悲劇は上空1万2000メートルにて
少し眠っていたようだ。俺は自分の席でもぞもぞっと覚醒した。
現在太平洋の真ん中辺りだろうか。飛行機は順調にロサンゼルスに向かっている。
隣の席を見てみると田鍋先輩がいない。俺は自分の状況に気付き、気を引き締めた。
「なんでこんな時に眠れるのかなぁ。」
傍らにあるコーヒーを飲み、俺はボーっと空を見つめだした。
「そういえばお腹がすいたなぁ。」
俺は空腹を感じ少しイライラしだした。
「失礼します。」
フライトアテンダントがタイミングよく機内食を持ってきた。
ネームプレートには「東」と書いてある。
俺は「ひがし」と読むのか「あずま」と読むのか少し迷った。
・・・たぶん「あずま」だったはずだ・・。
運ばれてきた機内食を食べながら俺は昨日のことを思い出した。
昨日、飛行機に乗る前の日に付き合っていた弘子に振られたのだ。
「あなたの我儘にはもうついていけない。」
・・そんな面白くない理由で一方的に振られてしまった。じわっと涙が出てきた。
正直、俺は自分には悪いところはないと思っている。
俺は未練たらしくも涙を流しながら、肉を噛み始めた。おいしくない・・。
機内食は俺の口には未だに合わないようだ。
「眠たい・・。」
俺はそう呟き、目をこすり始めた。失恋のあまり、昨日は一睡もしていなかった。
「そういえば先輩はどこに行ったのだろうか。」
俺は20分近く戻ってきていない田鍋先輩の事を気にしだした。もっとも俺はついさっきまで眠っていたので、先輩はそれ以上の時間戻ってきていない可能性が高い。
そのことを思い出し俺はますます心配になった。
しかしそのことに反して俺はまたうつらうつらしだした。やはり眠たい・・・・。
眠りかけた俺を覚醒させたのはドタドタ機内を走る音であった。俺は思わず席を立ち機内を歩き「東」と書かれたネームプレートのフライトアテンダントに声をかけた。
「何があったんだ!」
俺は真っ青な顔をした東を見て、ただ事ではない、と感じた。
「最後尾のトイレで・・人が・・・っ・・死んでいるんです・・。」
俺は慌てて最後尾のトイレへと走った。最後尾に向かいながらある予感がしていたのだ。
まさか・・先輩が?
その時、ガタンって音と供に機内が揺れた。どうやら飛行機は乱気流にでも入ったらしい。
乗客から軽く悲鳴が上がったが、俺は最後尾に早歩きで向かった。
最後尾のトイレにはフライトアテンダントが集まっていた。
フライトアテンダントの波をかき分け、死体の元へ駆け寄った。
「田鍋さん!」
案の定、それは田鍋先輩だった。首には絞めつけられた跡がある。・・絞殺だ。
少し吐き気がし、素早く洗面台に駆け寄った。
まさか、先輩が死ぬなんて、誰が、なんのために。
俺は初めて見た死体に吐き気を感じながらも沸々と怒りを感じ始めた。
俺は普段、好んで読んでいる推理小説を思い出し、田鍋先輩の死体を観察しだした。
首には幅約5ミリほどの線上の痕跡。
普段かぶっている帽子が見当たらない。手袋が片方脱げかけている。
・・凶器はビニール紐かなんかだろうか。俺はトイレの床を調べ始めた。
しかし床には何も落ちておらず代わりにトイレの隅に指輪が落ちていることに気付いた。
「これは・・・。」
・・どこかで見たことがあるような気がした。
うーん、考えていたその時、機内が激しく揺れた。
フライトアテンダントが吹っ飛び、俺の背中に当たった。
ただ事じゃない雰囲気を感じ、俺は慌ててトイレから出た。
飛行機はいまだに激しく揺れている、乗客の悲鳴に混じり、俺はフライトアテンダント全員がこっちを見て、顔面蒼白であることを叫んでいるのに気付いた。
「副機長っ。早く戻ってください!」
ミステリーと思いきや、ですね。
矛盾点は探さないでください(笑)。