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別れ、そして

  季節が過ぎ、また冬が来た。


 何人帰せたか解らなくなった頃、グレンは


「保護施設の来訪者を何とかしたい」


 と難しい顔をした。しばらく考え込んでいる‥‥‥こんな顔初めて見た珍しい。


 ある日、帰りは遅くなると言って出かけたグレン。その日は帰って来なかった。次の日も帰って来ない。


 一週間が経ち夜遅くやっと帰ってきたグレンだったが、その日は疲れたと言って直ぐ寝てしまった。


 翌朝、久しぶりに四人で食事をした後、グレンがテーブルに何かの建物の設計図を広げた。


「保護施設だ」

 この為に、色々動いていたのか……


「ここからここまで個室になっていて来訪者がいる。ここの中央には中庭がある。ようじ、中にいる来訪者とコンタクトはとれるかい」


「やってみる」


 精神を集中して強い感情を持つ人を探す‥‥‥見つけた。こっちに気づいた!


(こんな所は嫌だ!)(帰りたい)(帰りたい)(帰りたい)(帰りたい)!

ーーーーーーその人の感情が流れ込んで来る。


「ようじ! 大丈夫か!」

 グレンが僕の肩を掴んで揺すっていた。僕は頬に流れる涙に気づく……でも……涙が溢れて止まらない。


「グレン見つけたよ……その人の感情が……流れて来て飲まれた……」


「わかった。落ち着いたら今回の計画を話そう。その人物にも協力してもらいたい」

 グレンはそっと僕を抱きしめた。僕はグレンの胸の中で泣いた。


 しばらくして感情の高まりは静まった。冷静になったとたん、恥ずかしさで一杯になる。顔を上げグレンを見る。


「‥‥‥ありがとう。もう大丈夫……ごめんね、グレンの服汚しちゃった」



「気にする事はない、美しい君の瞳から流れたものだ」

 僕の顎をくいっと上げ、まだ濡れている僕の頬をそっと拭ってイケメンスマイルを浮かべる。チャラい……外でもこうなのか?


「それ、口説き文句だよ」

 そう言う僕に、


「そう、受け取ってもらっても構わないよ」

 イケメンスマイルをさらに、キラキラさせ言う。


「あの~外野もいるので、後でやってもらえますかね」

 あつしがニヤけて言う。


「それでは続きは後にしよう」

 グレンが真面目に言う。


「違う! 違うから! あつし!」

 慌てる僕を見て。


「もう、大丈夫ね」

 ミアが笑いながら言う。


 今回の計画が話される。中央の中庭に来訪者を集める。ミアがそれぞれの来訪者について情報を聞いている、その中央に僕とあつしも行く。グレンがあつしに向かって


「あつし、君も一緒に帰るんだ」

 驚く僕達。


「グレン、俺は邪魔か?」

 あつしの顔が怖い。


「いや、随分助けてもらっている」


「なら、なんで帰れなんて言うんだ!」

 あつしの口調が強くなる。


「こちらに長く居ると帰りたいと言う思いが薄れてしまう」

 静かにグレンは言う


「もう! 遅いよ! こんなにも……この世界線に未練タラタラだよ……」

 ミアを見る

「ミア、ミアはどうなんだ」


「私は、沢山の子供達を置いては行けないわ」

僕を見る


「この世界線が僕を必要としなくなったら帰るよ。いや……帰されるかな?」


 あつしはそのまま黙って部屋に入ってしまう、食事の時間になっても出て来なかった。


 グレンに自分の疑問をぶつけてみた

「保護施設の来訪者達は其々違う世界線でしょう? 同じやり方で帰せるの?」


「帰りたい。という思いは外に暮らす来訪者達より強い。だから、大丈夫さ」


 翌朝、部屋からあつしが出て来た。


「グレン、俺やっぱ帰るわ。こっちのゲーム全部クリアしたし。向こうの世界線には、まだやり残したゲーム沢山あるからな。ショーだって色々準備大変だったんだぜ」

 

 目一杯頑張って笑顔を見せているのだろう。でも、あつし、上手く笑えていないよ。



 ミアが今日あの花が咲くと言う。準備はした……僕はあの後も来訪者とコンタクトを取り続けていた。だから、保護施設の中の来訪者は今回のこの計画を知っている。


 その時を待っている。あつしが僕の肩を叩き言う。


「ようじ、お前と会えてよかったよ。……楽しかった」

 いつもの笑顔だ。


「僕も同じだよ。ありがとう」

 あつしの、この笑顔を見るのも最後なんだ。帰ってしまって、きっと僕が一番寂しく思うのだろう。


 ……時間になった。ミアが精神を集中させている。今回は人数が多いから大変そうだ。ミアの額に汗が滲む。そして、鼓膜が振動する。来た……時空の歪みだ……

 

 僕は耳に手を当てる。同時にミアが両手の指を鳴らす。僕達は保護施設の中庭にいた。“らん”の花が一面に咲いている。他にも来訪者だろう人も次々と現れた。皆何故ここに居るのか理解している。ここにいる全員に向かって僕は大きな声で言う


「みんな! 帰りたい場所を思い出して! 帰りたいと強く願って!」


 眩しい光が皆を包む。光の向こう側からあつしが僕に向かってピースをしている。今時ピースかよ……光は消え花も散っていった。僕は力が抜け倒れた。誰かの足音が近づく……。


「ふん。選ばれし者か‥‥‥ミアめ、やってくれる」

 

 不思議だ。この人からは怒りの感情を感じない、逆にミアに対しての優しい感情が流れてくる。僕は、そのまま気を失った。


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