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砂漠の王と森の聖女  作者: れん
14/18

side 森の王国

森の王国サイド。

畳みかけるような不幸に見舞われていますが、短期間の間にというよりは7年間でじわじわと。という感じです。

 少し時間は戻り、リリアーナが森へと捨てられて少し経った頃の話である。


「どういうことだ!!」


 森の国の王、シリル・ドラクロワはいらだたし気に家臣たちに怒鳴りつけていた。その声に、その場にいた誰もが体を竦める。


「聖女が買ったという、宝石も、ドレスも、靴も! いったいどこへ消えたというのだ!!」


 ドン! と、机を拳で叩く音が周囲に響く。王の前で頭を下げている男はだらだらと汗をかきながら「申し訳ありません」と、埒のない言葉を繰り返す。


「しかも、しかもだ。歴代聖女のものが一切ないとは一体どういうことだ?! まさかあのガキが持って逃げたとでもいうのか?!」

「い、いえ、部下には身柄一つで運び出せと命じてありますし、実際にその姿を目撃したものがいます」


 ギロリと、王に睨まれた親衛隊長が答える。とはいえ、まさか麻袋に詰め込んで運んだとはさすがに報告できない。

 しかも、運んだはずの二人はまだ戻ってきていないのだ。いったいどこで油を売っているのかと、連れ戻すために派遣した数名もそのまま戻ってきていない。


「……洗い出せ。徹底的にだ! 聖女の世話をしていた侯爵たちも含めて、すべて洗い出せ!」

「ハッ!」

「お、お待ちください王よ。デュレ家は代々誠心誠意聖女に仕えている家でございます!」

「だからどうした」


 とりなしを願う家臣の言葉をそう冷たく切って捨てた王は、すぐさま行動に移すように重ねて厳命したのだった。



 調査の結果はすぐに出た。もとより怪しいと思っていたものがいたのだろう。だがそれは王家に保護されていた聖女の存在が二の足を踏ませる結果になっていた。もしこれを発表して聖女の身に何かあったら、と。

 だが聖女は森へと返された。ならばもう遠慮は必要ない。

 かろうじて残っていたらしい神殿の敬虔な聖女派の面々によって聖女を管理していたデュレ家の聖女への軟禁、虐待、そして聖女のための王宮予算の着服は白日の下に晒されたのだ。


「なん、だこれは」


 シリル・ドラクロワはもたらされた報告の内容に思わず声が震えた。報告書を握り締める手がぶるぶると震える。そこには、もう何代にもわたって聖女への不敬極まりない行為の数々が記されていた。

 ほんの七歳の少女が、ろくなマットもないベッドしかないような暗い部屋で、ほぼ残飯のような食事しか与えられず、何年も何年も、死ぬまで閉じ込められ続けていたのだ。まるで、生きてさえいればいいとでもいうように。

 たとえ森の誓約の証というものが眉唾物であったとしても、けっして人間に対してしていい行為ではないだろう。


「で、では私が毎月会っていた聖女は!」

「デュレ家の三女とのことです。聖女と入れ替わるために出生届を出さずに育てていたという話です」


 宰相がそう静かな声で答えた。その表情には静かだが憤りが感じられた。

 手入れの行き届いた金の髪に、きらびやかなドレスや宝石を身にまとい、王に媚びた視線を向けてくる醜悪な女は、聖女ではなかったのだ。


「っつ! デュレ家の財産はすべて没収しろ! そのうえで当主及び、三親等内の身内はすべて処刑だ」


 低い声で王は宰相に命じた。貴族の家が王命によって取り潰される場合は、一親等、つまり本人とその配偶者、および両親と子までが対象になる。

 さらに深刻な場合、例えば王族に対する危害などの場合は、祖父母、孫、兄弟やその配偶者および本人の配偶者の両親までが対象になるだろう。もっともこれはほとんど行われたことがない。王国の歴史でも、三百年前に王の側室と駆け落ちした男の家が、見せしめのために処分された時だけだった。

 今回は、さらに広い三親等。ここまでくると、本人のおよび配偶者の曽祖父、ひ孫、叔父や甥、そしてその配偶者までが対象となる。

 だがそれを厳しいのではないかと宰相が言うことはなかった。なぜならばデュレ家は王国の聖女を食い物にして来た家だ。それも何代にもわたってである。そのツケは、過去にさかのぼり、そして未来をもって払ってもらうしかないのだ。


「……森からはまだ帰らんのか」

「はい」


 王は報告書を机の上に置き、手を組むと静かに尋ねた。聖女を森へ帰したはずの騎士たちはまだ帰ってこない。探しに行った者たちも同様だ。

 王としてはいまだに聖女の存在については懐疑的だ。だから連れ戻せ、という命を出してはいない。――すでに、連れ戻せるような状況でないことを彼らはまだ知らない。


「陛下! 火急の知らせが!!」

「どうした!」


 ノックをする暇もないとばかりに部屋に飛び込んできた家臣に、王は椅子から立ち上がり、何があったか尋ねた。礼儀をどうこう言う状況にないことは、家臣の真っ青な顔を見れば明らかだった。


「魔物が!!」


 あえぐように家臣が叫ぶ。ギクリと、王と宰相は体をこわばらせた。


「森から魔物があふれています! その数、百以上!!」

「まさか」


 ありえない! と、王は叫んだ。森には魔物がいる。夜になると土の下から這い出てくる不気味な魔物だ。それと同時に、森の外側にも魔物はいる。鋭い牙や爪、角を持った二足歩行する小鬼だ。

 それらは家畜を襲い、農作物を襲い、人を襲う。大きさは人と同じサイズのものもいれば、人の背丈を大きく超えるものや、獣のような四つ足のものもいる。

 外の国ではそれら魔物による被害も大きな問題になっていた。だが、この国ではこの千年、一度も大きな問題になったことはなかった。もちろん、時折迷い出た魔物による被害の報告はあったが、その数は多くても十数。百など聞いたこともなかった。


「陛下!」


 思わず自失状態になっていた王だが、宰相の声に意識を取り戻し、矢継ぎ早に指示を出す。たとえ過去に起きていなかったとしても、今、この時に起きていることは間違いがない。

 後世の歴史家たちは語る。これ以降、水面下で、または表立って、王国は徐々に追い詰められていき、そしてやがて崩壊の時を迎えることになったと。


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― 新着の感想 ―
[一言] デュレ家は処刑ってぬるいです。それは人として扱っていると言うことですからね。あいつらは魔物に食わせましょう。裁判もいらない、人ではないのだから。
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