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馬車が止まった気配に気づき目を開けた。

目覚めたアトリに気がついた馬車の御者が振り向いた。



「起きたか。まだテルーの町には着いてないが、最近魔獣が出るだろう?だから暗くなる前にここらで野営の準備をすることにした。急ぎだったらすまねえな」



外はまだ明るい。だがこの先には黒い森もあるから彼の判断は正しい。

大丈夫だと返した後、アトリも降りようとして、例の四人組の様子がおかしいことに気がついた。



「何だか連れの体調が良くねえらしいんだ。嬢ちゃんツバメ族だろう?よかったら診てあげてくれないか?」


無理にとは言えないが、とアトリの視線の先に気づいた御者が伺うようにこちらに尋ねる。



本物のツバメ族はその一生のほとんどを旅して過ごす。

だから様々な分野についての知識があり、長旅に必要な医学と薬学はそこら辺の村の医者よりも秀でていると言われている。


アトリも長く一人旅を続けているため基本的な医学・薬学はしっかりと叩き込み、だいたいの身体の異常には対処できる。



極力印象に残りたくないが、弱ったいる人は見過ごせない。

後方にいる四人組に近づいた。


「あの、」


声をかけると一斉に振り向く。その顔はまだ幼く、全員まだ成人もしていなさそうな若者だった。



「何か?」


イヌ族の少年が警戒心を露わにしながら返事をする。

ロバ族の少女漫画もニワトリ族の少年も敵意のような警戒心を発していた。


ただ1人、そんな3人に囲まれるように横たわるネコ族の少女は見るからに顔色が悪く呼吸も荒い。



「ちょっ」


一目で何が原因か分かったアトリは、壁のように守っている

3人をずいっと押しのけて、少女の手を取る。


「おい…「黙って!早く治療しないと」


引き離そうとするニワトリを無視し、ネコ族の少女の魔力の流れを確認する。



思った通り、首のあたりに大きな魔力溜まりができていた。



魔力溜まり自体は魔力のある種族なら珍しいものでもない。

普段は血液のように循環している魔力が、何らかの原因でうまく循環しなくなる場合がある。

そうなると身体に不調が現れるのだ。


だいたいは成長期の子どもに起こる症状で、魔力コントロールが未熟なのに魔力量が急激に増えるからだと言われている。


その症状は人によって違うが、軽いものなら倦怠感や頭痛ですむ。

ただこの子のように大きなものだと話は違ってくる。



(溜まった魔力が暴発しかけている…)



この大きさならおそらく喋ることも息することでさえ辛かったはずだ。相当我慢していたのだろう。

 


「よく頑張ったね」 



苦しさに歪む頬を撫でると熱があるのかとても熱かった。

アトリは左手に冷気を纏い熱のあるおでこに押し当てる。

そして右手はゆっくりと魔力の糸を作りその身体に流し込む。


多すぎてしまうと暴発させてしまう。かと言って少なすぎてもダメなので細く針のようなまっすぐな魔力を循環させて溜まっている部分を少しずつ削り取る。

削り取った魔力はアトリの身体に流れ込むようにし、その魔力を外へと放出する。



針穴に糸を通すような慎重な作業がしばらく続き、まだ塊は残っているが何とか自力で循環できる程度には流れていくようになった。


ネコ族の子も呼吸が楽になったようだ。

顔色が戻り、苦しそうな表情をしていたが今は落ち着き、すやすやと寝ている。


アトリは大きく息を吐き力を抜いた。

額に浮かんだ汗を拭い、治療するアトリを心配そうに眺めていた3人に声をかける。

 


「まだ様子を見なければ行けませんが、とりあえず大丈夫です。起きたら薬を飲ませれば明日には回復していると思います。…ただ、お話を聞かせてもらえませんか?」


「…話、ですか?」



先ほどよりも警戒心を解いてくれたようだ。

3人の顔に戸惑いはあるがアトリを拒絶するような気持ちはなさそうに見える。


サッと3人の魔力も確認する。

3人ともアトリのように虫族が変装してる訳でもなくそこそこ魔力を持っているらしい。


獣人族、なのにだ。


獣人族は魔力を使えない種族だ。無いわけでないが、ここまで魔力溜まりができるほどの魔力を持つ者は生まれないはずだ。


それなのに例外が4人もここにいる。考えうる理由は……



(…魔王)




「”紫の石”について知っていませんか?」


アトリの問いにサッと3人の顔色が変わる。

返事はそれで十分だった。















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