にはクラブ『キャロット』と店名が書いてあり、大きめのドアノブのところに『準備中』の札が下がっていた。室田はガラス扉を開けて、店内に顔を出した。すると入り口の傍に受付があり、若い男性が一人仕事をしていた。室田は男性に声をかけた。

「すみません。ここに大島奈々さんがいると思うんですが……」

男性は室田を見て、ぶっきらぼうに言った。

「何か御用ですか?」

「あ、いえ、大島さんの知り合いで、」と説明しようとすると、店内から奈々が出てきて室田を見るなり浮かれた声をあげた。

「あ、室田君!」

「大島さん」

奈々は、ジーンズに白いワイシャツとラフなカッコをしていた。そして、小走りに室田に近づいた。男性はそれを見届け、仕事に戻った。

「ほんとに来たんだ」奈々は満面に笑みを湛えている。室田は手に持っていた菓子折りを紙袋ごと奈々に渡した。

「これ、お土産です」

「なに。そんなことしなくてもいいのに」奈々は終始笑顔。

「兎に角、中に入って。今、準備中だから。でもそんなに長居は出来ないよ。電話でも言ったけど長くなるなら営業終わりか休みの日にしてよ」

「大丈夫です。ちょっと尋ねたいことがありまして」

「なら、電話でもいいのに」

「いえ、ちょっと会って話した方がいいかなぁと思って」

「何、その訳ありな感じ。なんか嫌だわ」奈々は室田の腕に手を廻して、店内へ連れていった。


室田がソファで待っていると奈々がグラスにウーロン茶を入れて持ってきた。

「ウーロン茶でいいでしょ」

「構いませんよ」

「でも、そのウーロン茶。ここで飲んだら一杯二千円よ!」

「え、そんなにするんですか!」

「ウソよ」と言って笑い、「でも、安くはないわよ」そういって奈々は室田の隣に座った。

室田は奈々を見て、

「でも、変わりましたね」

「何が?」

「いや、会社にいた頃より、なんか、ずっと若く見える」

「こういうお店で働くには、それなりに若く見せなきゃダメなのよ。特に私のようなおばさんは。ほんといろいろ大変なのよ」

「大島さん。確か、寿退社の筈じゃ」

「その寿も半年で終わったわ」

「そうなんですか」

「まぁね。私も案外だったわ」

「それからここで?」

「そうね。でも一人だから気楽なものよ」

「そうですか」

「何、そんなこと聞きに来たの?」

「いえ、違います」

「じゃあ何?」

「……専務のこと、覚えてます?」

奈々はニヤリと微笑み、室田に鋭い視線を送った。

「覚えてるわよ。忘れるわけないでしょ」

「そうですよね」

「どういう意味よ!」奈々は室田の肩を軽く叩いた。奈々は、室田も大貴と自分の関係を知っていることを知っていた。

「いえ別に」

「ふ~ん、そう。あの人のこと?」

「ええ、まぁ」

「そうよね」

「大島さん、専務に手紙、出しました?」

「手紙? なんで? なんで私が出すの?」

「出してないですか?」

「悪いけど、あの会社のこと、室田君から電話もらうまで忘れてたわ」

「そうですか」室田はカバンから写真を出す。

「じゃ、この写真、覚え、あります?」

奈々は室田から写真を渡される。その写真は大貴と奈々がラブホテルに入っていく写真である。奈々はそれを見て思わず爆笑した。

「いやだ! なにこれ! どうしてこんなの持ってるの!?」

「まぁ、ちょっと。覚えあります?」

「そっか! 私のロッカーから見つけたんだ!」

室田は、奈々から新しい情報を聞き、何も答えず静観した。奈々は写真を見ながら、

「でも、良く見つけたわね。この写真、確かロッカーの棚の裏に貼って隠したのよ。私もそれ忘れてた。これ見つけたの?」

「いえ。専務のところに届いたんです」

「なるほど……。もしかしてあの人。また女の子に手出してるんじゃないの?」

「……」

「そうよね。これを見つけるってことは、おそらく私と同じ目に合って、同じようなことを考えたから見つけたのよね」

「じゃぁ、この写真を送った人は大島さんが使っていたロッカーを今使っている人ってことですか?」

「おそらくね」

「なるほど……」

「ほんと専務も懲りないね。どうせ、その人にも、いつもの就職難をチラつかせて、自分の意のままにしてるんでしょ。ほんとクズだわ」奈々は呆れ口調で言った。室田は奈々から写真を受け取りカバンにしまった。奈々は冷やかな目をして最後に一言言った。

「金のある奴はいい気なもんね。ほんと、いつか痛い目に合うわよ」奈々は冷笑した。

室田は黙ったまま奈々の横顔を一瞥した。



つづく


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