魔物と野獣 増えぬか増えるか
モンスターを倒した際に発生する結晶は魔法的エネルギー――魔力――を有しており、その使用方法は多様性に満ちている。魔力を注ぐことで扱える道具に結晶のエネルギーを抽出する装置を組み込み電池のように扱ったり、砕くことで一時的な魔法・魔術のブーストとして用いるなどが主。なお砕いて一時的なブーストを掛けられるのなら体内に飲み込み吸収することで永続的な能力上昇が可能ではないかと考えたが、結果としてまず飲み込めないという課題を解決出来なかったこと、飲み込んでもどう吸収するかもわからなかったので体内に滞留して内臓不全を起こして死ぬ、エネルギーを抽出し終えた結晶はただの石塊になるから余剰エネルギー分を使用した時点で意味ないのでは? などなどの理由から結晶の魔法的エネルギーを己の魔力とする試みは失敗することとなった。
結晶は文化圏によって扱いが異なるので、結晶およびモンスターに関する情報は一部正しいとしながらそれは一側面だけのものであることや、間違った情報も多く存在している。モンスターの発生起源も未だ人間たちの中では不明であり、憶測が飛び交っている。
「フォレストウルフは毛皮、肉、骨、牙、爪と捨てるところが殆どねぇ。ただ奴らは群れで活動するし、嬢ちゃんも身を以て知ってると思うがでかくて重い。たった一人で狩猟することは出来てもその戦利品を十全に持ち帰ることは難しいんだ。そういう意味じゃ、今回の件はオレにとっても助かり事だったんだよ」
「た、確かに……これを全部……持って、くのは……大変ですね……」
ハンターと名乗った男性は、血抜きをし、内臓を処理し、手早く狼だったものを肉と骨と皮に捌いた。体験実習で鶏の首を折った感触とネズミの解剖実験をした時を想起したけど、アレに比べると遥かに精神的な疲労を感じなかったのは、さっき私が血まみれになったのと目の前で狼の目ん玉が弾けたらしい現象を目にしたからだろうか。それともあのゴブリンに対して即座に応戦できたように、普通とはちょっと違うことに関して私の感性が麻痺している?
とかなんとかで意識を逸してたけど、やっぱり口に出そう。
「重い……ッッッ!」
「ははは悪いな、さすがにオレも両手を自由にさせとかねぇと獣やモンスターに襲われた際に対応できんだ、嬢ちゃんには悪いが頑張って運んでくれ」
「大丈夫です……実質狼一頭抱えてる気分ですけど、対価ですから……んぅしょぉ!」
今の私の格好を客観的に説明すると、頭までキレイに両開き捌かれた狼の毛皮を頭から被っており、肉骨牙爪が一杯に詰められた革袋を背負っている。獣の毛皮を被って狩りをする猟師みたいだな?
ちなみに狼ほぼ一頭分の質量をおんぶしてるもんだからめっっっっちゃ重い。
「そういえば」
「ん?」
そう、そういえば一つ疑問があったのを今まで忘れていた。
「さっき子供サイズぐらいのゴブリン?みたいなのが死んだ時、ふぅアレは砂みたいに消えちゃって結晶だけ残っちゃったんですけど、よっと……どうしてこの狼はそのまま残ってるんですか?」
このよくわからない状況で、2回の生物の死を目の当たりにしてきたわけだけど、そのどちらもが共通していない。なにか理由でもあるのだろうか?
そんな私の疑問に、彼は「何いってんコイツ?」みたいな表情をして、さも当然という風に口にする。
「おいおい何を当たり前のこと聞いてんだぁ? ガブリンはモンスター、フォレストウルフは獣なんだからに決まってんだろ? ますます訳のわからん嬢ちゃんだぜ、まさか記憶でも無くしたからあんな森にでもいたのかぁ?」
そりゃこの世界の常識なんて知りませんのでねぇ! 実質記憶喪失と変わりませんわ!
「あ、あはは……んふぅあながち間違ってもいないかも……。ちなみにぃっそのぉモンスターと獣の差って……あるんですか?」
とは流石に口に出せないので苦笑いを返しながら質問していくしかなかった。
「難しいことまでは知らねぇけど、モンスターは繁殖せず、獣は繁殖するとかなんとか言ってたな。オレは獣を狩猟するだけだから、モンスターについては詳しくねぇんだ、ただモンスターが死んだ時に残す結晶は、ギルドに持ってきゃ買い取ってくれるって話だ」
また情報が増えたんですがぁ……んーでもギルドかぁ、ゲームだとありがちなものだから、ある程度の予想はできそう。ひとまずわかったのは、敵性体として相対しそうなのはモンスターと獣なわけだけど、まぁ獣に関しては現実の野生動物の括りにすればいいか。逆にモンスターかどうかを判別するのが難しそうだけど……最悪まぁ……死ねば判るみたいだから……うん……
「さぁ、森を抜けるぜ。ここまでくりゃ街は目と鼻の先だ」
「おお……」
いろいろと話しているうちに森を抜けて。
木の上で見た石壁は、もうすぐというところにそびえ立っていた。




