Hello 【Saga Frontier】
2019/06/26 一部文章の改稿を行いました。
『Saga』は調べればすぐに判ることですが叙事詩だとか物語だとかを指す単語です。私のこの作品における使い方は「歴史」というものです。使い方としては間違っているでしょう。ただそれでも、歴史の中には物語がある、一人ひとりの物語が積み重なったものが歴史になるのなら、歴史とは世界が紡いだ物語だと思うのです。故に、歴史で扱う感じにしました。
『Frontier』は普通に最先端とかそういう意味で使ってるので、【Saga Frontier】は意訳して【歴史の最前線】=プレイヤー自身が【Saga Frontier】というゲームの世界の歴史を作っていく、といった風な意味の込められたタイトルとなっています。
……人によっては某大作ゲームを想起させるタイトルになったことは、実のところ名付けてから気づいてめっちゃ焦ってタイトル変えることを未だに検討している一因だったりします……。ほんと、期待させた人にはごめんなさい。
ゲームのためとはいえ、朝から寝るっていうのはなんか背徳的な心境だった。
充電を終えたチョーカー型VR機器を手に取り、本当に大丈夫なのかちょっと不安になりつつも、首に装着していく。恐るべきは首に掛けるのではなく、どんな太さや形状でも対応するために先端以外は帯状のしなやかな材質で巻くように装着するということだった。じゃあ逆になんで先端以外は、と評したかといえば起動するためのタッチパネルと充電確認用のLED、巻いた帯の留め具を仕込むために非透過性樹脂になっていたからだった。
「うひゃぁ」
ひんやりとした感触とぺたりと皮膚に吸着する感触にちょっと変な声が漏れつつも、取扱説明書にある装着方法通り隙間無く巻けたことを確認。
「ふーっ」
いよいよ始めるとなって不安と興奮が気を急かす。
数回の深呼吸をもって平静を戻し――
パネルへと触れた。
暗転 / 起動確認
暗転 / 接続確認
暗転 / 状態確認
完了《Complete》
『Hello 【Saga Frontier】――!!』
「うわぁびっくりした!?」
気づけば真っ白な空間にいた私は、突然耳元で叫ばれたような声に体を仰け反らせた。
眼前に迫って現れたのは、英字で『Hello 【Saga Frontier】』と表示されたスクリーン。さっきの声は、この文字を読んだものってこと?
『はい、その通りでございます実験台』
「読んでる文字に対して書いてある文字は正直だなぁ! なんとなく危惧してたことだけど、やっぱり被験者ってことじゃないか」
そう考えると、このVRのシステム周りに関しても安全上の保証が出来てないんじゃ……
『それについては少々誤解があります。ことVRというシステムに関して一切の問題はありません。多くのぎs有志によって安全無事故は確立されたからこそ、今この世界は存在しているのです。実験台と称したのは単にこの都市に住むものであれば全員が当てはまる称号であるため、暫定的な名称として用いているに過ぎません』
一部不穏な単語を発しかけていた気がするけど、そんなの一々気にしていたら精神が保たないので無視です無視。とはいえなるほど、自宅のベッドで横になっていた筈の私が気付けば白い空間に立っているというのは催眠か何かで運ばれてドッキリを仕掛けられている以外にはありえない。そもそもやる理由が見当たらないし。あと今更こういうのもアレなんだけど、私の 体が なーい。
『おっと、体の構成を忘れておりました。ふむ……ふむふむ……むべ。PDA情報を基に仮想肉体を構成します。ちょっとグロいので天井のシミでも数えてお待ち下さい』
「シミひとつ無い天井だぁ、あ増えた」
真っ白だった空間に小さな黒点が発生したかと思えば、それは一気に広がって一転真暗闇……いや違う、爛々と瞬く光が……
『今回はおまけとして【Saga Frontier】内における本日の夜の星空をご覧になさってください。先取りですよ?』
「うわ、あれ全部星なのプラネタリウムとは比べ物にならないねぇねぇあの月みた『肉体の構成が完了しました』まぶしッ!?」
星空の中の星々とは毛色の違う、月のようなものを見つけたから何のか聞こうとしたら、いきなり視界が真っ白になって目に刺さるかのような痛みが走った。ひどい。
「あれ?」
そういえば咄嗟にやったから意識してなかったけど、よくよく考えてみると手がある。それに、いつも見慣れている指にしては細いというか柔っこい感じ。
『【Saga Frontier】内では現実世界での肉体性能よりも精神面での強度、反応速度を必要としています。そのため、肉体動作の慣れよりも精神的に違和のない肉体を構成させていただきました。こちら姿見です、如何でしょうか?』
「お…………ぉぉ…………」
姿見に映り結んだ像は、理想であった。
黒い髪、黒い瞳、こじんまりとした少女。
白銀でも、蒼空でも、大柄でもない。何度も何度も欲しいと思い、手に入れられなかった姿が、姿見の中にはあった。
というか私だった。
『肉体的な変更は難しいですが、髪や眼ならば多少の変更は可能ですが?』
「いらないいらないらない! え、うっそ、マジ!? これ私!?」
『【Saga Frontier】内だけのアバターですが、その通りです。活性化を確認、お気に召して頂けたようで』
「いやうん、これは最高。ほんっっっっっとに最高」
意識しなくても頬が緩んでしまうのが自覚できる。鏡の中少女もニヤけている。これがVRか……VR最高!!
『ごほん。お喜び頂けたところで、そろそろ本題に入らせていただきますが、よろしいですか?』
「え、ああうん、大丈夫大丈夫。今ならなんでも聞いてあげられそう。それで?」
『ん? そうですか。それではこのゲームにおける主旨について説明させていただきます。まずこのゲームのジャンルはVRMMOと大雑把に表記されましたが、若干訂正をさせていただきます。このゲームは【Saga Frontier】という世界の中で実験台がリアルタイムに行動し、歴史を紡いでいくのを目的としたゲームになります。まさに【Saga Frontier】というわけですね。歴は全ての実験台のアバターが死亡するまで。死亡と物騒に伝えましたが、現実で実際に死ぬわけではありません非効率ですから。最前線を張れなくなった実験台は歴から弾かれ、次の歴に参加することになるというだけです。すぐに参加されるもよし、後日改めて参加するのもよし、です。基本的に何をするにも可能ではありますが、無論世界には世界のルールがありますので、それを破ればペナルティが発生しますので、お気をつけください。また――』
「ストップ! 待って! 情報の氾濫が起きてる!」
『しかしなんでも聞けると先ほど申していましたが?』
「なんでもってそっちの意味だったのね!? えーっと、あーっと、とりあえず要約した情報を確認してもいい?」
『どうぞ』
「この【Saga Frontier】というゲームは仮想世界で私が私のアバター実際に動かして行動し、死んだ時点でゲームオーバーになって次の仮想世界でまた行動する。コンセプト的には、自分の、皆の歴史を作っていくゲームだってことね?」
『概ねその通りです。ただし条件として、故意的に現実での情報を他実験台に伝えることを禁止しています。また私怨対策として歴を跨いでのアバター達の行動は記憶に継承できますが、アバターネームの継承は出来ないように設定されています。円滑な歴史を紡ぐための措置ですのでご了承ください』
記憶の取捨選択をどうやってるかって原理は気になるけど、わかると絶対後悔するやつだと本能が叫んだので呑み込みつつ。
「最初の場所はどうするの? 全員一緒の場所なんてことにしたら混乱が起きること必至でしょう?」
『良い質問ですね。ソレに関しては、実験台の各方は一定以上の規模を形成している集落周辺にランダムで配置させていただきます』
なるほど、それなら同じ集落に配置されても多様性は生まれるのか。例え2回目の初期位置だとしても周囲のプレイヤーまでもがそうとは限らないのだから、ある程度情報のアドバンテージはあっても前回同様の結果を齎すことは早々ないだろう。
「あとは、リアルタイムで状況が動くってことはログインしているプレイヤーとしてないプレイヤーとで差が開いちゃったりしちゃうんじゃ?」
『詳細は省かせていただきますが、プレイ時間によるアドバンテージの差はゲームを成り立たせる上で目を瞑ることになります。また、ログアウト状態のアバターの如何ですが、適切な方法でログアウトをしていただければ問題はありません』
確かに、ゲームを長くやってるのに他の人との差があまり開かないというのはあまりいい気分にはならないから仕方ないか。あと適切なログアウトっていい方だと、適切じゃないログアウトもあるってことだよなぁ……
『初期起動ということで色々とおまけをご用意しましたが、これ以上は実際に【Saga Frontier】の世界で自ら体験し、気づいていってください。それでは最後に、実験台のアバターネームを設定してください』
「シノ」
『…………登録完了。アバターネーム【シノ】、どうかこの世界、存分にお楽しみください』
『Welcome to 【Saga Frontier】――!!』




