そいつの名はハンター
迷彩色の毛皮で狩りを行うのがフォレストウルフ。オス一頭をリーダーにして群れを形成しており、メスのハーレムと子供が群れの内訳となっている。狩りを行うのはメスであり、オスとメス2頭の群れでなければメスたちが徒党を組んで獲物を追い詰める。オスが出張るのは群れ同士が衝突した時の縄張り争いや、群れの危機を齎す可能性のある敵と戦うときだけ。大きな群れであればあるほどオスはそれだけ強いという象徴でもある。森のなかでは高いカモフラ率を保っているため、それを利用とした三次元的な狩りを得意としている。
「獲物を前に舌舐めずりをしたヤツから死ぬってぇのが自然なんだよ」
「Gyn!?」
え、と呟く暇もなく、首元に迫っていた狼の牙は喰い込みしかし、私の首を喰い破ることは無かった。
「っ――」
眼前で弾けた赤に為す術もなく顔が染まる。
両肩が加わっていた重さは消えて、代わりに全身に重い衝撃が奔る。
「っっ――!?」
「「Gy!? GyanGyan!!」」
遠ざかる2重の鳴き声。
水にしては生温く質量のある液体が目に入っつぁ!?
あと多分傍にいた2頭は逃げたのか遠ざかっていき、明らかな2足歩行特有の足音をした誰かはこちらへと近づいてくる。
「おうおう、無事かぁ嬢ちゃん?」
「めぇ……がっぁ!」
「おうおう無事みたいだな。ちょっち待ってろ今のしかかってんの退けてやる」
低い声の男性。わざわざ無事を問うてくるってことは、私に乗っかってる狼はこの人がやったってこと? あ、軽くなった。
「ほれ、水と布だ。これで顔拭きな」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それで、どうしてこの森に、着の身着のままな格好でうろついてたんだ? ここはまだ森の入り口近くとはいえ、モンスターも獣も出てくる。自殺でも考えてたんならオレは嬢ちゃんの邪魔をしたことになるが?」
ひとまず布で顔を拭い、木筒に入った水で目を洗ったおかげで多少はマシになった。髪や他に付着した液体――順当に血液――はすでに乾いてしまって拭い取るのは諦めた。
「いえ違います。助けていただいてありがとうございます……。ただ気づいたらここにいたんです……」
「なんだそら……。ま経緯はともあれ嬢ちゃんのおかげでフォレストウルフを狩れたことは確かだからな、嬢ちゃんは命が助かり、オレは大物が狩れた。お互い良いことづくめだったわけだ」
「助けてもらった身で聞くのもなんですけど、どうしてここに?」
「そりゃ、それがオレの職務だからな」
「職務?」
「おう、オレはハンターだ。森の獣を定期的に狩って生計を立ててる」
そう言って彼が背にかけていたものを私に見せた。
「銃……」
それはライフル銃と呼ばれるものだ。確かにこれなら狼を一撃で撃ち殺したというのも頷ける。けど、銃声というものは聞こえなかったのはなんでだろう?
「オレの相棒さ。さてと、戦果が痛む前に捌いちまうか。今回はキレイに頭ぶち抜けた。なぁ嬢ちゃん、アンタここに残りたくないだろう?」
なんて私の疑問は置いといて、横たわった狼の亡骸をハンターと名乗った彼は腰に下げていたナイフで捌き始める。
「近くに石壁があるのは確認してたんで、そこを目指してたんですけど」
「それなら丁度いい。……嬢ちゃん、荷物持ちをしないか? 報酬は出すぜ?」




