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004 月に一度の稼ぎどき

2020.05.22 一部分を少し書き変えました。

2020.10.24 改稿しました。

ウォーレン暦8年 陽春の月28日 日中




 ギルドの依頼受付が始まる時間帯に掲示板広場に向かうと、見慣れた集団が集まっているのが見えた。


 すらりとした長身の、豪奢でいて動きやすい服装の金髪の男性。


 この町の中ではいちばん大ぶりの魔法剣をひっさげた筋肉質の茶髪の青年。


 これまた町でいちばん強い盾を持って拳にナックルダスターを着けたごつい黒髪の男性。


 そしてふんわりした装飾の黒いワンピースと三角帽子に金と青のイヤリングが特徴的な金髪の少女。


 この町いちばんの薬草商と、その護衛たちだ。


 私がそっちに歩いていくと、真っ先に私に気付いたのは魔法士の少女シェリーだった。青い目がじろりと私を見る。


「あーら、エスターちゃんは今日も参加なの?」


「クラウドさんが誘ってくださったので」


「もー、実力主義なのかお人好しなのかわかりませんわぁ、クラウド様ぁ」


 シェリーがすりよった長身の薬草商クラウドさんは、私が小さい頃からなにかとお世話になっているひとだ。


 仕事に困っていた私をこうやって護衛の仲間に加えてくれたりして、それが私がギルドに入ったきっかけだったりする。


 クラウドさんは金色の目を細めて飄々と笑う。


「実力主義だとも。エスターの魔力は誰よりも大きいからね」


「えぇー」


「エスターにいちばん世話になるのはシェリーだろ。そう拗ねるなよ」


「だからこそ突っかからずにいられないんだよ。あんたほんと細かいこと苦手だよな」


 笑ったのは盾役兼闘士のヴィックさん。その肩を、剣士のスレイドくんが軽く叩いた。


 私はそれを曖昧に笑って流す。これでも戦闘に参加できないのは私もちょっと気にしているのだ。


 私たちが話している間にクラウドさんは手際よく今日の依頼を成立させてきてくれる。私たちを町の外へ促した。


 これから、町の近くにある森の奥の貴重な薬草を採りに行くのだ。


「……じゃあエスター、手ぇ出して」


「うん」


 シェリーに言われるまま手を出すと、シェリーはそこに手を重ねて小さく詠唱を呟いた。


【魔力共有】パーティシピイツ・マジケ


 ふわっと体が軽くなるような感覚。逆にシェリーは体が重く感じるとか。これで私の魔力がシェリーにも使える状態になった。私の主な役目といったらこのくらいだ。


 森まで続く草原は、魔物もめったに出ない。出てもスレイドくんの剣でなら魔力もたいして込めずに一閃できる程度のものだ。


 ひょいひょいとたまに出る魔物を倒していくスレイドくんはいつ見てもすごいと思う。だてに若くして町最強の剣士と言われていない。


 ちなみにシェリーも町いちばんの魔法士だし、ヴィックさんも闘士としてかなり強い人だ。こんな中に私が混ざっているのが場違いに思えて仕方ない。


 草原を抜け、森に入ると状況はだいぶ変わってくる。植物の生命エネルギーが多いせいか、魔物もそれなりの魔力を持ち始めるのだ。


「そらよっと!」


 茂みから飛び出してきた魔物をヴィックさんが盾で弾いて、スレイドくんが斬る。連携プレーも鮮やかだ。


 盾で弾かれた魔物をシェリーが【火球】で狙い撃ちするパターンもある。


 森の奥に進むにつれて、魔物が強くなっていく。そこでまた少しだけ私の出番だ。


「エスター! こいつは!」


「スレイドくんの100分の1!」


「だったら【火炎剣】(グラドゥス・フラミエ)!」


 炎をまとった魔法剣が魔物を切り裂く。魔物は燃え上がってそのまま塵になった。


 今私がやったのは、魔力量の比較。魔力を持つ生き物の特徴として、自分より魔力が少ない相手の魔力量を把握できるというのがあって、それだけは私もできる。


 しかも私の比較は他の人より精度がいい、らしい。たぶん私より魔力が多い相手なんてそうそういないから、私の判別眼は知らず知らずのうちに鍛えられていたんだろう。


 そんなこんなで森のいちばん奥の薬草が群生しているところにたどり着く。


 ここは神聖な空気が漂っているからそうそう魔物は寄ってこないけど、一応見張りをしつつクラウドさんの採集を手伝ったりした。


 帰りも同じ要領で、町に帰ってきたのは昼も遅くなった夕方近い頃合いだった。


 掲示板広場で一息ついて、シェリーが疲れた様子で私に手を差し出す。私はそっとそこに手を重ねた。


【魔力分離】(カウジム・マジケ)


 シェリーの詠唱でずんっと体が重くなる。魔力の共有が終わったのだ。シェリーはせいせいしたように手をぱしぱしと払っている。


「報酬の話ですが、いつものように分配するのでよろしいかな?」


 クラウドさんの言葉に、4人で目を見合わせ、頷きあう。この依頼は一件につき500ユール。手数料25ユールを引くと475ユールが私達護衛の手元に入る。


 戦った3人は多めの136ユールずつ、戦っていない私は少なめの67ユールをもらうのが、いつものことだ。


 馴染みのクラウドさんが依頼主だから他の人の半分くらいもらえているけど、他のパーティに混ぜてもらうときは他の人の3分の1くらいの報酬にされることがほとんどだ。


 というか、パーティに混ぜてもらえることもそもそも少ない。


 ……まぁ、実際に戦っているわけじゃないから、仕方ないんだと思う。私自身も、ずっと後ろで見ているだけなのは心苦しいところがあって、あまり強く交渉に出られない。


 ギルドの窓口で報酬分配申請を終えると、私はみんなと別れてアレンさんを探しに歩き始めた。


 アレンさんの魔術道具で今の状況が打開できるのかは怪しいけど……でも、魔法が使えるようになるのはけっこう楽しみ、かな。




エスター財布:29ユール63セッタ

エスター口座:372ユール

       →439ユール

お読みいただきありがとうございます。

次話は4/26更新予定です。

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