side 森の乙女4
今回は短めです
パスクアルと番になった。
申し込んだのは私からで、手合わせをするのかとワクワクしていたけれど、結局手合わせはしなかった。
「お前では俺に勝てん」
真っ向からそう決めつけられてむっとしたので、いつか絶対に倒してやろうと思う。
「パスクアル、様」
「言いなれないのなら様をつける必要はない」
最初に名を教えられたこともあったせいか、どうにもパスクアルに「様」をつけるのは苦手だった。だから本人がそう言ってくれるのはありがたかった。
「お前、番になったら何をするのかわかっているのか?」
「わかってる。春になると交尾をして、夏になると雌は子を産む」
精霊や妖精に雌雄はないが、森の動物にはある。それくらいの知識はある。と、リリアーナがパスクアルを少しだけ睨みつけると、なんだか生ぬるい視線を向けられてしまった。
「いや、人間は季節はあまり関係ないんだが」
「……交尾する?」
そうか、獣と人は違うのか。と、リリアーナは頷いてパスクアルを見上げた。パスクアルは左手で顔を覆ってしまった。
「ベニータ! 貴様リリアーナの情操教育はどうなってるんだ!」
パスクアルが部屋の外に向かって叫ぶと、ベニータが飛び込んでいた。
「やったよ! アタイたちはちゃんとやったよ! なんなら姐さんたちも頑張ったよ! でもどうやっても獣思考が消えないんだよ!!」
パスクアルの叫びに負けじとベニータが叫ぶ。そんな二人の言い争いをリリアーナは不思議そうに見ている。
「もう、いいじゃないか、パスクアル様。いっそパスクアル様の好みに育てればいいじゃないか」
そう言って首を振るベニータに、パスクアルは頭を抱える。
言いたいことだけ言ってさっさと部屋を出て行ったベニータは、去り際に「パスクアル様にかわいがってもらいな!」と、リリアーナに発破をかけていくのを忘れなかった。
「うん、頑張る」
ベニータにそう言うリリアーナはほぼ間違いなく何を頑張るかわかっていないだろう。
「パスクアル、私頑張って可愛がられて、いっぱい子を産むね!」
そうじゃない。と、はっきり言えない意外な繊細さを持っていた男は、その日から同じ寝室になったというのに、ただ同衾するだけで済ませていたという。