王の親衛隊騎士
「まったく、こんなみすぼらしいガキが森の聖女なのか?」
「さぁな」
さて、王の命を受けて親衛隊が神殿に押し入り森の乙女を差し出せと居丈高に迫ると、神官長は真っ青な顔で小汚い少女を差し出した。
親衛隊たちは一瞬怪訝に思ったが、王の命がすでに神殿に届いていてすでにみぐるみをはがされた後だと判断すると、少女の身体を強引に引きずるように麻袋に入れ、その足で森の奥へと向かったのだ。
この国を囲む森は、森の中を通る道以外を他国の人間が通ればたちまち迷ってしまう迷いの森であったが、この国の者であれば迷わず進むことができる。だからこそ、親衛隊たちも警戒心なく森を進み、そして麻袋に詰めたまま少女を放置すると足早にその場を後にしたのだ。
ふわりと、男たちが立ち去った後に妖精が現れ麻袋の口を開けると、中からやせこけた少女が出てきた。金色の髪に、青い瞳、白い肌をした少女だった。
もっとも、金色の髪はくすみ、白い肌も埃や土で汚れており、本来ならば愛らしいはずの頬はこけ、身につけている服は粗末なもので、なんともみすぼらしい状態だ。
そんな少女の周りを妖精が飛び回る。最初は一匹だけだった妖精は、あっという間に、二匹、三匹と集まり、今では少女の周辺になん十匹と集まっている。
いや、妖精だけではない。いつの間にか少女の周囲には、小動物やヒトによく似た精霊、ヒトの姿をしていない精霊など多くが集まっていた。
そんな彼らに取り囲まれ、少女は少し首をかしげた後に、ひとこと呟く。
「……えっと、ただいま?」
なんか、いらないって帰されちゃった。そう言った少女に、森は大きく震える。ざわざわと枝がざわめく。まるで嘆くように、悲しむように、そして、怒れるように。
ヒトならぬ精霊も、妖精もそんな森の様子にそっと息をひそめている。
「さぁ。ずっと石の部屋に閉じ込められていたから、よくわからない」
ザワリと、森がざわめき。そして音がやんだ。少女は一つ頷くと立ち上がる。妖精の一匹、子犬ほどの大きさの妖精が少女の腕を引いて森の奥へと誘う。
少女は妖精に素直についていくと、森の奥へと消えた。
――誓約は破られた。
どこからともなく威厳のある声が森の中に響く。その場にいる精霊や妖精が、そしていない者たちもが、その声に耳を澄ませる。
――もはやかの王国は我らの乙女が愛した国にあらず。
その声は悲しみに満ちていた。
その声は、怒りに満ちていた。
そして、その声を聞いた者たちは一斉に動き出す。誓約は破られた。森は動き出す。もはやかの王国を守る森はない。
乙女は返された。王国は誓約を破った。報復は必要ない。復讐は必要ない。ただ森はそこにあるのみ。
新しい誓約者が訪れるまで。
ただし、かの王国の者は立ち入れることなく、逃がすことなく。
――少女を森へと捨てた騎士たちが、城へと戻ることはなかった。
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