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オークション

 ミアが帰って来た。帽子を被った少年と一緒に。


「ここが、あんた達の秘密基地か?」

 少年は周りをキョロキョロ見る


「初めまして。僕はようじ、君と同じように違う世界線から来た日本人だ。君の事教えてよ」


「俺はニックだ。そこにいる金髪二人はこの世界線の人間か?」


「そうだ。俺はグレン、彼女はエレン、そして、君と同じ力を持つ、ミアだ」

 帽子を取る少年、その髪の色は淡いブラウンだ。僕と変わらない背の少年にグレンは近づくと


「一人にしては、多すぎる量の食糧をいつも持っていくようだが?」


「全部俺が食べているって言ったらどうする?」


「そうなんだって言うしかないよね。これから食費が大変だ」


 グレンがサラッという。


「あんた達が元の世界線に帰しているって聞いたが、ほんとに出来るのか?」


「沢山帰してきたよ」

 笑顔でグレンは言う。


「何故そんな事をする。あんた達には関係ないだろう?」

 そう、話す少年にグレンは


「俺達は帰し方を知っている。だから帰り道が分からなくなった人に、帰り道を案内しているだけだ。困っている人を見て知らない振りは出来ない、ただそれだけだ。これは信じてもらうしかないがね」

エレンも大きく頷く。


「日本人は、お人好しだからな……どうせ、そこの日本人がやるんだろ」

 全員が驚く。


「ほう、良くわかるね」


「この世界線に二年以上いたんだ。それなりに色々知っている。この世界線の人間に俺のような力はない、俺達の事を来訪者って呼んでいる事とか俺達が見つかるとヤバいって事だって……」

 

「お・れ・た・ち ね」

 皆が笑顔になる。


「ああ~やっちまったか……そうだよ俺の他にもいたよ。二日前に捕まったが日本人の女の子だよ。桜って言う名前だ。俺がいない間に捕まった」


「二日前!」

 グレンがまた驚く、そうだグレンに連絡がないのはおかしい。政府に捕まったのでは無いとすると……オークションに出される可能性がある。だが、普通に出されるとは思えない。裏でのオークションか? あの変態おやじの顔が浮かぶ、行きたくはないが……そこは我慢するかな……。


「グレン、あの屋敷に行こう。僕も行くよ」


「助かるよ。正直ようじを連れて行きたくはないのだが、俺だけでは話してくれないだろう。門前払いは困るからな。ようじを気に入っていたようだから、顔でも見せれば何か解るかも知れない」


「エレン、何か他に情報がないか探ってくれ」

 グレンはそういって僕と部屋を出た。


 ‥‥‥あの屋敷に来た。と言われた時を思い出すと寒気がする。だが、今は少しでも情報が欲しい。


 メイドに案内され応接室に通された。家主を待つ、今回は早かった。


「これは、グレン様今回はどの様なご用件でしょうか? 彼女の保護申請は終わらせましたが」


 僕は家主の前に出る


「裏ルートのオークションについて知りたい。彼女もそこで受け取ったのだろう?」


「さて? 何の事でしょう?」

 ニヤリと笑う……知っている……連絡もあった……どうする……。


「もし、知っていたとしてもあなた達に話して私に何のメリットはない。他を当たって下さい」

 後ろを振り向いた。


「それなら、情報の変わりに僕の髪を渡そう。そこの君! ハサミを持って来て」

 グレンが慌てる。メイドからハサミを受け取ると、束ねた髪をバッサリ切った。切り取った髪を家主の前に出す。


「あなたが要らないのなら、他の誰かに渡す」


「……解りました。お話しましょう」

 

 僕の髪を箱に入れ

「うーん! ……手入れをされた美しい髪だ……艶が違う……」


 隣でグレンがガッカリして肩を落とす。それを見た家主は機嫌がいい。まあね、こんなしょげた姿のグレンは見れないし見せない。そこまで気を落とさなくても、髪は伸びるのだから……


「今日は、いい物が手に入ったし、面白いものも見せてもらった。これを渡そう」

 と、封筒をもらった。


「昨日連絡をもらいましたよ。オークションに東洋人が出るって……もう既に争奪戦が始まってます。私には、彼女がいる他には要らない……生きている者はね……」

 その封筒にはオークションへの招待状が入っていた。それにしても、この人は……。


 マンションに帰って来た。僕の姿を見たエレンは声が出ない。ミアは僕の髪を見て


「もう! ハサミで切ったのでしょう? 毛先が酷い! そこに座って!」


 髪を整えてくれるミアが怖い……僕はすっきりしたけど……部屋の中は大きな溜め息の合唱が凄い……。グレンも無口だ、さっきから溜め息しか聞こえない。


「何か分かった?」

 髪を整えてもらいながら聞いた、小さくエレンが


「……そうね……彼女は前の世界線では日本からの交換留学生よ。連れ去った男はよくオークション会場で顔を見るって聞いたわ、そっちは? 何か聞けた?」


「昨日、裏のオークションに東洋人が出るって連絡があったらしい。これ、もらったよ。彼はお気に入りの彼女がいるから行かないそうだ」

 と言ってあの封筒を見せる。


「それって……髪と引き換えにもらった物よね!」

 

 皆の視線が痛い! そこでリッキーが


「桜の黒髪が凄く高く売れたから驚いたよ。この世界線の奴ら金髪しかいないから珍しいんだよな。それでしばらくは食べていけたけど、どうにもならなくなって俺が取ってくるようになった。桜は働くって出かけるが、いつも連れて行かれそうになる。俺がもっと気を付けていれば」


 そう行って辛そうにしているリッキーに、エレンは


「あなたのせいじゃない、きっと狙われていたのよ。あなたがいない隙を見つけて連れて行った……許せないわ!」


「オークションは、明後日だ」

 それまで、無口だったグレンが話し始めた。


「オークションには、リッキーにも来てもらう。本人かどうか確認してもらいたい。ミア今回は君にも来て欲しい、何かあったら全員ここに連れて来てくれ」


「えっ! そんなに沢山移動させる事出来るのか! 俺は1人が限界だよ」


「ミアの力は強いんだ。何人も同時に移動させる事が出来る……何かあった時の保険の様な物だ」

 グレンはそう言って説明する。


 髪を整えてもらった。


「ようじ、もうこんな事しないでよ」


 ええぇーー……ミアの笑顔って……こんなに怖かったっけ? 僕はすっきりしているんだが……でも短くなっても女の子みたいだ。ミアが意識的にそうしているのがわかる。


「ようじって男だよな?」

 リッキーが不思議そうに聞く。


「そうだよ。二十一歳君より年上だよ」


「そうなんだ! 同じ位かと思った。日本人って童顔で若く見えるからなあ、桜が来た時小学生かと思ったよって言ったら怒られたっけ」

 全員が大きく頷く。


 僕は前髪が邪魔なので、ゴムでまとめる。それを見たリッキーが、おお! 侍ね! って喜んでた。侍を知ってるって事は、僕達の歴史はあまり変わっていないのかも知れない。



 今日はオークションの日だ、リッキーの髪を金髪に変える。

「わお! っすっげー金髪だ」


「長くは持たないから、気を付けてね」

と三人を送り出す。


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