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それぞれの来訪者達

 ある日、チャイムが鳴りドアが開く。すると小走りに誰かがこちら向かって来る。その足音の主は僕の前に来て、


「あなたがようじね! 美しい黒髪だわ! あら? 瞳も黒いのね! 神秘的だわー……それに比べて隣の人は誰? 変な頭」


 あつしの髪はそう、いわゆるプリンだった。ケラケラ笑う少女の隣に、


「もうエレンたら失礼よ」


 笑いを堪えている女性の髪の色が赤毛へと変わっていく。


「ごめんなさい。日本人に会えるって聞いて興奮してて」


「キャサリンは元の世界線で日本人に合っているんだものずるいわ」


 エレンと言う少女はじっと僕を見つめる。隣のあつしは


「どうせおれの髪は染めまくってるからバサバサですよ。だが! コスプレイヤーとしてはウィッグなんて邪道だからな、キャラになりきらないと!」

 と、握り拳を作る。


「わかるわ!」

 とキャサリンと言われる女性があつしの握り拳を掴み見つめ合う。この二人が色を変える事が出来る理由が解った気がした。エレンはずっと僕を見ていたがモジモジしながら、


「髪、触ってもいいかしら?」

 と頬を染め話す。


「どうぞ、構わないよ」


 背の低い少女に合わせて少しかがむ。頭を撫で髪を触る。グレンもよくこうするなあ……なるほど  ん! グレン! はっと窓辺に立つグレンを見る。嫌な予感しかしない……ニヤッと笑うと。


「女の子だった時は、それはそれは魅力的だったよ」

 とワントーン高目に話す。やっぱりだあぁ……


「「どういう事!」」

 そう言うとグレンに詰め寄る。それにしても素晴らしいハモリだ。


「まあまあ、2人共座っては話そうか」


 グレンは二人にソファーに座るよう勧める。そして今までの事を話し始めた。二人の表情がコロコロ変わる。そうだよなあ、僕だって良く解ってないんだ。話が落ち着きミアが紅茶を出してくれた。それを皆で飲む。


「俺はようじがこの世界線に来た理由があると思っている。この地球が君を呼んだんだ。エレン達には話してある。ようじ、君がキャサリンを元の世界線に帰すんだ」


 えっ? 何を言っているんだ……どうする……やれる訳がない……失敗したらどうなる? 立ち上がり後退りする。


ーーーーーー「君しか結界には入れない」ーーーーー


 グレンが静かに言う。戸惑う僕をよそにミアが言う


「今日、あの花が咲く」


「私を家族の元に帰して」

キャサリンが僕の手を握る。その時、耳の奥の鼓膜が震える……これは時空の歪みだ! ミアが立ち上がる


「さあ、行きましょう」


 指を鳴らす。景色が変わった、セントラルパークだ。その一面に“らん”の花が咲いている。グレン達には見えていない、ミアの声が響く


「思い出して! 帰りたい場所を、この地球が助けてくれるわ。さあ願って!」


 眩しい光に包まれる。握っていた手の感触が無くなる強い風が吹き花は散った。誰かが走って来るエレンだ、僕にしがみつき泣いている。


「キャサリン、帰る事が出来たのね。ありがとう」

 しばらく泣いていたが、涙を拭くと笑顔で手を振り去って行った。



 マンションに戻りほっとするが不安な気持ちは拭えない。本当にこれで合っているのか? そんな僕に


「大丈夫、キャサリンはちゃんと元の世界線に帰ったよ」

 そう言って僕の頭を撫でキスをする。


「確認は出来ないから……グレンはどうしてそうきっぱり言いきれるの?」


「俺の直感だ! 俺の勘は当たるんだぞ」

 いい加減な……そう言おうとした時、


「あつしがこの世界線に来てから、来訪者は来ていない。となると、今度は返す時期に来たのではないか……とね」


「だから、これからも頼むよ」

 イケメンスマイルで僕を見る。


♢    ♢    ♢ 


 あつしは、相変わらずグレンにべったりで情報を集めていた。グレンから髪の色は見せるなと言われていたのだが、見せてしまったのだ。あるシェルターから相談があると言われ向かった先で、あつしは見せてしまった。

 

 シェルターと一緒に居たのは、来訪者フェンと言う名の台湾人十二歳の少女だった。こちらに来てから随分怖いをしたらしい。安心させるつもりであつしは見せてしまったのだ。少女はあつしを僕と勘違いし、あつしに泣きついたらしい。


 そんな訳で今、彼女はこのマンションで僕達と一緒に暮らしている。


 フェンはイギリス人とのハーフで髪は茶色、瞳は薄いブラウンとその珍しさからオークションに出され、髪を切られ、危うく目をえぐられそうになったらしい。今のシェルターが買い取ったのだそうだ。なのでこちらの世界線の人達には心を開こうとしない、いつもミアの後を付いて回る。


 僕がシャワーを浴びて、ソファーに座り炭酸水を飲んでいると


「ダメよ! ようじ! タオルで髪をゴシゴシしちゃあ」


 とミアが飛んで来る。ミアはやっぱり美容師だったようだ。髪の手入れは任せているというか……させてもらえない。あつしはミアに髪を切ってもらいショートカットにしてもらった。もう、プリンではなくなった。


 僕も切りたいと言ったのだが却下されてしまった。グレンは勿論ミアからもそのままでとお願いされた。あつしまで、ロン毛似合ってるよ。顔も女の子っぽいし、実際女の子だっだ訳だから……そのままでいいじゃないか! なんて言われた。……僕が男だと知った時の落胆したあつしの顔を思い出す……。


 ミアが僕の髪に何かを塗り乾かす、サラサラヘヤーの出来上がりだ。その髪にグレンは優しくキスをする。こちらに来てから変わらない仕草だ。


「オイル変えた? いい香りだ」


「新商品が出ていたから買っちゃったの。フェンにはこっちよ」

 と見せる。


「私もシャワー浴びてこようー! マミー私もやってね」

 

 と、今は元気である。ミアは仲間からマミーと呼ばれているようだ。間違ってはいないのだろうが複雑だ。シャワーを浴びて髪をミアに手入れしてもらっている。フェンはご機嫌だ。


「私もパパみたいな黒髪がよかったな」

 とぽつりと呟く、


「その髪ママと同じなんだろう? 僕はフェンの髪、好きだよ」

 そう言うと僕の腕にしがみ付く。それを見ていたあつしは


「俺も日本人なんだがなあ、何が違う?」

 少し拗ね見せる。


「あつしは嘘つきだから嫌い!」

 と言われ落ち込む。

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