異世界に召喚されたのでこのポッチャリボディを何とかしたかった。
異世界に召喚されたら絶対にやってみたいことといえばやっぱり『世界を救ってみたい』というのが王道だよね。勇者として召喚されて人々を救っていく物語…とかさ?
うん、まぁ…正直俺もそんな夢物語のような展開を望んでいたことがあった。だって、その憧れ話は『現実にならなければ』誰でも憧れることだろう?
ほら…現実に異世界に招かれた挙げ句に見知らぬ人から「世界を救ってください」だなんて言われたって…本当に救えると思えるのか?
少なくとも俺には世界を救うなんていう大きなことなんて無理だ。とくにこの才能のない社会の底辺に位置していた脂肪の塊ともいえるポッチャリボディをもつ人間に世界を救えということが自体が間違いだと思ってんだよね。
正直、そんなに世界を救ってほしいのなら俺のような底辺の存在ではなく同刻に召喚された才能のある多くの愚者に手を貸してもらえばいいじゃないか。
まぁ、既に逃げ出したんだけど。
因みに俺があんなところから逃げ出した理由は魔物のような危険生物とは戦いたくないということ以前に…『この世界の飯が不味すぎる』つーのが原因ね。
ついでに飯が不味すぎて全体の士気が下がってしまって、自分の命すら危ういレベルになりかけていたから隙を見て城を抜け出した…んだけどまぁ、俺ってばお金を持ってないことを頭に入れてなくて、金を稼ぐにも俺の身体はかなりのポッチャリなわけで…冒険者登録しようには信用のできる体型ではなく拒否、店で働こうにもやはり体型問題が…。
つまり、肥満過ぎて仕事ができないのであれば痩せればいいじゃないか…と、思い至ったのだ。唐突だろう?
───でもさぁ…?一度、肥満を体験した身体がそう簡単に痩せてくれると思うか…?
否、痩せてくれるはずがなかった。
体重120㎏もあっただろう身体は…ダイエットをしようと決断してからむしろ肥大したようにも感じるボディにまで進化してたんだよ…。これで肥る原因が運動不足やら食事の取りすぎが原因だったのなら…納得することができたのかもしれない。でも…飯マズ文化な世界で暴食なんてしようと思うか?思わないだろう?動かなきゃ死ぬようは土地で何もせず留まっていると思うか…?動くに決まってんだろバァァァカ!!
んん…っ、すまない取り乱した。
つまり、あれだ…。飯が吐きそうなくらい不味くて、生きるために過剰な運動をしているはずなのに…ポッチャリが改善しない謎の現象におかれているわけだ。
「まぁ、たぶん体質とこの世界の食物のカロリーの問題だろうね。」
一応、逃げ出した先で死にかけた自分を保護してくれた<賢者>と呼ばれる森の狩人さんに聞いてみた。
「私も純潔な日本人だからか下手なものを食おうものなら数日もしないうちに丸くなるからね」
えっ、ちょっとまって…180センチも身長があって美形で白人みたいに真っ白い美肌なのに日本人?弓装備といい森住まいといい…髪を黒く染めたエルフの間違いじゃないの?
この痩せたことのないブサイク万年ポッチャリボディと同じ日本人だって?
「神は、不公平だ…っ!!」
「いや。突然何を言ってるのかな?」
うるさい、リア充であろうイケメン野郎に俺の気持ちがわかるわけねぇだろ!!くそぅ、天然ぶって頬をかきながら困り顔をしやがって!!これだから女顔だって───
「ンン…ッ、失礼。おい、この俺がいつ女だって?怒らねぇから答えろよ。な?」
『な?』じゃないよぉおおおお!?
貴方が俺の鼻先に向けているその拳はなんですかね!?にこやかに笑みを浮かべているけどその拳の風圧で俺の後ろにあった木が一本倒れたんですけども!
「いやいやいやいや、白石さんは十分に男性だとわかりますですよ、はいっ!」
「そうか…なら、いい」
こ、怖…ッ。今後この人の女顔は触れないでおこう。
きっと、普段は温厚な人でも怒ると怖いってこのことだな。こういう人ほど怒った時に人を殺すんだ…たぶん。
「では、話の続きをしましょうか。雄之さん、あなたがこの世界に来てから既に半年くらい経っているそうですね。この森に入ってからの様子を見ていたのですが…運動量的には特に問題はなく、太る要因は見当たらない。しかも、年齢的には一番代謝が盛んな時期なはずですから早々太ることなんてないはずなんですよね…」
───うん、今さ…俺が太ってる話題は別にいいんだけど。スッゴい危機逃せないワードが聞き取れたんですけど。
「ははっ、やだなぁ。雄之さん…見張ってた訳じゃないですよ?ただ、敵か味方かわからない侵入者を助けるわけないじゃないですかぁ。第一、貴方を助けたのは白兎がお願いしてきたからですし…同じ日本人としてのよしみで助けた訳じゃないですよ?」
「つまり…白兎が何も言わなかったら…」
「こんな穀潰しなんて助けず、飢え死にさせて畑の肥料にしてましたねっ!」
良い笑顔で毒を吐きながらサムズアップする森の賢者さん。俺、ろくでもないやつに助けられたのかもしれない…と今更思ったわ。チクショウ、俺だってわかってるよ役立たずだってことはさぁ!!だけどそこまではっきり言わなくてもよかったじゃないか!
「いや、だって自分の生活だってキツいし。勇者とはいえデブを弟子にしたくないし、てかラノベとかいう小説の世界じゃねぇんだから浮かれてる暇なく自分の状況くらい自分では調べろよクズ。だから本当に必要なこともわからないまま飼い殺しされんだよバーカ。あっ、でもテメェはそこらの能無しよりマシか。事情を知らないとはいえ自分でその国を切り捨てて逃げ出す度胸があったんだもんな」
もうやだこの人…裏表反転しすぎて怖い。
この人が喋る度に言葉の刃が心にグサグサ刺さるんだけど。そのうち立ち直れなくなりそう…。
「あっ、ごめんなさい。つい、本音が…」
「お願いですから本音は心の中で鍵をかけて厳重にしまっておいてほしかったです」
「黙れ、続き話しますよ?これは何年も前の研究の結果なのですが『この世界の食物のカロリーは地球の3倍以上ものカロリーがある』。この世界の人たちは常に魔法とかスキルとか特殊能力とか使っていますからソレで標準体型をキープしていると思われます。しかし、外界から訪れた私たちは…その異様なカロリー消費が出来ないみたいなんですよ」
「え…っ、魔法なら使えるだろ?」
この世界に来てから無理矢理契約させられた精霊たちの力を借りて火種にしかならないような炎を指先に灯してアピールしてみるが…あっ、無視された。
「あなたが使っているのは自然エネルギーを元にしたものです。五大元素って知ってますか?精霊たちは空気中に漂うソレを集め、小さくも使えるようにしてくれます。この世界では霊術と呼ばれていますが此処の原住民たちは使えませんし、必要とする力を魔法と同じだと思い込んでいます。一方、この世界での魔法やスキルというのは───どんな原理かは知りませんが私たちが<カロリー>と名付けたエネルギーを消費するそうです。だから、飯マズでも強力な力を得るためには食べるしかないんです。と、言っても外界から呼び出された人々でないと食料が絶望的に不味いとわかりませんがね」
つまりこの世界では『カロリー=マジックポイント』で自分たちはこの世界の魔法が使えないかわりに霊術というものがあると…。しかも、霊術と魔法が別物だと知らないから無駄にカロリー接種を…ん、ちょっと待て
「な、なぁ…俺と一緒に召喚されて残った奴らは…」
「逃げたか死んだか、原理に気づいたか。もしくは突然変異かなにかして此処のカロリー消費法を会得してない限りデブってます。少なくとも私と一緒に召喚された同期の人はメタボリックシンドロームからの心筋梗塞で死にましたね」
ただでさえ腹回りだけでもメタボの領域に片足突っ込んでしまってるから危機感あるんだから!急に現実を叩きつけるような発言はやめて!?せめてファンタジー的に言葉を求めたい!
キリが悪くてごめんなさい。